GMOのブースで、ひときわ目立っていたのが米国LIFT AIRCRAFT(以下、LIFT社)の1人乗り用eVTOL「HEXA(ヘクサ)」だ。こちらは、大阪・関西万博で空飛ぶクルマを運航する事業者に選定されている総合商社の丸紅エアロスペースが取り扱っているが、GMOのセキュリティソリューションを検討中ということもあり、GMOのブースで展示されていた。
30分の講習で操作をマスター、将来的に1人で空中散歩ができる?
このHEXAは、米国航空当局が定める「ウルトラライト級」の認可を受けるために、全長4.5m×高さ2.6m、総重量約221kg、積載量が約113kgと小型軽量で、シンプルなデザインになっている。18基のロータで浮上し、巡航速度は約40~100km/時、航続距離は約25kmだ。バッテリは各ロータごとに取り付ける仕様になっており、一度に複数分を充電できるチャージャが用意されている。
気になる値段だが米ドルで50万ドルなので、日本円にして7000万円超というところ。個人は難しいかもしれないが、企業でならば1台持つことは可能な価格設定だろう。
もともとLIFT社は、米国では老舗のドローンメーカーで実績もあるという。ロサンゼルスなどの大都市は、自動車の交通渋滞が酷く、通勤時間がかかるうえ、かなり大気汚染も進んでいる。クリーンな電動ドローンで空からアクセスできれば、渋滞や環境の問題を解決できる。ただし、コンセプトが良くても法制化すべきハードルもあるため、今すぐに通勤に使えるというわけではない。最初は遊覧飛行ビジネスからスタートする予定だ。
1人乗りなので、利用者がドローンに乗り込み、地上の管制システムからオペレータが操縦して安全範囲内で遊覧飛行を楽しんでもらったり、利用者自身が操縦して飛行したりすることも可能だ。ウルトラライト級なので飛行免許は不要だが、安全性の確保もかねて30分程度のフライトシミュレータ講習を受ければ、簡単に扱えるようになるそうだ。
ゲームコントローラのような操縦桿で操作でき、上昇や着陸は自動なので安心だ。取り外しが可能なタブレット型ディスプレイに高度や飛行速度などが表示される。操作が容易なことから、時間割での貸し出しなども想定しているという。
LIFT社では、遊覧飛行や通勤などのビジネス目的のほか、新産業を創出したい意向だ。米国空軍からも資金提供を受け、軍事目的での使用も想定される。担架を取り付け、戦場でケガを負った人を後方に搬送したり、前線に物資を運んだりすることも可能だ。
万が一の事故でも人命に大事がないように、四重の安全策を打つ
やはり人間が搭乗することになると、もっとも気になる点は安全性だろう。そこで今回のeVTOL・HEXAでは、四重の安全策が練られており、万が一の事故でも人命に大事がないように工夫を凝らしているという。
1点目の安全策は、18基のロータのうち6個が何かのトラブルで停止しても、飛行に影響がないように作られていることだ(ただし、ロータが1カ所に偏って停止した場合はバランスを崩すこともあるという)。2つ目の対策としてパラシュートを搭載しており、一定高度以下に落ちると自動的に開く仕掛けになっている。3つ目は着陸時にソフトランディングできるように衝撃吸収用ダンパーを装備していることだ。
4つ目の対策は「ジオフェンス機能」を搭載している点である。仮想的な境界線で囲んだエリアに、GPSやWiFiなどの位置情報データを使用した移動体が出入りすると、それをトリガーとしてイベントを発生する仕組みだ。たとえばドローンならば、3次元空間に飛行範囲を設定し、その範囲以外は飛行を制限することで、操縦者が危険な場所に行かないように抑止できる。
すでに国内3カ所で実証実験済み! GMOの熊谷氏が初パイロットに
HEXAは、この3月に大阪(大阪城公園)1カ所と愛媛(新居浜と今治)の2カ所で飛行実験に成功したばかりだ。実は本ブースのGMOインターネットグループで代表を務める熊谷正寿氏がテストパイロットとして搭乗し、HEXA単体でも安全に飛行できることを身をもって証明した。
ただし、HEXAが2025年に開催する大阪万博で使われるかどうかは、いまのところ未定だという。米国では認可されているものの、エアタクシーなど人が搭乗するeVTOLは、まだ開発途上の段階であり、現在の航空機ではないカテゴリーとして型式証明を取る場合には、明確な規定も定まっていないからだ。その規程が定まったとしても、2025年までにクリアできるかというと、どのメーカーも時間的には厳しいかもしれない。しかし2025年以降、そう遠くない将来にはレジャー用途などで使われているかもしれない。
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