防災・災害対応を目的に、自治体でのドローン活用が広がっている。地震や台風などの災害時、上空から得られる情報は復旧作業の重要な手がかりだ。福岡県県土整備部はドローンの導入と“自主運用”により、広域インフラの状況把握の効率化を実現した。その体制構築の裏には、安全な運航の実現やデータ解析の課題を克服するための、エアロセンス社の手厚い支援体制があった。

(右)エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部浩太郎氏、(左)エアロセンス株式会社 事業統括部 セールスオペレーションユニット オペレーター 小畑すみれ氏
(右)エアロセンス株式会社 代表取締役社長 佐部浩太郎氏、(左)エアロセンス株式会社 事業統括部 セールスオペレーションユニット オペレーター 小畑すみれ氏

防災・災害対応で鍵を握るドローン活用

 「空の産業革命」とも呼ばれるドローン活用は、多様な業界で広がりを見せている。その中でも特に注目されるのが、防災・災害対応の分野だ。日本は地理的要因から地震や台風の被害に見舞われやすく、災害対応においては上空からの画像などのデータ取得が、地上作業に比べて、短期間・低コスト・安全に広範囲の状況を把握するメリットとなる。

 「昨年の能登半島地震において、被災状況の把握や孤立集落への物資輸送、罹災証明書の交付のための被害認定調査など多様な用途で活用され、ドローンの意義が広く知られるようになりました」と語るのは、エアロセンス 代表取締役社長の佐部浩太郎氏だ。そうした理解の広がりとともに、近年は民間に加え、自治体からの問い合わせも急増している。25年4月からエアロセンス製ドローン「エアロボウイング(AS-VT01K)」の業務利用を開始した福岡県も同様の自治体の1つだ。

 福岡県は複数社のドローンを比較検討した結果、最終的にエアロセンスに協力を依頼した。その理由を端的に説明すれば、製品開発競争が激化する中、“ハードウェア+α”の独自性によって他メーカーとの差別化を実現していた点にあった。

ドローン測量のVTOLの優位性は長距離飛行

 九州は国内でもとりわけ大雨による河川氾濫や土砂崩れなどに見舞われやすいエリアである。福岡県がドローンに着目した狙いも、被災時における広域インフラの迅速な点検・状況把握にあった。

 そこでのハードウェア面でのエアロボウイングの優位性としてまず挙げられるのが、国内でも数少ない「垂直離着陸(VTOL)型」である点だ。

 一般的に利用されているマルチコプター型は狭い場所での飛行などが得意な一方、複数のプロペラを高速で回転させるため浮いているだけで多くのエネルギーを消費するのが難点だ。

 一方、VTOL型は翼で揚力を得つつ前進するためエネルギー効率が高い。そのため、長距離かつ長時間の飛行が可能となり、「エアロボウイングの最大飛行距離は50km、最大飛行時間は40分に達する」(佐部氏)。広域エリアの把握の点において、VTOL型が優位であることは明らかだ。

 さらに、そのメリットを支えているのが、2024年にVTOL型ドローンとして初めて取得した第二種型式認証と、自社製フライトコントローラとLTE通信を組み合わせた自律飛行機能だ。

 「第二種型式認証を取得済みのエアロボウイングは、無人地帯における目視外飛行にも対応できます。LTE通信を用いた自動制御により、広範エリアのより精緻な把握も可能です」(佐部氏)

一貫サポートでドローンの自主運用を支援

 一方で、エアロボウイングの提案における“+α”とは、ドローンのユーザー自身による運用まで支援する総合的なサポート力だ。

 佐部氏によると、商談を開始した2023年11月当時、福岡県県土整備部は災害対応などでのドローンのメリットをすでに深く理解する一方で、実際の飛行での実務的な知識は豊富とは言えなかった。

 ドローン測量を行うには、測量はもちろんドローン、写真計測、GIS、IT機器といった幅広い知識が新たに求められる。そのため人材育成には少なからぬ時間を要し、その課題の解消のため、外部企業のアウトソーシングサービスを利用するケースも数多い。しかし、災害時には外部委託先も被災し、そもそも業務を受けられない可能性がある。自治体自身が空撮を行える体制を構築することで、必要な情報を迅速に手に入れることができる。

 「必要なデータをタイムリーに取得するために、福岡県県土整備部は自身での作業を望まれていました。従来業務を通じて復旧に向けどのような調査が必要かは当然理解されているため、復旧期間の短縮という社会的な意義からも、残るオペレーションについて当社として全面サポートすることになりました」(佐部氏)

専門家でなくても扱えるソフトの高い操作性

 エアロセンスは機体選定から関連法令の案内、オペレーションのアドバイス、安全指導、機体点検までの一貫したユーザーサポートを提供する。そこで培ってきた知見とノウハウを基に最初に取り組んだのが、現地でのテスト飛行や、過去の被災地を対象としたドローン測量の実証実験だ。実作業を見てもらい、運用イメージを固めてもらう狙いで、その過程では、「高性能カメラ」「機器の取り扱いの容易さ」「耐風性能の高さ」など、長距離・長時間飛行以外のエアロボウイングの強みも実感してもらえた。

 福岡県県土整備部はそれらを総合的に評価し、エアロボウイングの導入を正式決定。これを受け、エアロセンスは2024年から自動飛行用のフライトプランの作成や実飛行、安全確保、メンテナンスなど、県での運用に向けた座学と実技を組み合わせた研修を開始した。エアロセンスではハードから操縦、ドローン測量/解析などのソフトやクラウドサービスまでを社内で一貫して開発しており、その蓄積がこのフェーズで大いに貢献したという。

エアロセンスが実施した研修の様子
エアロセンスが実施した研修の様子

 例えばドローンシミュレータだ。本来はドローン開発のために開発されたものだが、これを飛行訓練に応用し、実際に飛ばす前のドローンの飛行特性の学習に役立てている。

 また、ドローン測量/解析ソフトの継続的な作り込みもある。一般的なソフトは測量の専門家を想定して設計されており、自由度が高い反面、初心者には扱いづらいという課題がある。研修に携わったエアロセンス セールスオペレーションユニットの小畑すみれ氏は、「当社のソフトは誰でも扱えます。オルソ画像の作成であれば撮影した画像をクラウドにアップロードするだけで、あとはソフト側が画像から自動的に位置データなどを読み込み、オルソ画像を自動生成します」と語る。

ドローンの新機能の提案も着々と

 一連の教育を経て、福岡県県土整備部は25年からドローンの実運用を開始。現在は6名が県内2カ所の事務所に常駐し、災害発生に備えて2台のエアロボウイングで日々現地調査を行っている。

 「今では、県土整備部さんで当たり前のように活用されています。飛行準備も容易で、事前にフライトプランを策定していれば、15分ほどの組み立てで飛ばすことが可能です。住民に不安や威圧感を与えない洗練されたデザインも高く評価されています」(小畑氏)

 自治体では職員の異動が定期的にあるため、エアロセンスは26年までに十数名程度の職員に継続的な研修を実施する予定だ。あわせて、ドローン測量に関する技術的な問題に対してもサポートを継続する考えだ。

 佐部氏は最後に、「エアロボウイングは静止画だけでなく映像の撮影も可能です。また、1kgまでの物資輸送に対応しています。順次、最新のペイロードに対応するなど、継続的に製品アップデートが行われています。これらのハードの活用提案、さらに当社ならではの高品質なサポートを両輪として、今後も引き続き福岡県県土整備部様のドローン活用の支援に注力していきます。VTOL機は運用が難しいというイメージを持つ方もいますが、実は難しくはありません。日本のメーカーとしていつでも支援できる体制を整えているため、気軽に相談してほしい」と笑顔で述べた。

問い合わせ先

エアロセンス株式会社
https://aerosense.co.jp/