写真:来場者で座席が埋まった会場の様子

 日本水中ドローン協会は10月3日、東京都(秋葉原)にて「水中ドローンフォーラム2025 ―水中ドローンと社会実装の未来―」を開催した。同イベントは、第1部の講演セッションと第2部の懇親会で構成され、全国から150名以上が来場した。

協会の歩みと市場観――人材育成を核に「ニーズ×シーズ」を結び直す

写真:壇上で話をする小林康宏氏
一般社団法人 日本水中ドローン協会 代表理事 小林康宏氏。

 オープニングでは、日本水中ドローン協会 代表理事の小林氏が同協会の現状と今後の展望を発表した。

 協会は2019年の設立以来、「普及啓発・人材育成・市場拡大・ネットワーク構築」を軸に、体験会や講習、展示・イベント、会報誌「水中通信」の発行を継続。2021年の日本財団「海と日本PROJECT」への参画をはじめ、2023年には内閣府AUV官民プラットフォームへ参加、さらには2024年に海における次世代モビリティに関する産学官協議会に参画してきた。現在、認定スクールは全国50校に広がり、ライセンス保有者は2000名を超えている。

 小林氏は、人材育成においては「現場で安全に運用できる専門家を増やすこと」と「人材の裾野が市場の熱量を押し上げること」の二点を目標に取り組んでいると説明した。水中ドローンの販売は、インフラの老朽化や人手不足の対策を目的に「2025年にかけて年平均27%超の伸びが報告されている」との見通しを示し、藻場計測や上下水道管路点検などの、相談テーマの具体化と多様化が並行して進んでいる現状を共有した。

 さらに同協会は、2024年から水中ドローンの総合イベントである「OceanBiz」を、「BLUE ECONOMY EXPO」(主催:マリンオープンイノベーション機構)と同時開催している。また、米国の教育NPO「RoboNation」との連携に向けた意見交換も開始している。

 水中ドローンの市場展望について「インフラの老朽化や人手不足といった社会課題の解決において、水中ドローンへのニーズは非常に高まっています。そして、ユーザーの増加や技術向上、国の推進によって環境が整ってまいりました。1月に八潮市で発生した道路陥没事故を背景に、上下水道に関する管路点検の相談も増えてきている傾向が見られます。また、当初から変わらず、発電所、水産ダム、水道に関連する市場へニーズは継続しているのを実感しております」と報告した。

大阪湾での海底プラごみ調査――“低コスト×実用”の手法を積み上げる

写真:壇上で話をする村岡俊季氏
京都大学大学院 総合生存学館 グリーンケミストリー&サーキュラーエコノミー研究会 村岡俊季氏。

 基調講演の1回目は、京都大学大学院 総合生存学館 グリーンケミストリー&サーキュラーエコノミー研究会 村岡氏が登壇した。

「水中ドローンを用いたマクロプラスチックの検出」概要図

 村岡氏は、沿岸域の海底に沈降・堆積するプラスチックごみの分布把握に、水中ドローンという“扱いやすい計測ツール”を導入して活動している。水中ドローン(CHASING M2S)にディスタンスロックソナーを下向きに搭載し、海底からの距離を一定に保って調査を行う。カメラの視野幅と移動速度を掛け合わせ、単位時間あたりの撮影面積を推定、目視同定できる2.5cm以上のごみをカウントして密度(個/ha)を算出する。大型有人潜水調査に比べ、沿岸近傍の機動調査と圧倒的なコスト削減に利点があるという。

 一方で、ソナーのログ機能不足、濁り・海流・底質の影響など、水中ドローンの現場ならではの課題も洗い出された。東京湾の初期調査では泥の巻き上がりで撮影が難航したが、底質が砂の海域では良好な結果を得ることができたという。大阪湾では湾岸の砂浜を取り囲むように複数点を調査し、南側で密度が高い傾向を確認。海流に運ばれた結果として分布が形成される仮説が補強された。重回帰分析では統計的有意は限定的ながら、水深の深い地点で密度が高まる傾向が示唆された。

水中ロボット技術の社会実装――“帰ってくるまでが研究”の現実

写真:壇上で話をする石井和男氏
九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授 石井和男氏。

 続いて、九州工業大学 大学院生命体工学研究科 教授 石井氏が基調講演を行った。

「水中ロボットの導入が期待されている作業」概要図
「水中ロボットの種類と難しさ」概要

 石井氏は、水中ロボットが直面する本質的難題を端的に示した。水圧、光・電波の減衰、自己位置推定の高コスト、色再現性の劣化、どれも“水中”という媒体が課す制約だと話す。歴代の高性能AUVが「帰還できなかった」事例にも触れ、信頼性の壁を率直に提示する。

 具体的な研究として、①燃費悪化や外来生物移送の要因となる付着生物対策を狙う船底清掃ロボット、②海底生物サンプリング(超音波通信の帯域制約下での映像伝送・画像処理)、③養殖の給餌最適化(魚群の行動解析と深度推定)を紹介。船底清掃では、船体の複雑な形状に追従するため浮心と重心を近づけた清掃ロボットの設計に挑むが、制御は難度が上がる。位置推定には片道LBLを使用するものの、さらなる工夫が必要だという。通信はパナソニックと共同で、2MHz以下帯のWavelet OFDMを開発し、4~5mで1Mbpsの映像伝送に成功している。

駿河湾テストフィールド構想――“使える実証”をワンストップで

写真:壇上で話をする渡邉眞一郎氏
マリンオープンイノベーション(MaOI)機構 専務理事兼事務局長 渡邉眞一郎氏。

 次に、マリンオープンイノベーション機構 専務理事兼事務局長 渡邉氏が、駿河湾テストフィールド構想について講演した。

「MaOIプロジェクトとMaOI機構」概要

 静岡県の出資によって設立されたマリンオープンイノベーション機構(MaOI機構)は、清水港を起点に海洋研究やBlue Economy、連携促進を三本柱として推進している。清水港は日本最深級の駿河湾に面し、東京圏からのアクセスも良い。2021年度の「海の次世代モビリティ」実証で水中ドローンの港湾点検を行ったのを契機に、港湾管理者・自治体・商工会議所と連携し、実証手続きをワンストップ化。さらには、清水港全域から適地を柔軟に選び、関係者調整や基礎調査も支援する“使える実証フィールド”を整備した。浅場(3~10m)が中心ではあるが、沖合・深場の提供に向けた調整、機材置場や調整スペースなど付帯設備の常設化も検討が進んでいるという。

「清水港の実証フィールド利用エリア(実績)」を示した地図

 ユーザーに水中ドローンについてヒアリングしたところ、導入については「濁りで可視性が低い」「位置特定が難しい」「付着生物除去ができない」「潮流で操縦困難」「有線は不便」といった障壁となる意見が多数あったという。求める性能は「画像鮮明化、位置特定、自動化・遠隔、海生生物の除去」とされ、今後に期待が寄せられていることが分かる。

 渡邉氏は、地元のものづくり企業と外部研究者の橋渡し役を強調し、「近い将来、潜水士不足が顕在化する。現場に効く新ツールの社会実装を後押ししたい」と展望を語った。