SABOTはすでに電力会社や通信会社で導入されている。例えば、鉄塔の補修などにおいて黒錆転換剤の塗布に使用されているという。赤錆を科学的に安定している黒錆に転換し、腐食の進行を抑制、乾燥後ラテックスによるゴム皮膜を形成し保護することで多少の水などにも対応できるようにする。

黒錆転換剤塗布サンプル。

 次に、コンクリートの補修剤として使われるのが表面含浸剤だ。水などに反応してゲルを形成するため、コンクリート表面のマイクロクラックに対し吹き付け、浸透することで微細なクラックを埋めて保護効果をもたらす。例えば、ドローンが点検で見つけたコンクリートの小さな傷は、これまでそのために足場を組むことはなく放置し、その後の点検で大きな傷になってから補修していたが、SABOTを活用すれば、早期補修が可能となり、小さな傷を小さなうちに埋めていくことができる。その結果、コストもかからず補修までの期間を延ばすことができるという。

表面含浸剤サンプル。
スプレー缶を取り替えることで多種多様な作業が可能になる。左から鳥用忌避剤、黒錆転換剤、マーキング剤、表面含浸剤、SABOT用スプレー缶の構造Bag On Valveのサンプルを展示。既存の可燃性の液化ガスを使用したスプレー缶ではなく、アルミパウチ製の内袋と高圧の窒素ガスが封入された二重構造方式の採用により長射程かつ安全なスプレー缶を開発した。

 塗料で対象物の特定箇所に印を付けることができるマーキング剤は、サーマルカメラと併用が可能。目に見えない傷などの補修箇所にマーキング剤を噴射し印をつけることができる。ノズル部分は上下左右に可動するため、ノズルを下に向け、地面に絵を描くようなマーキング作業もできる。GNSSで座標を指定し、DJI Pilotのウェイポイント飛行機能を使用し自動航行と組み合わせることにより、これまで測量や植栽穴のマーキングなど人の手で行っていた山の斜面に等間隔で木を植えるような作業も、SABOTを利用して植栽穴の自動マーキングを行い、省力的な造林技術として活用した例があるという。

 鳥用忌避剤は、主成分としてハーブ臭や辛味成分などを配合することにより鳥類の忌避効果を発揮する。実際に、ハトの糞害対策として、会社エントランスにて、裸木に鳥用忌避剤を噴霧したところ、3カ月後には効果が現れたという。忌避効果は3カ月から1年程度持つとされ、送電線へのカラスの営巣や駅周辺の鳥害対策などさまざまなシーンでの活用が期待される。

 SABOTは、DJIの汎用ドローンに対応しているため価格や導入コストが抑えられるというメリットがある。装置の付け外しができるため、通常点検などで使用している機体に取り付け、必要な時に噴射装置として活用ができる。さらに、現在開発中のSABOT-miniは、容量や機能を最適化し、単体で駆動する小型噴射装置で、装置重量は230g(スプレー缶・電池含む)、軽量でアクションカメラ互換のマウントを備えているため、DJI Mavic 3やACSL社の蒼天など、さまざまなドローンに装着することができるという。

小型噴射装置「SABOT-mini」。マウントはアクションカメラ互換設計のため、ドローンに限らず、ロボットやさまざまな装置、写真右のように三脚にも取り付けることができる。
専用リモコンで遠隔操作が可能。最大通信距離は見通し300m。照準用のレーザーポインタ(赤)が的をとらえている様子。
SABOT-miniのデモンストレーション映像。

 SABOT-3は冬期販売を目指して開発を進めており、小型のSABOT-miniは展示会の反響などに基づき製品化を検討していくという。来場者の反応は好評で「使っていない手持ちのドローンで活用してみたい」という意見や自社開発を行っているドローンメーカーからも「導入しやすい」といった反応があるという。

 担当者は、「ドローンでスプレー缶の噴射を行うというサービスは過去に例がなく、実績を作るためにドローンのサービスプロバイダーや薬剤メーカーと協業し開発を進めている」という。実際の活用例を見ても、ドローンに「作業性」を与え、スプレー缶の内容物を取り替えるだけで、ドローンの利活用の幅が拡大しているのがわかる。ドローンの活用が進む中、各分野で利用者のニーズや課題は多岐にわたる。今後の実用化に向けた取り組みに期待したい。