KDDI、KDDIスマートドローン、ローソン、埼玉県秩父市、そしてちちぶ結いまちの5者は、今年1月から同市内でドローンを使った山間部の貨物配送の利便性向上と二酸化炭素(CO2)削減を目指した実証実験を開始。その様子を2月12日に公開した。2027年以降の社会実装を目指す。
公開された実験では、秩父市の市街地にあるローソン秩父荒川上田野店から直線で約7km離れた山間部にある同市浦山地区の老人福祉センター渓流荘までプロドローン社製「PD6B-Type3」を使って、ローソンの人気商品である「からあげクン」や弁当など3.3kgの貨物を約12分で運んだ。現在は1日1~2往復程度運航されているという。
加速する人口減少と高齢化に加え、CO2も増加
秩父市は埼玉県西部に位置する市。面積は約578km²と同県内では最も広い。一方で2005年に7万人いた人口が2024年には6万人まで減少。また、全体人口に対して65歳以上の人口が占める割合である高齢化率も35%を超え、人口減少と高齢化が加速している。特に山間部ではその傾向が顕著で、今回、公開された実験で貨物が運ばれた同市浦山地区でも高齢化率が7割を超えているという。
そのため、いわゆる買い物難民が増加傾向にある一方で、複雑な経路での配送トラックの運行にともなうCO2の増加も予想される。こうしたことから5者は共同で昨年、環境省の「運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業」に「モビリティハブで実現する共同配送とドローン活用によるCO2削減」と題した案を提示して採択された。
具体的には、同事業の補助金を受けて、ローソンの店舗や道の駅などを「モビリティハブ」として貨物を集約化。ラストワンマイル配送について、モビリティハブからドローンで個人宅まで直接行うほか、ローソンの移動販売車両で公民館などに荷物を運び、さらにそこからドローンで個人宅への配送を行うという取り組みだ。
実験での役割は、秩父市が関係機関の調整とビジネスモデルの検討、KDDIが事業全体の統括、KDDIスマートドローンがドローンの運航、ローソンがコンビニにおけるドローン導入効果の検証、ちちぶ結いまちがビジネス化の検討としている。
この実証実験は2024~2026年までの3カ年計画で、ビジネスモデルの検討や技術開発などを行い、貨物配送に伴って排出されるCO2の6割削減を目指す。2024年度はローソン店舗から複数のドローン配送ルートの設定、1対2運航(1人のオペレーターが2機のドローンを同時に運航する)などを行う。
不感地帯に衛星通信スターリンクの基地局を設置
ドローンはレベル3.5の遠隔自律飛行で、制御はLTE通信を介して行っているが、設定された飛行ルート上にはLTE通信が行き届かない不感地帯もある。
そこでKDDIは不感地帯に衛星通信スターリンクの基地局を設置し、飛行の継続監視を行う。基地局には高性能の太陽光発電パネルも設置されており、蓄電池との組み合わせでCO2を出さずに必要電力を確保できるという。
秩父から物流における課題解決のモデルケースを展開
実証実験のまとめ役であるKDDIの森嶋氏は「ビジネスとしての採算性から1対多運航(1人のオペレーターで多数機を運航する)が必要です。今後はこうしたことも実験していきたいと考えています。今回の秩父での実証実験を通じて、全国の地方が抱える物流の課題解決へのモデルケースを目指します」と話した。
また、ローソンのインキュベーションカンパニー新規サービス部シニアマネジャーの戸津氏は「現在、ローソンは36都道府県の128店舗で移動販売車を導入していますが、限界集落など全国津々浦々に商品を届けるためには、ドローンを実用化していく必要があります」と実験参加の意義を話した。
実証実験公開には秩父市の北堀市長も視察に訪れ「スターリンクを使った通信をはじめ、ドローンによる新しい形の配送で秩父や全国(の中山間地域)の物流が改善されることを期待したいと思います」と述べた。