三菱重工は10月1日から3日の期間、東京ビッグサイトで開催された「危機管理産業展(RISCON TOKYO)2025」で、東京消防庁と共同開発中の「消火活動用ドローン」の試作機を初公開した。
炎の最前線へ 三菱重工が「空からの消火」実現へ一歩
この取り組みは、東京消防庁が今年度のプロジェクトとして「全く新しい消防戦術の樹立を目指し、迅速かつ効果的に火災現場に対応できるドローンを研究開発する」ことを目的に公募した共同開発事業の一環であり、6月に三菱重工が採択された。火災現場への迅速かつ安全な対応を実現することを目指しており、従来の消防活動を大きく変える可能性を秘めている。
開発中のドローンは次の2機種で構成される。
- 放水型ドローン:狭い空間にも対応できる小型軽量タイプ。地上から給電しながら継続放水が可能。
- 薬剤投てき型ドローン:火点に向けて消火剤を正確に投下できるタイプ。
両機体は共通の飛行ユニットを採用し、下部モジュールを「放水」または「投てき」に交換することで現場の状況に応じて使い分ける構成となっている。
東京消防庁が提示する性能要件では、飛行性能として地上20m以上の高度で安定飛行し、消火活動を行うドローンとしている。
- 放水型は「水平方向12m以上の距離での継続放水」
- 投てき型は「5m以上離れた位置から1平方メートル範囲内の標的への薬剤投下」
上記が求められている。さらに、障害物回避や衝突防止など、安全性を確保するための機能も必須条件とされている。
中型ドローンから継承した二重反転ローターと耐熱ガードを採用
今回公開された試作機は全長・全幅ともに約1,400mm。4つのモーターを備えたクワッドコプター型で、二重反転ローターとダクテッドファン型の耐熱ローターガードを装備している。
ダクテッドファン構造は、火災現場に存在する電線や瓦礫などの障害物からローターを守り、輻射熱による損傷も防ぐ役割を持つ。また、地上からホースと給電ケーブルを接続し、水と電力を供給することで、飛行時間の制限を受けずに放水を継続できるのが大きな特長だ。
三菱重工は現在、災害時の救援物資輸送や離島・山間部への物資搬送を想定したペイロード200kg級の中型無人機を開発中であり、今回の消火ドローンにはそのモーターやプロペラなどの要素技術が応用されている。
同社はこれまで培ってきた無人航空機技術と制御ノウハウを消防・防災分野に転用することで、実用的かつ信頼性の高いドローンシステムの構築を目指している。
担当者は、「はしご車などが入れない現場での使用を想定し、できる限り小型化した機体を目指しています。すでに飛行試験は行っており、今後は放水や投てきのユニット構造を詰め、今年度中の完成を目指しています」と話す。
人が立ち入れない火点への初期消火、トンネル火災や高層建築での対応など、従来の消防活動の限界を超える手段として、ドローンの活用は大きな期待を集めている。
三菱重工と東京消防庁によるこの共同開発は、空からの消火という新しいアプローチを現実のものとし、次世代の消防・防災活動の可能性を切り拓く試みとなりそうだ。
#危機管理産業展2025 記事
