高等学校では2022年度より、教科・科目を横断して課題を見出し、解決策を検討することで物事の見方や考え方を養う「総合的な探究の時間」という授業が行われている。点検用ドローン「ELIOS 3」の販売やソリューション導入を手掛けるブルーイノベーションは、2023年度より日本大学豊山女子高等学校(東京都板橋区)の総合的な探究の時間「探究プラットフォーム」に協力し「ドローン部」を設立。生徒たちはドローン部を通して、板橋区における課題解決のためドローンを活用するアイデアを考え、ブルーイノベーションがアドバイスをしている。またブルーイノベーションは、2024年9月にオープンした物流倉庫「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」と、その中にある「板橋ドローンフィールド」を使用した生徒たちが行う実証実験にも協力している。

 2025年3月12日、2024年度におけるドローン部の研究成果をプレゼンテーションする「日大豊山女子高等学校 第2回ドローン部発表会」が板橋区役所にて行われた。現在、ドローンの社会実装に向け事業者や団体が様々な取り組みを行っているが、それらとはやや視点を変えた新鮮な研究成果を紹介する。

集合写真
発表会に参加した日大豊山女子高校の生徒たちと、講評を行った熊田社長や板橋区職員ら。

 発表会にはブルーイノベーション熊田貴之社長、日本大学第一中学・高校校長で、JUIDA(日本UAS産業振興協議会)顧問の青木義男氏、板橋区立教育科学館学術顧問の池辺靖氏が来賓として出席し、各研究成果を講評した。会の冒頭、熊田氏はドローン部の活動について「日大豊山女子高校においてもアントレプレナーシップ(起業家精神)教育に取り組んでいると伺っています。ドローン部の活動を学習にとどめず、将来的には会社設立や事業化を目指してほしい」と期待を表明した。青木氏は能登半島地震や埼玉県八潮市の道路陥没事故でのドローンの活躍に触れ「昨年の法改正によってドローンによる点検が2025年7月から可能になります。皆さんの活動がドローンの将来や社会実装につながる可能性もあります」とコメント。池辺氏は「学校の外に出て本物に触れる体験はとても重要です。ドローンを媒介に社会との対話を試みる今回の活動は貴重な学びになるでしょう」と取り組みの意義を解説した。

 今回の発表会では、2年生が、板橋区内でドローンを利用した宅配の実現性を探る「物流チーム」(11人)と、街なかにおける万引き犯などを追跡するためにドローンを利用する「チームスマトラ」(5人)に別れ、それぞれの研究成果をプレゼンテーションした。また、1年生は3人が登壇し、野良猫の保護や害獣問題への対処にドローンを活用するアイデアを発表した。

写真:「今後実現したいサービス」のスライド
チームスマトラはイラストも交えて研究の今後の発展性に言及した。

物流やスマートトラックなど最新のドローン技術を活用した探究成果を発表

写真:発表する生徒たち
発表に臨む高校生たち。

 物流チームは、板橋区の坂の多さや高齢化、妊婦や体の不自由な人々への配慮など、地域の生活上の課題を背景に、ドローンによる宅配の可能性を探る実証実験を行った。この取り組みの特徴的な点は、ドローンを使用して物を運んだ場合と、人の手だけの場合とでかかる時間を実測したこと。建物の1階(地上)から3階(屋上)までの垂直移動では、ドローンは22秒で上昇し、屋上に滞在したあと、地上に戻るまでに1分34秒かかった。一方、人の手で荷物を持ち階段で3階まで登ると47秒、往復では1分40秒かかったという。縦移動(階段・高層階)ではドローンに優位性があると結論付けた。青木氏は「縦移動にドローンが有効ということに気づいたのはとても素晴らしいです。来年度の探究のまとめに向けて、どんな場所に導入すれば効率良く利用できるかを深堀りしては」とアドバイスした。

 一方、物流チームは現状、ドローンの活用には荷受けやドローンへの荷物の取り付けなどに人手がかかり、導入や運営にかかるコストが課題になると指摘。また、離着陸場の敷地の広さを確保しなければならないことも懸念点として挙げた。これには熊田社長も「プロ視点からも唸る検証内容です。人とドローンのコスト面に関する比較は業界でも耳の痛い課題で、それに正面から向き合った姿勢はいいですね」と称賛した。

 チームスマトラは、街中における万引き犯の追跡をドローンで行うことをテーマに、追跡シミュレーション実験を実施。日本国内の万引きによる被害額が年間4兆6000億円にものぼるという深刻な社会課題があり、犯罪抑止や犯人検挙の補助手段としてドローンの可能性を探った。

 検証はスマートトラック機能を活用して(1)歩いている人を追えるか、(2)走っている人を追えるか、(3)木などの障害物に隠れた際に追えるか、(4)似た服装の人物とのすれ違いを識別できるか、という4つの観点で実験を実施。(1)(2)は、カメラの自動追跡機能により十分にターゲットを追えたが、障害物に隠れた際や似た服装とのすれ違いでは追跡が困難と判明した。

 これらの結果を受け、課題点としては「人物の長時間追跡の難しさ」「羽の音の大きさによる威圧感」などを挙げた。また、飛行時間の延長、プロペラ音の静音化、障害物回避機能など、将来的に実現すべきドローンの機能についても提案した。さらに、農地・畜産施設での動物追跡、農作物の生育モニタリングなど、万引き対策にとどまらない活用方法にも触れ、発展性を見出した発表だった。

写真:発表する生徒、スクリーンに映し出された実証実験の様子
物流チームは実証実験の動画を交えてプレゼンテーションを行った。

 この発表を受けた講評で、池辺氏は「技術をいろいろと試して、できることやできないことを、実感を持って見極めたところが大変素晴らしかった。科学館職員という職業柄『ゲームでも使えそう』と思って、興味深かったです」と高評価。熊田社長も、防犯対策として資材置き場の監視に対応するドローンの需要が高まっていることを述べたうえで「現実のニーズに非常に即しています。画像解析だけだと限界があるので、赤外線カメラなど多様なセンサーを組み合わせて補完することも必要になるでしょう」と今後の取り組み方に言及した。

動物との関わり方にドローンを活用するアイデアを披露

 1年生3人のそれぞれの発表は板橋区に住む生き物たちとの関わり方に、ドローンを活用したいという考えが共通していた。野良猫については板橋区において目撃情報が増加傾向にあり、それにともない排泄物や鳴き声、感染症リスクなどが増えるといった地域トラブルが懸念されている。そこで、赤外線カメラや追跡機能を持つドローンを活用し捜索・保護の効率化を提案。赤外線カメラであれば草むらなどでも発見しやすく、また、スピーカー搭載ドローンを使用して落ち着く音楽を流せば猫も安心できるのではという見通しを語った。来年はこの計画をもとに、ドローンを使用した野生動物探索の実証実験に取り組みたいとしている。

写真:「企画アイデアの内容」スライド
どういった人々にドローンを活用した野良猫の保護を提案するかまで検討していた。

 また、板橋区内ではハクビシンやアライグマといった生き物も増加し、家屋の損壊や農作物への被害などが起きていることから、探索にドローンの活用を提言。これらの動物は夜行性であるため、赤外線カメラによる監視の必要性を訴えた。また、ドローンに搭載したスピーカーから威嚇音を流すことも有用ではという考えを示した。

写真:話をする池辺氏
「ドローンというツールを使い倒し、遊び倒して新たな可能性を見出してほしい」と池辺氏は生徒たちを応援した。

 講評で印象的だったのは池辺氏や、同席していた板橋区環境政策課職員の「生き物との共生」という考え方だ。赤外線カメラやスピーカーで発見・撃退という取り組みは大切だが、駆除するだけでなく、適切に個体数を管理して共生を目指すための基礎的なデータ収集にも活かせそうと指摘した。生き物とよりよい関係を築きたいと願う高校生たちに、この取り組みを続けていくための勇気を与えたに違いない。

 最後に日大豊山女子高校の黛俊行校長が登壇。探究プラットフォームは「面白さ」が重要であり、そのために企業や大学との連携を積極的に取り入れていることを紹介した。生徒たちには「最初に設定した課題やテーマに固執せず、考えを変化させて柔軟に対応し、探究を楽しんでほしい」とメッセージを贈った。

写真:話をする熊田社長
「産官学が世代を超えて集まり、リアルタイムで意見交換できた非常に貴重な会だった。イノベーションの種になる」と発表会の感想を語った熊田社長。
写真:話をする青木氏
日大第一中学・高校の校長を務める青木氏は「自校の生徒にも見せたいほど素晴らしい内容だった」と絶賛した。