「Japan Drone 2025」には、シンガポール、米国、台湾の注目企業が出展し、日本市場への本格参入の意欲を鮮明に示した。出展した4社はいずれも実運用段階の技術を持ち、軍事・公共安全・物流など幅広い用途に対応するソリューションを展示した。各社の技術的アプローチと日本市場向けの戦略を紹介する。

監視も配送も1機で対応──シンガポールST Engineering「DrN-40」

写真:展示されたVTOL機「DrN-40」
ドローン配送、監視用に開発されたVTOL機「DrN-40」。

 シンガポールのST Engineeringは、従業員約2万5,000人を擁する総合エンジニアリング企業で、商業航空宇宙、都市ソリューション、防衛・公共安全の3分野で事業を展開している。同社は2年連続で同展示会に出展しており、今回は監視と配送の両方に対応するVTOL機(垂直離着陸機)「DrN-40」を展示した。

 DrN-40はドローン配送用に大容量の積載部を確保し、長時間飛行を可能にする長い主翼を組み合わせた設計で、最大10kgの荷物を積載可能だ。一方、監視業務では高性能カメラを搭載し、広域の警備などに役立てられる。配送用として使用する際には、カメラを外して積載スペースを確保することが可能であり、「二刀流」の設計を特徴としている。

写真:「DrN-40」機体上部
荷物スペースは上部に設けられている。最大10kgを積載可能な大容量の設計だ。
写真:「DrN-40」主翼付け根の接続部分
主翼は分割でき、可搬性も考慮されている。

 カタログスペックでは最長150分(1.5〜2時間)の飛行が可能で、航続距離は約100kmを実現。タイや台湾ですでに100時間以上の運用実績を持つ。

 担当者は「配送と監視で機体を分けると稼働率が下がります。両方を1機で担うことでコスト削減と運用効率を高めています」と説明しており、日本市場でも公共安全、物流、防災用途を視野に入れて展開を図る構えだ。

日米共同開発──長時間飛行が可能なUAV「ACCIPITER」

写真:吊り下げる形で展示されたUAV「ACCIPITER」

 米国のSwift Engineeringと国内企業のカーツは、共同開発した長時間飛行型UAV「ACCIPITER」を展示した。同機はカーツが開発した小型ガソリンエンジンを搭載し、14〜16時間の連続飛行を実現する固定翼型ドローンで、主に監視業務での活用を想定している。

写真:小型エンジン「DR33」
芝刈り機やブロワーに搭載されるエンジンを開発するカーツが、ドローン用に開発した小型エンジン「DR33」。33.5ccの2ストローク単気筒で、最大出力2.0kW(2.7HP)。

 日本製エンジンと米国製機体を組み合わせるのは初の試みで、すでにバハマ国家安全保障省へ納入している。現在は固定翼機だが、海上の警備などを想定した船舶上での離着陸を可能にするVTOL(垂直離着陸)型の開発も進めているという。なお、VTOL機は8〜9時間程度の飛行時間を想定している。

 また、Swift Engineeringは独自のバッテリーで駆動するVTOL機「Swift Crane」も併せて展示していた。これは最大2時間の飛行を可能にしたドローンで、監視、捜索、物資搬送など多用途への展開を見込んでいる。日米の技術を融合し、長時間・長距離の監視業務や災害時の広域対応など、日本国内のさまざまなニーズに対応する構えだ。

写真:吊り下げる形で展示されたVTOL機「Swift Crane」
バッテリーで駆動するVTOL機「Swift Crane」を開発中だ。

台湾軍へ導入されている高性能VTOL機──CIRC「VTOL Drone Swallow」

写真:展示された「VTOL Drone Swallow」

 台湾のCIRCは、軍事用途を主としたドローン開発メーカーであり、大規模な政府へのドローン納入も行っている。その数は、2025年だけで約3,000機を予定しているという。同社が展示した「VTOL Drone Swallow」は、ISR(情報収集・監視・偵察)任務向けに設計された次世代型のVTOL機だ。

 同機は、バッテリー駆動型とエンジンとのハイブリッド型の2機種をラインナップしている。最大離陸重量は25kg、航続距離は85km以上、最大飛行高度は2,000m以上を誇る。IP54の防塵防水性能、15m/sの耐風性能など、過酷な環境下での運用を想定した設計だ。

 搭載カメラ「OwlEye 11L」は、4K解像度・18倍光学ズームに加え、赤外線カメラやレーザー距離計を装備し、AIトラッキングによる対象物の自動追尾も可能としている。

写真:「OwlEye 11L」を搭載したドローン
機体の下部には高精度カメラを搭載可能。「OwlEye 11L」は「OwlEye 11」に対し、2kmの計測が可能なレーザー距離計が追加され、重量が2kgから1.7kgへ軽量化されている。

 担当者は「航続距離は往復200km、半径100kmをカバーできます。台湾沿岸警備隊と連携し、不審船の即時偵察に活用しています」と説明した。すでに米国のフロリダ、カリフォルニア、テキサスでも運用されており、日本市場では警察、消防、沿岸警備隊など公共安全分野への展開を狙う。

都市部・離島配送に対応──台湾BADASS Helicopterの完全自動化配送ステーション

写真:展示された完全自動化ドローン配送ステーション

 台湾のIndustrial Technology Research Institute(ITRI)と連携するドローン企業BADASS Helicopterは、完全自動化ドローン配送ステーションを展示した。このステーションは、利用者がスマートフォンアプリで配送先を入力し、生成されたQRコードを使って荷物を投入すると、内蔵ロボットが荷物の管理、ドローンへの積み込み、回収までを自動で行うシステムとなっている。

 荷物の到着時には受取人にQRコードの通知を送り、受け取りまでを自動化することで人手を大幅に削減する仕組みを実現している。担当者は「すでに台湾だけでなく、日本の神戸でも運用しており、本土から離島へのドローン物流に活用しています」と説明。

写真:完全自動化ドローン配送ステーションのロッカー収納部分
荷物は自動でロッカーに保管されていく。

 現在は、ステーションに10個の荷物を保管できるが、日本の配送企業からは都市部に向けた小容量モデルへの要望が多く、これに応えるかたちで2028年までに東京都内での展開を目指しているという。

日本市場参入の共通課題──規制対応と現地パートナー戦略

 これら4社はいずれも、実用段階のソリューションを持ち込み、公共、軍事、民間と幅広い用途での日本市場本格参入を視野に入れる点が共通している。特に日本特有の法規制や運用環境に対応するため、現地パートナー企業との連携を重視し、ニーズに応じたカスタマイズを進めている。

 今後は規制緩和や運用ルール整備と並行して、こうした海外発の先進技術が日本国内の物流、災害対応、公共安全分野でどのように活用されていくかが注目される。

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