国内ドローンビジネス市場のおよそ4割を占め、最も規模が大きいのが点検の分野だ。この分野では早くからドローンが活用されているが、インプレス総合研究所の推計では、2025年度の1003億円から、2028年度には1500億円にまで市場規模が拡大する見込みだ。本稿では、国内ドローン市場の動向をインプレスがまとめた新産業調査レポート『ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】』から、点検分野におけるドローン活用の概要と動向を紹介する。
インフラ・設備点検におけるドローン活用の背景
ドローンをインフラ・設備の点検に活用するのは、危険な高所作業を代替するだけでなく、生産年齢人口の減少、高度経済成長期に新設されたインフラ・設備の老朽化といった理由に加え、世界的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の流れの中で点検結果をデジタル化し、効率化を図るというテーマの下で空飛ぶロボットともいえるドローンが最適といえるからだ。
ドローンをはじめとしたロボット技術の研究は、2013年に内閣府の「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」の1つとしてスタートした。その一方で、2012年末に中央自動車道笹子トンネルで発生した天井板崩落事故を踏まえ、国土交通省が公共インフラに対して2014年から5年に1回の定期検査を行うルールを定めている。これらを契機に、従来の手法に比べて高効率でかつ低コストに点検作業ができるとされるドローンをはじめとしたロボットの活用が検討され始め、インフラに対するドローンを使った点検への取り組みが加速していった。
民間施設分野でのドローン点検の動向
事業参入が容易かつ設置拡大で伸びが見込まれるソーラーパネル分野
インフラ・設備点検について、ドローン活用の進んでいる分野ごとにみていこう。
民間の施設・設備でドローン点検の社会実装が最も進んでいるのが、太陽光発電用のソーラーパネルである。サーマルカメラとそれを搭載できるドローンがあれば作業ができることから参入のハードルが比較的低く、2016年頃から点検事業者による商用サービスが広がり始め、現在では太陽光発電所のO&M事業者が自ら運用するケースも増えている。
ドローンで点検されているソーラーパネルはまだわずかだが、国が2050年までにカーボンニュートラルを目指すとしていることを受け、住宅やビル、工場、倉庫の屋根などにソーラーパネルの設置が近年拡大してきていることから、今後、設置の伸びが見込まれる。
定期点検への導入が進む一般住宅分野、大規模建造物では外壁点検市場が拡大へ
民間設備では、戸建て住宅や賃貸集合住宅でも、屋根点検において、ドローンの利用が広がっている。当初、ドローンは屋根業者やリフォーム業者の営業ツールとしての意味合いが強かったが、近年では大手のハウスメーカーや不動産信託事業者が、顧客向けの定期点検サービスの中で屋根や外壁の点検にドローンの導入を進めているほか、屋根とソーラーパネルの点検を組み合わせたサービスとしても提供され始めている。
建築分野では、大規模建造物において、サーマルカメラで外壁を撮影してタイルの浮きを調査するサービスが普及している。2022年1月に国土交通省が建築基準法12条の定期報告制度の点検手法の1つとしてドローンによる赤外線調査を位置づけたこともあり、サービス提供事業者も近年増加し、ドローンによる外壁タイルの点検市場が拡大している。
また、大規模建造物の天井裏点検でも、屋内狭所点検用ドローンの認知が進むにつれて広がりを見せている。この分野では、地下鉄や鉄道事業者が駅構内の天井裏点検にいち早く採用。天井などの建物内装・設備の施工や保守を請け負う業者に、点検サービスの手法のひとつとして導入が進む。
インフラ分野でのドローン点検の動向
ドローンの活用が最も進んだ橋梁分野
民間の施設・設備への点検に対し、インフラ分野でドローンの活用が最も進んでいるのが橋梁の分野だ。ドローンによる橋梁点検の技術は、SIPの枠組みの中で研究が進められ、2019年には「道路橋定期点検要領」といった点検ガイドラインの中にドローンを使った点検手法が位置づけられている。
インフラ保有事業者による実装が進む送電網や基地局鉄塔への点検
送電線や送電鉄塔といった送電網設備を保有する全国の送電事業者による取り組みも、進んでいる分野の1つだ。電力事業者や送配電事業者と、ドローンソリューションプロバイダーが共同で、送電線や送電鉄塔の点検ソリューションを実用化し、既に実装段階にある。全国の送電事業者が参画するグリッドスカイウェイ有限責任事業組合では、送電線点検ソリューションの提供を2025年1月から始めた。
さらに2024年6月に政府が取りまとめた「デジタルライフライン全国総合整備計画」では、埼玉県秩父地域で、送電網に沿って150kmのドローン航路を設けるとされ、2025年3月には開通式が催された。このドローン航路は、2027年度を目途に関東・中国地方を中心に総延長約1万km、2027年度以降にはそのエリアを全国に広げ、総延長を約4万kmに伸ばすとしている。これを受け、グリッドスカイウェイなどを中心に、この航路を利用して送電網の点検を行うという。
鉄塔としては、携帯電話基地局などの点検でも、ドローンが普及している。携帯電話各社では、自社ビジネスの根幹をなす基地局鉄塔をドローンで点検するための技術開発と教育を早くから進めてきた。AIによる錆や亀裂、ボルトの緩み・脱落の検出技術の実装も進み、近年は、この取り組みで培ったドローンによる鉄塔点検技術を、自社で活用するのみならず、顧客に向けてソリューションやサービスとしても提供され始めている。
ドローン活用が有力視されながら制度面に壁のあるプラント分野
プラント分野でも、ドローンによる点検の取り組みが一定程度進んでいる。ただ、プラントとはいえ、石油・化学、ガス、電力、鉄鋼など各種施設で、点検対象の設備は大きく異なるため、プラントを持つ事業者がドローンソリューションプロバイダーと連携し、各設備のニーズに沿った点検技術を開発しているのが現状だ。
中でも石油・化学やガスといったプラントでは、防爆エリアではドローンが飛行できないという課題がありながら、防爆エリアの精緻な見直しのほか、「石油コンビナート等災害防止3省連絡会議」ではドローン点検に関するガイドラインを公表し、プラント等におけるドローンの飛行に関する航空法上の規制も、現実に即した形で緩和されるなど、制度面での整備も進んできた。経済産業省が、産業保安に関する技術の効率化・高度化を目指す「スマート保安」の取り組みの中でも、ドローンが有力な技術の1つとして掲げられている。
ドローンの自動航行ソリューションの開発が進む風力発電分野
風力発電設備では、ドローンを風車のブレードやタワーに沿って自動航行させながら効率よく点検ができるソリューションが実装段階にあり、風車のメンテナンス事業者が点検サービスのツールの1つとしてドローンを利用している。
近年、脱炭素という世界的な潮流を受けた国が、陸上に加えて洋上風力の発電所新設を推進。全国10の区域を「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」(再エネ海域利用法)にもとづく促進区域に指定して整備するとして、2022年から2023年にかけ、秋田県沖や富山県沖で商業運転を開始。2024年には、排他的経済水域(EEZ)における海洋再生可能エネルギー発電設備の設置にかかる制度が創設され、浮体式洋上風力発電の開発も見込まれる。こうした洋上風力発電所の点検は陸上よりハードルが高く、飛行型と水中型のドローンによる遠隔点検技術の開発が進んでいる。
道路陥没事故を受けた緊急点検で急進展した下水道分野
下水道分野は、2025年1月に埼玉県八潮市で発生した下水道管の破損による道路陥没事故を契機に、国土交通省が、老朽化の進む約1,000kmの下水道管路調査を2025年夏までに、さらに約5,000kmについては1年以内を目途に実施するよう全国の下水道事業者に要請した。
それ以前にも、下水道コンサルタント大手NJSの子会社FINDiの管路点検用飛行型ドローンや、リベラウェアとFlyabilityの屋内空間点検用ドローンを使った点検が一部で行われていたが、下水道管の定期点検のあり方も見直される中、ドローンをはじめとした新技術の導入によるDXの推進が奨励され、事故を契機に、ドローンの活用がこの1年で特に進んだ分野といえる。
道路トンネルや洞道分野でのドローン活用は一部にとどまる
橋梁と同じ道路インフラでも、道路トンネルの分野では、専用車を用いた点検技術が確立していて、ドローンの活用はまだ発展途上だ。ドローンを用いても、点検作業のために従来の手法と同様の交通規制が必要で、メリットが少ないことが理由に挙げられる。ただ近年、SLAMや画像認識といった新技術により、暗い上にGPSの電波が入らないトンネル内でも、ドローンが安定して飛行できるようになり、技術的な問題が解消。トンネル建設時の進捗管理といった用途では、ドローン活用が実装段階に移行し始めてきた。同じトンネルでも、鉄道については、特に地下鉄で小型ドローンを使った点検が行われている。
トンネル同様に狭隘な閉鎖空間といえる洞道や通路は、電力や通信、水道、熱供給などのインフラを収容する屋内狭所空間での飛行が可能な小型ドローンやマイクロドローンを使った点検サービスが、複数のプレイヤーから提供されている。
ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】
| 書名 | ドローンビジネス調査報告書2026【インフラ・設備点検編】 |
| 著者 | 青山祐介、インプレス総合研究所 |
| 監修 | ドローンジャーナル編集部 |
| 発行所 | 株式会社インプレス |
| 発売日 | 2025年11月18日 |
| 価格 | CD(PDF)版、電子版 12万1,000円(本体 11万円+税10%) CD(PDF)+冊子版 13万2,000円(本体 12万円+税10%) |
| 判型 | A4判 モノクロ |
| ページ数 | 390ページ |
| ISBN | CD(PDF)+冊子版 978-4-295-02293-0 |
| URL | https://research.impress.co.jp/report/list/drone/502293 |
