今この文章を読んでいる人は、「ドローンを活用したビジネスってこれからどうなるの?」「ドローンのビジネスってどの分野が有望なの?」など、ドローンのビジネスに何らかの関心を寄せている人が多いと思います。そんな方々に向けた新たな情報発信の場になればと思い、連載をスタートさせました。ドローン関連技術の知財を分析することで読み解けるワクワクするドローンの未来をお送りできればと思っています。
みなさん初めまして、株式会社DRONE IP LAB代表取締役 弁理士の中畑です。連載第1回のテーマは、そもそも世界のドローンの特許事情はどうなってるの?というところから広い視点で解説していきたいと思います。なお、記事の中に出てくる専門用語にはできるだけ解説や注釈をつけて書いていくつもりですが、もしわかりにくいところ等がありましたら、ご指摘くださるとありがたいです。
大前提として、そもそも「知財」と「特許」って何が違うの?という人もいるかもしれません。学問的な定義は別として、簡単に説明したいと思います。知財は正式には「知的財産(Intellectual Property : IP)」とよばれています。「知的」財産とは文字通り頭のなかで発案されたアイデアやデザイン、ブランド等が代表的なものとして存在します。知的財産の中に、一定の条件を満たして国(特許庁)に認められた場合に生じる「知的財産権」というものがあります。この「知的財産権」の中には、アイデアに関する「特許権」、デザインに関する「意匠権」、ブランドに関する「商標権」という権利等が存在しています。

最古のドローン?!世界の特許数と現代ドローン史をカンタンにおさらい
さっそく、世界のドローン特許についてみていきましょう。図1は、1997年以降の世界におけるドローン関連技術の特許出願件数の各年出願件数(棒グラフ)と累積数(折れ線グラフ)を表したものです。グラフからわかるように、1997年以降、2012年あたりまでは、200~500件あたりで推移していたものが、2013年以降急激に増加していることが見て取れます。累積数も1万4,358件と大台に乗っており、世界中がドローン関連技術の知財に投資し始めたことがわかります。

2016年の出願件数を見ると2015年から190件しか増加していません。「あれ?ピークは過ぎたのか?」と思った人もいるかもしれません。特許出願は基本的には出願から1年6カ月経過するまでは非公開となります(国によって多少の差があります)。

例えば、2016年1月1日に出願された特許出願はその1年6カ月後である2017年6月1日に公開しますが、2016年12月31日の出願は、2018年6月1日まで公開されません。従って、2016年の出願件数はまだまだ増加するものと予想します。未公開の件数を含むため厳密に判断することは難しいですが、2016年の出願件数は8,000~9,000件くらいあったのではないかと個人的にはみています。
簡単に各年代の出願内容(技術)の変遷をみていきましょう。
<1950〜1970年代 軍事・監視用ドローンの時代>
ドローンを含む「空の特許」は、調査で遡れた範囲では1950年代に行われています。この頃に出願された発明は「飛翔体の爆発方法(特公昭61-023479)」や「対艦誘導飛翔体(特開昭61-044298)」等の軍事目的・調査目的が一定数含まれています(出願人も「防衛庁技術研究本部長」というものもあったりします)。
図3のような「空中観察装置」が1969年に日本にも出願されています。この頃に何らかの情報収集手段(カメラ、レーダー等)を搭載した回転翼機という発想はすでに存在していたということになります。発明の内容を少し抜粋すると、「本発明は、たとえばレーダーを用いて周囲の地面およびすぐ上空を探索する手段を備えた無人空中浮遊体を含む空中観察装置に関するものである。このような装置はたとえば、低空飛行をする航空機またはミサイルによる隠密攻撃を防ぐのに有効である。」となにやら物騒なことが書かれています。

ちなみに、特許法の保護対象はアイデア(「技術的思想の創作」といいます)であり、形をもたないものであってもその分野の技術者が実施可能なレベルまで具体的になっていれば、特許で保護をすることが可能です。
<1970年〜2000年代 産業用ドローンの登場>
1970年代に入ってくると、農業をはじめとする各種産業に特化したドローンが現れ始めます。

<2000年代〜 ドローン技術のカンブリア爆発>
そして、2000年以降になると、各要素技術(チップセット、制御方法、通信方法、機体)の詳細構造が出願され、特に2010年以降においては画像認識やソフトウェアとの連携・群制御や管制技術等が登場するというトレンドの移り変わりがありました。精細なカメラが搭載されたのもこの時期です。ドローンが「眼」を持ったこの時期が「ドローン技術のカンブリア爆発が起きた時期」と言ってもよいでしょう。2006年に創業された DJIがドローンの商品をリリースしはじめたのもこの頃です。


特に DJI は、機体の構造、飛行制御からプロペラの構造までドローンの基盤系要素技術を幅広く保護しており、広く堅い知財戦略をとっていることがわかります。例えば、図5のプロペラは、プロペラの回転方向に締まるようにしたことで、プロペラが回転すればするほどプロペラの脱落を防ぐことができます。また図6は、みなさんご存知のInspireシリーズの可変アームの部分です。同機が発売されたのが2015年でしたがその2年以上前にすでに特許出願していることがわかります(次回の連載でDJIの特許戦略を徹底的に分析します)。
このように、特許の出願内容を見ることによって、その時代ごとに重要視されていた技術のトレンドを見ることができます。
日本が追い抜かれる日も時間の問題!?ドローン特許出願TOP5をチェック
さて、特許出願の上位5か国をみていきましょう。

図7からわかるように、特許出願件数が圧倒的に多い国は中国です。次いで米国が2位につけており、やや差がついて欧州、日本、韓国が並んでいます。

図8は、全世界に占める上位5か国の割合を円グラフにしたものです。グラフからわかるように、中国と米国だけで世界の特許出願シェアの半数を占めており、上位5か国だけで世界の約8割を占めていることがわかります。
さて、日本は第4位でした。みなさん、この結果をどう思われたでしょうか?「日本は韓国に勝っている、そして欧州はもう少しで追い抜けそうだ。日本もなかなか負けていないぞ」と思う人もいたのではないでしょうか。

図9は、2010年以降のこの5か国の出願件数を抜粋したものです。ダントツの傾きを示すグラフは中国のものです。そして、やはり米国が続いています。そして、その次に位置するのは、韓国となっています。つまり2010年以降においては、韓国が日本と欧州を追い抜いていることがわかります。このトレンドが続くと、日本が特許出願件数の総数を韓国に追い抜かれるのも時間の問題かもしれません。
人材流出から共同研究相手まで、知財分析からわかってしまういろんなこと
新しい技術が完成したとき、他社に模倣されたくない部分については特許を取得してこれを保護します。従って、各社の特許の内容を見ることによってその会社の事業戦略や技術戦略をある程度推定することは可能です。しかし、特許公報に掲載されるものはそれだけではありません。共同出願人の名称からは「どの会社といつからアライアンスを組んでいるのか(または、いつ頃に解消したのか)」ということが推定でき、発明者の氏名からはエンジニアの数や一人当たりの出願件数、そして在籍の事実までわかってしまいます。
このように、特許公報からは、知財戦略のみならず、技術戦略や人事戦略の一端までも分析できます。
さて、次回以降、まずは三大ドローンメーカーのDJI、Parrot、3D Roboticsの特許戦略を見た上で、我々日本の特許動向はどのようになっているのかを解説します。
特に、日本においては、各プレイヤーの現在のポジションや保有してる特許の内容、そして、ドローンビジネスの古参と新規参入組との知財戦略の違い、DJIが日本においてどのような知財の防御壁を築いているのかを分析します(連載第2回〜第5回)。
その後は、あまり知られていない、特許以外の方法でドローンビジネスを保護する方法についてもご紹介します(連載第6回)。
日本の各企業について具体的に特許出願の内容を分析しながら、連載のすべてが終わる頃には、みなさんの頭のなかにはドローン戦国時代の勢力図が浮かんでいる状態を目指したいと思います。
No | テーマ |
第1回 | 世界のドローン特許の俯瞰 |
第2回 | 世界のトッププレイヤーの特許動向(DJI) |
第3回 | 世界のトッププレイヤーの特許動向(Parrot) |
第4回 | 世界のトッププレイヤーの特許動向(3DR) |
第5回 | 日本企業の特許動向 |
第6回 | まとめ&コラム(特許以外の保護の仕方) |
第7回 | 各社の特色1(伝統企業) |
第8回 | 各社の特色2(新規事業系) |
第9回 | 各社の特色(スタートアップ) |
第10回 | 各社の特色(その他) |