東京都板橋区に2024年9月に竣工したMFLP・LOGIFRONT 東京板橋。敷地面積9万平方メートルを超える広大な物流施設だ。その一画には東京都内初となる物流施設併設型ドローン実証実験場「板橋ドローンフィールド(以下、板橋DF)」が設けられ、ドローン・ロボットソリューション開発を手掛けるブルーイノベーションが運営に携わる。また同社は、研究開発(R&D)拠点を施設内に入居させることとし、「クラウドモビリティ研究所」を開所した。同所ではドローン・ロボットの連携システムや、ドローンの離着陸地点であるドローンポートの研究などを進める方針だ。2024年12月6日、お披露目会が執り行われた。
企業同士の交流や技術の共同開発に期待
MFLP・LOGIFRONT 東京板橋1階のドローンラウンジで開催された会見には、まずブルーイノベーションの熊田貴之社長が登壇し、板橋DFとクラウドモビリティ研究所の開設の経緯を説明した。同社は従来からシステム開発の拠点を板橋区内に置いていた関係から、MFLP・LOGIFRONT 東京板橋の開発を手掛けた三井不動産や日鉄興和不動産から打診を受け、ドローンのテストフィールドの開設を提案。熊田社長は「当時、ドローンのテストフィールドはとても遠い場所ばかりでした。この施設が完成すれば、都心で大規模に様々な実験ができるようになるので提案しました」と当時を振り返った。
熊田社長は板橋DFのコンセプトを「人と人をつなぐ場所。そして人と技術をつなぐ場所」だと話す。MFLP・LOGIFRONT 東京板橋にはスタートアップ企業やソリューションサービスプロバイダーが入居可能な研究拠点(賃貸用R&D区画)が設けられている。ドローンやロボットソリューションを扱う入居企業が板橋DFの活用を通じてマッチングされ、新しいイノベーティブなビジネスが生まれることが期待されている。その模範を示すべく、まずはブルーイノベーションのシステム開発部門が入居し、クラウドモビリティ研究所がオープンする運びになった。
施設内の構造物を使った技術開発と人材育成
次にクラウドモビリティ研究所所長を務める熊田雅之副社長が、同研究所の解説を行った。まずは開発チームの紹介。現在、開発チームには日本をはじめ、ポーランドやフランス、スペイン、インドといった世界各地から多士済々の人材が集まっている。彼らはセンサーから最良の数値を取り出しデバイスに渡す「センサーフュージョン」や、機器自身が自己位置を特定して地図を作り出す「SLAM」といったスキルを各々が取得しているという。これらの技術が扱えるエンジニアは世界で争奪戦が繰り広げられており、ブルーイノベーションとしても世界に目を向けながら人材確保に動いている。
熊田副社長は施設を活用するうえで期待していることについても言及。MFLP・LOGIFRONT 東京板橋は物流施設だが、屋上には太陽光パネルが設置されていたり、道路から物流棟へのアプローチ部分が橋梁になっていたりと、ドローンによる点検業務の検証に活用できる部分が多くある。熊田副社長は「我々の事業分野で非常に問い合わせが多いのが、点検と防災です。その技術開発を行うために飛ばせる場所が施設内に多くあるので、研究に役立てたい」と考えを述べた。また、ブルーイノベーションとJUIDA(日本UAS産業振興協議会)、および国内のドローン機体メーカー4社は、2024年6月に各社の産業機の実践的な操縦や運用に関する教育の提供について戦略的提携MOUを締結している。2025年1月からは板橋DFにてテスト講習を開始することがアナウンスされたが、その際には板橋DFだけでなく、機体の使用用途に合わせて施設内の場所で講習などが開催される見通しだ。
DJI Dockによる太陽光パネルの点検デモを実施
会見の最後には「高性能ドローンポートの研究開発」をテーマとしたパネルセッションが開催された。モデレーターを熊田副社長が務め、パネリストとしてVFR戸國英器取締役、プロドローン児島志侑営業部長、Cube Earth玉置三紀夫IT営業コンサルタントが出席。熊田副社長はセキュリティ面を考慮してドローンポートの国産化を目指したほうがよいと話したほか、汎用性と拡張性に言及。異なるタイプのドローンが一貫して使用できる設計や、国際標準化を視野に入れた開発を進めることの重要性を語った。
パソコンブランドであるVAIO株式会社の新規事業としてスタートし、ドローンの製造受託などを行うVFRは、ドローンポートにPC開発で培った技術が応用できることに着目。野ざらし、雨ざらしにされるドローンポートの耐久性向上には、持ち運びなどによって衝撃を受けるスマートフォンやPCの開発で培った知見を採り入れたい考えだという。
愛知県名古屋市に拠点を置くプロドローンは、機体開発に関してハードウェア、ソフトウェアの両面から取り組んでいる。国産機にはセキュリティ能力の高さが求められると表明した。また、多数の場所にドローンポートが設置される将来を見据えて、飛行中のドローンのバッテリー残量に応じて使用するドローンポートを決めるといったルールを設定する大切さについても触れた。
Cube Earthはドローンポートの上空管理に関する技術を持つ。今後のドローンポートは、人が行きにくい場所でありながら、法令等で定期的な点検が求められている作業に活用することを提案した。とくに鉄道の線路では、一定以上の震度の地震発生後に点検を行うことが義務付けられており、その作業をドローンポートの利用により自動化することを提案した。
会見後には、ブルーイノベーションが提供しているドローン・ロボットソリューションの視察へ。その中でも筆者の印象に残ったのは、屋内空間の点検に利用されるドローン「ELIOS 3」と、ドローンポートのデモンストレーションだ。
ELIOS 3のデモは物流棟の下部にある配管等が通るスペースで行われた。粉塵が舞うためマスクを着用しスペースの中へ入ると、球体ガードをまとうELIOS 3がすでに飛行していた。屋内環境下で衛星からの位置情報取得は不可能。それにもかかわらず安定して飛行している姿には頼もしささえ感じる。LEDライトは点検部位を照射するには十分な明るさだ。案内用に設置されたモニターにはELIOS 3に搭載されたカメラからの映像が映し出されていたが、点検部位をはっきり見て取れた。映像から目視でクラック等の損傷を見つけることは難しそうだが、各種センサーからの情報と映像から読み取れる情報を組み合わせて、点検部位の状態を適切にチェックできると理解できた。
ドローンポートのデモは、物流棟の屋上に場所を移して行われた。ここには「DJI Dock」が常設されている。今回のデモでは屋上に設置された太陽光パネルの上空をあらかじめ設定した航路に沿って飛行し、点検を行うと想定して実施。参加者が間近でデモの様子をチェックするなか、警告音とともにポートがオープンするや、搭載された「DJI Matrice 30T」が飛び立ち、直ちに太陽光パネルの上空へ。パネル上空を素早く1周してポートに着陸した。なお「遠隔地からドローンポートを活用して点検業務を行う」というデモンストレーションを地方で実施する際にも、この屋上が活用されているという。熊田副社長は「1月から始まる産業機の講習でもこの太陽光パネルを活用する可能性があります」と説明。実践的な訓練が行われると期待できる。
担当者によれば、物流棟屋上におけるドローンポートを利用した飛行について、包括申請を行い許可・承認を取得しているという。第三者の立ち入りを厳格に管理できる屋上という空間だからこそ、困難といわれるドローンポートの包括申請による許可・承認が取得できたのではないかと推察する。一帯はドローンの飛行が通常禁止されている人口集中地区(DID)であり、実際、屋上からは東京北部の市街地が広がる様子を見渡せた。現地はいわばドローンの「最困難飛行地域」であり、そこで高レベルな飛行が日常的に行われているわけだ。クラウドモビリティ研究所の開所と研究の進展により、ドローンポートや点検分野におけるドローン活用の取り組みは確実に加速していく。それが実感できるデモだった。