ドローン向けフライトコントローラー「Flight Brain」シリーズを展開する日本航空電子工業(JAE)は、2026年3月に新しいフライトコントローラー製品である「JFB-200」をリリースする。JFB-200はCPUと加速度計やジャイロといったIMUをモジュール化したセンサー、Pixhawk準拠のコネクタを使用したI/Oボードという、CubePilotのCubeに倣ったスタイルを採用したフライトコントローラーとなっている。

航空機器で培った技術を応用した信頼性の高いフライトコントローラー

写真:並べられた「JFB-110」
生産ラインに並ぶFlight Brainフライトコントローラーの「JFB-110」。

 日本航空電子工業(JAE)はコネクタを中心として、タッチパネルなどの入力機器、航空機器向けのセンサーなどを開発・製造する企業だ。この中でも航空機器は、1950年代の創業当時からおもに防衛・宇宙産業向けの慣性装置や飛行制御装置などを手がけ、近年ではこのモーションセンシング&コントロール技術を活かして、半導体製造装置や建設機械、鉄道車両、油田掘削をはじめとしたさまざまな産業機器向けの加速度計やジャイロ、リニアモーターやカメラスタビライザーといった製品を展開している。

 JAEではこうした航空機器の技術を活かし、2021年からドローン向けの製品開発を始めた。「ドローンに航空機品質を!!」というスローガンを掲げ、ドローンの頭脳ともいえるフライトコントローラー「JFB」シリーズを開発。現在、「Flight Brain」というブランドで展開している。

 現在、製品化しているのは「JFB-100」と「JFB-110」の2製品で、JFB-100がベーシックモデル、JFB-110がスタンダードモデルという位置づけ。いずれもワンボードのフライトコントローラーで、オープンソースファームウェアとしてはデファクトスタンダードとなっている、ArdupilotやPX4を搭載できる日本製フライトコントローラーで、Ardupilotでは(日本製フライトコントローラーとして)初めて認定を受けている。また、IMUを複数搭載することで、センサーの冗長性を確保。基板に実装されている部品は産業機器向けのもので、IMUやJAE製のコネクタ類は、耐振動性能をはじめとして要求水準の高い車載用のものを採用している。

写真:「JFB-110」
Flight Brainシリーズのスタンダードモデルである「JFB-110」。車載用のJAE製コネクタをはじめ各種部品は産業機器向けの信頼性の高いものを採用している。

 そして来春のリリースに向けて開発が進められているJFB-200は、Flight Brainシリーズとしての高品質、高信頼性に加えて、汎用性が与えられたフライトコントローラーだ。近年、オープンソースのフライトコントローラーとして定評のある、CubePilotのCubeと同じように、ドローンの構成部品と接続するためのインターフェースボード(I/Oボード)に、IMUやCPUをモジュール化したセンサーを組み合わせるスタイルを採用。JAEではこのセンサーのモジュールを八角柱のデザインとして独自性を与え、社内では“オクタ”と呼んでいる。

 八角柱形状のセンサーモジュールの内部は、複数のIMU、地磁気計、気圧計といったセンサーを実装したFSU(Floating Sensor Unit)と、CPUを載せたMCM(Main CPU Module)の2枚の基板で構成される。各基板はダンパーによる除振対策が施されるほか、FSUにはセンサーの動作を安定させるためのヒーターを搭載。また、MCMにもIMU、気圧計、地磁気計の各センサーを備え、万が一FSUが故障した際にも飛行を継続できる冗長性が確保されている。一方、I/OボードにはPixhawk準拠のコネクタを採用。現在、デファクトスタンダードとなっているPixhawkを採用するドローンとの接続性を確保しているのが大きな特徴だ。また、イーサネットを追加したことで、ドローン機上でデータを処理するといった用途のコンパニオンコンピューターにも対応している。

写真:「JFB-200」
2026年3月にリリース予定の「JFB-200」。CubePilotのCubeと同様に、センサーモジュールとI/Oボードを分離したスタイルを採用している。

航空装備品と同等基準の製品を国内工場で一貫製造

写真:航空機器工場の外観
日本航空電子工業昭島事業所内にある航空機器向けセンサーの工場。

 日本航空電子工業(JAE)はおもに防衛用途向けの慣性装置をはじめとした航空装備品を展開しており、Flight Brainはこうした航空装備品と同等の設計基準に則って設計されている。設計の検証では米国防総省が定める温度や高度、湿度、振動、衝撃、防水といった試験規格である「MIL-STD-810」と、おもに民間向けの航空機搭載機器の試験規格である「DO-160」に準拠。また、同社が手がけてきた防衛装備品の開発経験に基づいた、FMEA(Failure Modes and Effects Analysis:故障モード影響解析)を徹底するなど、設計上の信頼性は高い。例えばJFB-110の故障率は176.1×10のマイナス6乗で、MTBF(Mean Time Between Failure:平均故障間隔)は約5700時間となっている。

 こうした高い品質と信頼性を裏付ける製品のパーツは、同社が手がけるコネクタをはじめとした車載用部品を採用。部品の多くは国内企業の製品を採用しており、一部の海外製部品についてもトレーサビリティを確保したものとなっている。また、部品の多くに市販の既製品を採用しているため、比較的リーズナブルな価格も実現しているという。

 またFlight Brainシリーズは、すべて東京都昭島市にあるJAEの昭島事業所で設計から製造まで一貫して行われている。同工場は品質マネジメントシステムのISO9001、同じく航空宇宙分野での品質マネジメントシステムJIS Q 9100の認証を取得。製造は同社が保有する実装ラインで行われており、今後見込まれる国内メーカー製ドローンのニーズの高まりを受けた、大量生産にも対応。また、出荷する製品の全数に対してさまざまな検査が行われている。

写真:フレキシブルマウンタを操作するスタッフ
フレキシブルマウンタを使ってプリント基板に対して同時に複数の部品を実装するJFB-110の製造ライン。
写真:X線検査装置
写真:顕微鏡を使って製品の仕上がりを確認するスタッフ
完成したJFB-110ははんだ不良などをX線検査装置と人の目で検査する。
写真:環境試験装置
温度や湿度の耐性を検査する環境試験装置。
写真:検査装置
加速度計とジャイロを検査・校正するレートテーブルは、極端に振動を嫌うため、工場の建屋とは分離された地下深い地盤に固定される形で、鉛直、真北を基準にして設置されている。

 Flight Brainシリーズはすでに約30社のドローンメーカーに対して供給されている。ArdupilotとPX4というオープンソースファームウェアに対応していることで、現在、国内で利用される多くのドローンで利用できるだけでなく、Pixhawkに準拠したJFB-200の登場によって、さらに普及が見込まれる。また、Fright Brainシリーズは、一般的なマルチコプターに限らず、今後、災害時の広域調査や長距離の物資輸送などで期待されているVTOL型、固定翼型ドローンにも対応するほか、UGV(ローバー)やROV(水中ドローン)、USV(水上ドローン)といった、さまざまなドローンへの展開が期待される。

Flight Brain「フライトコントローラー(JFBシリーズ)」(JAE YouTubeチャンネル)