写真:飛行するドローン
河川敷に向かうドローン「DJI Mavic 2 Enterprise」。

 東京都西部の自然豊かな町・奥多摩町で、7月から8月にかけた15日間、河原でのバーベキューやキャンプを楽しむ観光客への「ごみ持ち帰り」を呼びかけるために、小型ドローンを活用したパトロールが実施された。

都心から電車で約2時間、人気の自然観光地・奥多摩

 奥多摩町は、東京都心から電車で約2時間の距離に位置し、多摩川の源流に近いことから、緑豊かな自然を満喫できる日帰り観光地として知られている。中でも河川敷では、バーベキューやキャンプを楽しむ人が多い。2024年には、人口約4,400人の町に対して、その363倍にもあたる約160万人の観光客が訪れた。

 しかし、観光客の増加に伴い、大きな問題となっているのが「ごみの放置」である。マナーを守る来訪者ばかりではなく、使用済みのごみをそのまま残して帰る人も少なくない。特に、日本語を理解しづらい外国人観光客の一部によるごみの不法放置が目立ち、地域の住民や行政の悩みの種となっている。

ドローン活用のきっかけは地域外からの提案

 ごみ問題がメディアで報じられた2022年、他地域のドローン関係者から奥多摩町の観光担当者に「ドローンでごみの持ち帰りを呼びかけている自治体がある」という情報が寄せられた。この担当者は町内在住の「奥多摩ドローン協会」に相談。同協会は、東京・福生市にある拝島ドローンスクールの卒業生を中心に構成され、町内外のドローン愛好家約100人が所属している。

 この協会は、日頃から奥多摩町内で週末を中心にドローンの飛行練習を行っており、パトロールの趣旨に賛同した会員からは、機体の提供や操縦、補助員としての参加希望が多数寄せられた。こうして2023年の夏より、ドローンによる「ごみ持ち帰り」呼びかけパトロールがスタート。2024年からは、5月の大型連休と夏休み期間にも定期的に実施されている。

音声とパンフレットで多言語対応の啓発活動

写真:手に持った、スピーカーが装着されたドローン
パトロールに使われるDJI Mavic 2 Enterprise。スピーカーが装着されている。

 パトロールには、会員が所有する小型ドローン「DJI Mavic 2 Enterprise」が使用された。この機体にはスピーカーが搭載されており、「ごみは持ち帰りましょう」「環境保全にご協力ください」といった音声メッセージが、日本語と中国語で繰り返し再生される。

写真:多数の観光客が訪れている河川敷の上を飛行するドローン
河川敷上空を飛ぶドローン。

 実施場所は、観光客の多い河川敷に隣接する「寸庭橋」「北氷川橋」「昭和橋」の3か所。いずれも川の水面から約20mの高さに橋がかかっており、ドローンは橋の上から高度約10mで飛行する。橋の上からドローンの動きを目視でき、安全管理がしやすいのが選定理由である。

 飛行前には、補助員が河川敷へ出向き、バーベキューやキャンプを楽しんでいる観光客に対し、多言語(日本語・中国語・ベトナム語など)で記載されたパンフレットを配布。ドローン飛行中も操縦者と補助員(合計3~4人)が1組となり、無線を通じて操縦者と連携し、障害物や人の動きなどの情報を共有しながら、安全な運航を確保している。

写真:橋の上に着陸中のドローン、操縦者
操縦者のいる橋に着陸するドローン。

観光客もドローンに注目、抑止効果に期待

 実際にドローンが飛行を始めると、多くの観光客が上空を見上げて反応し、パンフレットを手に取るなど関心を示した。奥多摩町の担当者は「映像の記録などは行っていないが、ドローンが飛行することで『ごみを持ち帰ろう』という意識が高まり、ごみの投げ捨てに対する一定の抑止効果があると感じている」と語っている。

今後の展望と課題

 この取り組みは、テクノロジーと地域の協力によって観光地の環境保全を図る好例といえる。一方で、さらなる多言語対応や、観光客の意識向上につながる仕組みづくり、今後の改善点も見えてきている。観光地としての魅力と環境保全の両立に向けた、奥多摩町の挑戦は続いている。