ドローンメーカーを中心とした日本のドローン産業は、分野の歴史が浅いこともあり、そのほとんどがスモールビジネスの企業である。そしてこうした企業が開発、製造するドローンの多くは、オープンソースのフライトコントローラーに、カーボンパイプなどを使ったフレームやモーターといった、市販の部品を組み合わせて機体を組み上げたものがほとんどとなっている。従来、こうした構成部品の多くが中国製のものであったが、近年、日本の製造業大手企業がドローンの構成部品の製造に乗り出している。

スモールビジネス中心の業界構造と中国製部品への依存

 これまで自動車をはじめとした日本の高度経済成長期に発展した製造業では、製品の主要な構成部品を自社で製造するほか、系列企業や協力企業が供給するサプライチェーンが形作られている。近年では部品のサプライチェーンも海外に広がっているが、あくまでも最終製品を製造するメーカーの下で品質管理がなされており、その結果、“メイド・イン・ジャパン”の製品は、今日、世界から高い評価を得ることとなった。

 一方、企業としての規模が小さい日本のドローンメーカーは、独自のサプライチェーンを持っておらず、モーターやプロペラをはじめ、機体を構成する部品の多くを市販の製品でまかなっている。産業としてドローンの分野がまだまだ小さく、ドローン向けの部品を製造している企業が少ない。また、ドローンメーカーが自社の製品向けに製造を国内の部品メーカーに依頼する場合には、必要な数量が部品メーカーの要求するロットの単位に見合わないケースや、製造を委託できても単価が非常に高いものとなってしまうことが課題であった。そのため、日本のドローンメーカーの多くは、フレームやモーター、プロペラといった部品を、価格が安く入手しやすい中国製の製品を採用してきた。

 しかし近年、地政学的な観点から、自衛隊や警察、海上保安庁といった公安を担う行政機関や、電力、通信、鉄道、道路といった重要なインフラを扱う企業においては、情報安全保障上の理由により、フライトコントローラーをはじめとした主要部品に日本や欧米の製品を求める向きが強まっている。また、米中の政治的、経済的摩擦の強まりから、アメリカでは政府関係機関が採用するドローンから中国製品を排するばかりでなく、2025年中にDJI製ドローンの輸入・販売を禁止する方向にまで進んでいる。一方中国も世界中のドローンが依存しているバッテリーやモーターといった構成部品の輸出を抑える動きを見せており、こうした中国製部品に依存してきた欧米製ドローンメーカーでは、製造に影響が出ているとされる。

Japan Drone 2025にも日本の製造業大手が複数出展

 このように日本のドローン産業が地政学的なサプライチェーンリスクを抱える中、近年、日本の製造業大手企業がドローンの構成部品の開発、製造に乗り出している。2025年6月に開催されたJapan Drone 2025では、自動車部品を手がけるエクセディがプロペラとモーターを、JTEKTがフライトコントローラーとリチウムイオンキャパシタなどを出展。また、三井化学グループのアークも独自の素材で開発したプロペラの量産化を発表。すでにリベラウェアやアメリカのSkydio、Ziplineのドローンにモーターを供給してきたニデックは、汎用のモーターやAI搭載ESCを出展するなど、いずれもドローンメーカーから受託した専用品ではなく、むしろこうした製造業大手企業が今後広くドローン産業に向けてビジネスを展開していくというものだ。

写真:プロペラ
エクセディが開発中の独特な形状の高効率プロペラ。
写真
JTEKTが発表したドローン用フライトコントローラー。
写真:展示されたアークのプロペラ4種(サイズ違い)
アークは独自の素材を生かしたプロペラを開発。
写真:小型ドローン用モーター
ニデックは小型ドローン用モーターを国内外のメーカーに提供している。

 日本の製造業大手企業がドローン事業に参画するのは、実はここ数年に始まった話ではない。例えば総合自動車部品メーカーとして世界2位のデンソーは、2016年に橋梁点検用ドローンを開発し、2019年から橋梁点検サービスを展開。その後はeVTOL向けモーターの開発を手がけている。また、やはり自動車部品メーカーの愛三工業は、2021年にエンジンハイブリッドドローンを開発し、実証実験に取り組んでいる。

 このように、近年、ドローン産業に進出する企業は、特に自動車関連企業が多い。地球温暖化対策のひとつとして世界的に自動車のEVシフト(電動化)が始まっていて、その動きは欧米や中国を中心に進んでおり、近年、自動車の大きな市場となっている中国では、2024年の新車販売台数に占めるEVやPHV(プラグインハイブリッド車)の割合は4割にも上るという。

 EVの主な構成部品はバッテリーとモーター、それを制御する電気的な回路と、ICE(内燃機関)の自動車に搭載されるエンジンやトランスミッションといった構成部品とは大きく異なる。そのためこれまでICEの製造に関わってきた製造業大手企業は、今後さらにEVシフトが進むことにより、そのままの業態では生き残れないという共通の課題を抱えている。そこで新事業分野への取り組みのひとつとして、自動車の従来の部品製造の技術と、将来を見据えて開発を進める電動化技術を生かせる、ドローンの部品製造を始めているのである。

 こうした製造業大手企業がドローンの部品製造に乗り出すことで、日本のドローンの市場もようやく本格的に産業として拡大することが見込まれる。日本の製造業が生み出す製品は、世界で高い評価を得てきた。こうした高品質の製品を安定的に大量に製造するという技術とノウハウによって生み出されたドローンの部品が、日本のドローンメーカーに使われることで、国産ドローンの品質が向上し、安全性も高まることに期待が寄せられる。

 また、ドローン向け部品製造を手がける製造業大手企業は、これまでにも自動車部品を通じて日本国内だけでなく、海外市場にもビジネスを展開している。今後、ドローン向け部品のビジネスは、日本国内のドローンメーカーだけでなく、これまでに培った海外市場でのノウハウを生かして、同じように海外のドローンメーカーに向けたビジネス展開を視野に入れている。

 さらに製造業大手企業のドローン産業への参加は、製品の供給のみにとどまらず、ドローンメーカーに対して資本参加するケースも増加。2023年にはJTEKTがプロドローンに、2024年にはエクセディがイームズロボティクスに出資している。こうした製造業大手企業による資本参加では、大手企業からドローンメーカーに出向といった形で人材の提供も行われており、大手企業が持つモノづくりのノウハウがドローンメーカーの製品づくりに生かされているという。特に今後、機体認証制度の型式認証を受けるドローンが増加する中で、自動車をはじめとした製造業では広く普及している認証を受けるためのノウハウといった点で、こうした人材交流にはドローン業界からも大きな期待が寄せられている。