OPTiM(以下オプティム)は、2025年1月23日に「OPTiM スマート農業サービス 2025」をオプティム 佐賀本店で開催した。オプティムの創業者である代表取締役社長および佐賀大学農学部招聘教授の菅谷俊二氏が登壇。主にドローン散布DXサービス「ピンポイントタイム散布サービス(PTS)」におけるシステムの詳細、実績のほか、今後の柑橘をはじめとした作物展開、その他のオプティムのサービスについて発表した。
散布作業工程をDX化「ピンポイントタイム散布サービス」
現在、農薬散布は地域内の生産者が集まって依頼したり、JA(農業協同組合)や共同防除組合が取りまとめて委託する共同防除となるケースが多い。その場合、従来の散布代行サービスでは依頼した側が散布地図を作成する必要があった。この散布地図の作成は手間と時間のかかる作業で、大きな負担となっていた。また、散布当日には立ち合いが必要となり、散布作業は多くの人員や時間が必要とされている。さらに共同防除では近隣一体を同時期に散布するため、圃場によっては適期に散布できない場合もあった。
こうした要望に応えたのがオプティムが提供する「ピンポイントタイム散布サービス(以下PTS)」だ。PTSは、農産物に農薬や肥料をドローン散布する防除プロセス全体を代行する国内初(※1)のサービスで、防除作業全体を “DX化” したのが特徴だ。デジタル散布地図作成、AIによる適期判定で散布日決定、パイロット調整、付添人の調整、散布作業、生産者別金額集計、請求業務など、防除プロセス全体をPTSが担う。散布価格は従来に対して同等なので、全体的にコストダウンが図れるのも魅力だ。
※1 2025年1月22日時点、オプティム調べ。全防除工程(注文書作成からデジタルマップ作成、デジタル管理による補助者なし散布、画像診断による科学的な適期フィードバック等)のDXを実現するサービスとして。
AIによる適期判定で防除効率アップ
PTSでは、AIをさまざまな散布工程に活用している。1つは生産者が記載した情報(移植日、品種)と気象予測情報を基にAIで適期判定を行うことで散布日を決定するもの。各圃場に応じて適期で散布が行えるため、従来の共同防除での一律日程による無人ヘリコプター散布のデータとオプティムが実施・検証したAIによるドローン適期散布を比較すると、着色粒による等級落ちが大幅に削減し、平均約60%の品質向上に寄与したという結果が出ているという。生産者にとっては品質が向上することで、収量が増え売り上げの向上も期待できる。
そのほか、独自のAIを用いて散布対象の地番の正確な位置を特定し、散布効率のよいマップ作成が可能となる圃場マッチングAI(※2)などにてデジタル地図を作成し、注文情報から散布進捗までほぼすべての情報をPTSシステム上から閲覧・検索・編集が可能だ。もちろん当日の散布進捗を確認することもできる。
※2 散布デジタルマップ(特許出願中)
ドローンパイロット側にも作業を円滑に行うための支援として、独自のAIが18万にも及ぶパターンを演算し、パイロットのシフト管理、当日散布を効率的に行うための最適な散布ルート、圃場から圃場への移動ルート支援など(※3)を行い、時間内に作業を完了するサポートが用意されている。
※3 パイロットルーティング(特許出願中)
散布のプロを育成 ドローンパイロット育成カリキュラム
オプティムではPTSに対応するドローンパイロットを、同社独自のトレーニング「スキルアップ講習」で育成している。内容は機体メーカーが行う認定講習に付随する形で行われるが、それに加えて農薬の効能や取り扱いなど実践的な内容が含まれている。ドローン初心者でもスキルアップ講習を修了することで仕事を請け負える可能性もあるという。オプティムが共同防除を受注すると、登録パイロットとマッチングするので、パイロットは営業活動をする必要がなくなる。独自のグレード制もあり、高グレードになると報酬額も上がるという。農薬のドローン散布請負事業を志すならば、同社の育成カリキュラムを受講し、パイロット登録の検討をしてもいいだろう。
2024年度「ピンポイントタイム散布サービス」の実績
PTSの2024年度の水稲防除における実績では、26府県133市町村のエリアにて、約100防除組合・JA等が約2万6000ha、約11万圃場に導入し、国内ドローン散布サービスにおいて最大規模でシェアNo.1(※4)となり、全国の約20%のJAで採用されたと報告した。また、利用者の94%以上が2025年度の継続利用意向を、92%以上が利用拡大の意向を示したという。
※4 2025年1月22日時点、オプティム調べ
柑橘類をはじめとしたPTSの対応作物の拡大を目指す
最新のPTSのアップデートでは、水稲以外にも大豆・枝豆、麦、ネギ、カボチャ、サツマイモ(一般病害虫、基腐れ病)のほか、柑橘類(みかん、はっさく、不知火等)の提供を開始している。
特に柑橘類に関しては、果樹の防除は一般的に下から散布する必要があり、ドローンでの散布で効果があるかの検証が必要だった。そこで下から散布するスプリンクラーとドローンで上から散布するパターンを比較検証した。過去2年間の実証試験によると、スプリンクラーよりも効果が高いことがわかったという。ドローン散布は、3次元測量データからルートを作成し、障害物を回避しながら、むらなく・安全に防除を行える。菅谷氏は「果樹は機械化が進んでいません。夏の作業は多く、生産者の負担が増える傾向にあります。その作業の1つである防除を我々が請け負うことで負担軽減となり、その時間を品質向上の作業に集中することができるでしょう」と話す。
また、生産者の苦労を理解しスマート農業を活用した地域農業の担い手を目指して、2023年に設立した「オプティム・ファーム」については、2025年度は計100ha超の圃場拡大を予定している。オプティム・ファームでは、同社のスマート農業ソリューションを用いた生産を行っており、PTSのほか独自開発したドローンによる「打込条播栽培」実証栽培も同ファームで取り組んでいる。
菅谷氏は「実際に農業を行うことで、どういったことがDX化できるか検証しています。また、地域の担い手として持続的な農業経営を行い、地域雇用の促進、特に若者が根付く取り組みを実施していきたいと考えています。最新のスマート農業に触れてもらい、技術を学びスマート農業の担い手を目指します」と話した。続けて、「日本のすべての産業において、人口減少とそれに伴う労働人口の減少、少子高齢化、地域格差の拡大などの課題が山積しています。農業は国の重要な基幹産業です。AI・IoT・ロボットを使って、“楽しく、かっこよく、稼げる農業” の実現に向けて取り組んでいきます」と菅谷氏は語った。