JISDA(日本技術安全保障戦略機構)は、海外試験場において固定翼型ドローンの実証実験を実施した。発表ではEPO素材を採用した無人航空機「Kabura」が注目されているが、この実証実験の本質は個別の機体性能にあるわけではない。

▼JISDA、軽量・低コストな発泡樹脂製固定翼ドローンの目視外飛行に成功
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1188323.html

 今回の取り組みは、日本のドローン開発、ひいては製造業のあり方そのものに対する問題提起を含んでいる。同社が重視するのは「いかに高性能な機体を作るか」ではなく、「どのような状況で、どのように使われるか」を起点に設計を考えることだ。これは昨今注目されている安全保障におけるドローンの導入において、単なる設計思想の違いとは異なり、国家的課題に対応するための重要な観点となっている。

技術偏重からの脱却──“運用を起点にした開発”という思想

 JISDAは無人航空機の分野において、技術開発と運用の橋渡しを担う東京大学発のスタートアップ企業だ。単なる業界団体やメーカーとは異なり、企業や研究機関と連携しながら、安全保障や防災といった国家的課題に対して、実運用を見据えた技術開発の推進を目的としている。同社は防衛・防災分野における実運用の知見を持ち、それを複数の企業と共有しながら各企業との橋渡しを担うというものだ。

写真:話をする國井氏
JISDA株式会社(日本技術安全保障戦略機構) 代表取締役CEO 國井翔太氏。

 同社の根底にあるのは、日本の技術開発に対する強い問題意識である。代表取締役 CEO 國井氏や同世代の社員は、いわゆる「失われた30年」の中で育った世代として、日本は技術的には強みを持ちながらも、ビジネスや運用の面で競争に敗れてきたという現実を直視している。

 國井氏は、「技術があっても、それをどう使うか、どのような世界観の中で位置付けるのかという視点が不足していた」と指摘する。つまり、特に重要なのは単体の技術開発ではなく、ユースケースと結びつけた開発だという。

 欧米では安全保障という概念が軍事に限定されず、環境や食料問題と同様に「国家的課題への取り組み」として捉えられている。米国で言えば、国防高等研究計画局(DARPA)のような組織が主導し、政府資金を投入しながら技術開発を進め、その成果がGPSのように民間へ波及する。このようなミッションドリブンの構造が海外では存在している。

 一方で日本は、防衛という文脈を避けてきた歴史的背景もあり、技術と運用を結びつける取り組みが十分ではなかった。同社はこのギャップを埋めるため、ドローン開発企業と共同研究を行いながら、「運用に即した設計」を実現するハブとして機能することを目指している。

 単なるコンサルティングではなく、自社のエンジニアが開発に関与する点が特徴であり、「運用だけ理解していても技術が分からなければ導入できない」という現実を踏まえ、両者を統合する役割を担う。

海外実証の本質は“飛行試験”ではなく“製造プロセスの検証”

 今回の実証が海外で実施された理由は、単なる実験環境の問題ではない。日本国内では電波法や技適制度、基地局の設置などに関する手続きが複雑であり、試作と改良を繰り返す迅速な開発が難しいという構造的課題がある。

 國井氏は、防衛分野のドローン開発においては「作って飛ばし、問題があればその場で修正し、再び飛ばすというサイクルを短期間で回すことが重要だ」という。しかし国内ではその都度飛行に関わる申請が必要となり、現実的にこのプロセスを実現することが困難である。そのため同社は海外の試験場を選定し、エンジニアが現地で2日間という短期間で機体を組み立て、そのまま飛行させるという実証を行った。

 ここで重要なのは、「どれだけ高性能な機体を飛ばせるか」ではなく、「どれだけ短時間で必要な機体を構築できるか」という点である。防衛用途を含む現場では、状況に応じて迅速に機体を用意し、任務を遂行する能力が求められるためだ。


 実証では航続距離や通信距離の確認も行われたが、特定の用途における性能評価は主目的ではない。むしろ、用途ごとに異なる構成の機体を短時間で再現できるかどうかが検証の中心となっており、今回の実証を通じて短期間でKaburaを組み立て、運用することが可能であることを確認した。

EPO素材が象徴する“アジャイル設計”とライフサイクル思想

写真:飛行する固定翼ドローン
実証を行った「Kabura」は、低コストで簡易的に組み立てられるドローンだ。

 今回の機体に採用されたEPO素材は、発泡スチロールに近い性質を持ちながら、より高い強度と衝撃吸収性を備えている。この選択もまた、従来の産業用ドローンの基本設計である「高品質・高耐久」志向とは異なる思想を反映しており、防衛分野において優先される安価で任務を遂行できれば良いという考えのもと作られている。

 國井氏は「ドローンのコスト構造を見れば、ボディよりもセンサーや通信機器、電子部品の占める割合が圧倒的に大きい。そのためJISDAは、ボディを低コストかつ交換可能にし、内部の高価なコンポーネントを再利用する設計を採用した」と話す。

 具体的には、訓練や試験中に墜落した場合でも、EPO素材が衝撃を吸収することで内部の基板や機器が生き残る可能性が高まる。その結果、機体全体を廃棄するのではなく、外装のみを交換して再利用することが可能になる。

 さらに重要なのは、こうした設計が「作り直すこと」を前提としている点だ。防衛や災害対応の現場では、機体は消耗品として扱われる場合もあり、限られた部品の中で修理や改良を繰り返しながら使い続けることが求められる。

 また、素材の多様化はサプライチェーンの観点でも意味を持つ。例えば、EPO素材は石油由来であり、現在緊迫している中東情勢の影響を大きく受けている。これを木材やFRPといった代替素材を含めて複数の選択肢を持つことが調達リスクの低減につながる。

 品質と耐久性を求められる産業用ドローンではカーボンや樹脂、アルミなどの限られた素材を用いることが重要だが、防衛分野ではチープな素材であっても調達や再利用のしやすさを優先した設計が必要となる。

“高性能至上主義”の終焉とミッション適合型設計

 國井氏が繰り返し強調するのは、「高性能であることが必ずしも最適ではない」という点である。従来の日本の製造業は性能向上を追求する傾向が強かったが、ドローンにおいては目的に対する適合性の方が重要になる。

 例えば、長時間飛行が必要なミッションもあれば、高速での移動が求められるケースもある。すべてを一機で満たすのではなく、ペイロードや構成を柔軟に変更し、必要な機能だけを組み合わせる方が合理的である。

 防衛用途においては特にこの傾向が顕著であり、「ミッションを達成できるかどうか」が最優先となる。 今回の実証でも、「早く作る」という概念は単に同一機体を大量生産することではなく、「ニーズに応じた構成をいかに迅速に再現できるか」という意味で使われている。この発想は、従来の量産型製造とは大きく異なる。

次の段階は“群”と“統合運用”へ

 JISDAはすでに次のステップとして、異種無人機の統合制御に取り組んでいる。空中ドローンと水上ドローンを組み合わせた群制御の実証を進めており、個別機体ではなくシステム全体としての最適化を目指している。

 この取り組みでは、すべての機体に高価なセンサーを搭載するのではなく、一部の機体に搭載し、その情報を共有することで全体のコストを抑えるという考えのもと、実証が行われている。

 また、コンソーシアム「RISE」を通じて、機体開発にとどまらず訓練や運用までを含めたパッケージの構築も進めている。防衛用途における訓練は高度な操縦や機体修理の知識を必要とするため、単なる機体提供ではなく、運用能力そのものの底上げが重要となる。

 このコンソーシアムには、ドローンメーカーだけでなく、気象データやデジタルツイン、衛星データなどを扱う企業も参加しており、ドローン運用を支える情報基盤全体を統合する構想が描かれている。

日本に求められるのは“使う技術”の再構築

 今回の実証が示したのは、新型ドローンの優位性ではない。むしろ、日本がこれまで十分に取り組んでこなかった「運用を起点とした技術開発」の重要性である。JISDAは、ウクライナに長期滞在し、実際のドローン運用を現地で調査してきた。その中で強く感じたのは、「完璧なものを作ること」よりも、「その場で使えるものを作り続けること」の重要性だったという。

写真:一部が崩れた建物
ロシアによる攻撃で被災したウクライナの建物。

 安全保障分野におけるドローンは、攻撃的な用途だけでなく、防衛・防災、監視、物資輸送など多様な役割を担う。重要なのは、それらの用途に応じて柔軟に対応できる設計と運用体制である。

 日本においても、防衛分野へのドローン活用に関する予算がようやく組まれ始めた。今後は試作機の開発や運用体制の検証が進むと見られるが、その中で「どのような機体を作るか」ではなく、「どのように使うか」という観点が大きな課題となりそうだ。