ムーンショットと懸賞金事業――“広範囲×短時間”計測でブルーカーボンを加速

写真:壇上で話をする青山智佳氏
国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO) フロンティア部 ムーンショットユニット 主査 青山智佳氏。

 続いて、NEDO フロンティア部 ムーンショットユニット 主査 青山氏が登壇。

 青山氏は、地球温暖化のティッピングポイントやプラネタリー・バウンダリーを俯瞰し、ムーンショット目標4(2050年までに地球環境再生へ向けた持続可能な資源循環を実現)とNEDOの取り組みを紹介した。

「世界の炭素循環(CO₂収支)」概要図

 京都大学・植田氏らによる「大型藻類の高速CO₂固定と利活用」プロジェクトでは、海中の大型藻類が持つ高いCO₂固定能力(大気中の二酸化炭素を吸収して炭素として蓄え、固定する能力)に着目し、酵母改良によるバイオエタノール変換の効率化を進める。鍵は浅海域(~15m)に広がる数十ha規模の藻場モニタリングだ。

「懸賞金コンペティション(案)」概要図

 そこでNEDOは、懸賞金活用型プログラム「広範囲な浅海における短時間計測・観測システムの開発」を立ち上げる。大型藻類の生育状況や船底付着生物の把握などを対象に、ROV/AUV、ASV、空撮ドローン、衛星、センサー等の“手段は問わない”競争的枠組みで、一次(要素技術)→二次(複合)→三次(実測・総合)と段階的に評価。三次の最優秀は植田プロジェクトに計測事業者として参画する道が開かれる。学生賞の設定など、裾野拡大も織り込む。青山氏は「目的が達成できるなら手段は問いません。自分の装置がどう貢献できるか、足りない部分は何かを考えてほしいです」と語り、11月11日に静岡県で開催される「Ocean Innovation Day 2025」では、屋内での制度説明やLT、ネットワーキングに加え、屋外デモでROV・ASV・ドローンを体感できるプログラムを準備する。「このイベントをきっかけに、装置同士が補完し合う出会いが生まれてほしいです」と呼びかけた。

国交省の取り組み――“点の実証から面の展開へ”、ルールと人材を伴走させる

写真:壇上で話をする竹内智仁氏
国土交通省 総合政策局 海洋政策課 課長 竹内智仁氏。

 最後に社会課題の解決やインフラ整備をテーマに、国土交通省 総合政策局 海洋政策課 課長 竹内氏が講演した。

「沿岸域・離島地域の海域管理・利用をめぐる状況」概要

 国交省は海域の管理・活用、インフラ整備、海事産業振興を所管。人口減少・担い手不足、インフラ老朽化、海洋環境変化、そして洋上風力など新需要の拡大を背景に、2020年からROV/AUV/ASV等「海の次世代モビリティ」の社会実装を産学官協議会と実証事業で推進してきた。

 2024年度の代表的なユースケースとして、ASVによる赤潮の早期検知、空海ドローンでの養殖被害対策、AUV×音響の漁場計測、水陸両用ドローンの治水施設点検など、多様な現場課題に対して技術を投入している。

 国交省では、港湾・ダム等の現場に向けたアンケートを実施。25%が既に次世代モビリティを利用している(ROVが82%、ASVが15%)。導入理由は効率化・省力化と安全性を意識したものだ。一方、課題は「変化抽出など作業機能の不足」「泥を巻き上げない機体設計」「高精度測位」「簡易な付着生物除去」「運用・点検ルールの未整備」「ITと土木を橋渡しする人材不足」などの回答が寄せられたと報告した。

 今後は、①性能水準の底上げ、②点の実証から面の展開(地域内の関係者連携・迅速な実証枠組み)、③データ活用とBlue Economy(ブルーカーボン等)を織り込んだ将来ビジョンの共有が鍵になる、とした。許認可の煩雑さやフィールド不足への対応と合わせ、国交省は実装の“受け皿”を広げていく考えだ。

交流と展示――“現場解像度”を上げる対話の時間

写真:展示されたドローンなどをながめる来場者
講演に加え、水中ドローンに関連する製品・サービスの展示も行われた。

 来賓として、内閣府 総合海洋政策推進事務局 参事官 金子氏、日本エレクトロニクスショー協会 執行理事・理事 鹿野氏が挨拶。ロビーには協賛企業(ジュンテクノサービス、JOHNAN、東京久栄、ミサゴ、スペースワン)がブースを構え、水中ドローンの機体や水上スライダー、撮影・計測機器を展示。休憩時間には来場者が機材に触れ、担当者へ具体的な質問を投げかける姿が目立った。