現地で披露された数々のデモ、注目の5つを動画で紹介
国際会議に参加したのは、ArduPilotのソースコード改良に日々携わっているコアな開発者がメインである。それだけに、非常に高いレベルかつ革新的技術デモが多数披露された。ここでは、代表的なものを5つ紹介する。
デモ①:スラングペイロード(吊り下げた荷物)の振動抑制
ドローンでの物資運搬と言えば、ドローンの機体に物資を搭載して運ぶのが一般的だろう。しかしその方法だと、物資を降ろす際にドローンの着陸が必要になり、着陸スペースがないような狭い場所や斜面などに物資を届けることが難しい。
そこで、ドローンは空中に浮遊させたまま、ドローンから垂らしたロープに荷物を吊り下げて輸送し、受け渡し時も物資だけを地上に降ろして届ける方法が模索されている。この方法ならば、着陸スペースがない場所にもリスクを減らして物資を届けられるが、その一方で、輸送中にロープと荷物が風の影響で大きく揺れてしまい、木やビルなどの障害物に引っかかってしまったり、目標地点に荷物を降ろせなかったりする懸念がある。
この課題に対し、ランディ氏を筆頭に、ArduPilotを用いた革新的ドローンソリューションの開発に取り組む「TAP-J」(上述のドローンエンジニア養成塾卒業生の有志任意グループ)が、吊り下げた荷物の揺れを最小限に抑えるデモを披露した。ドローンから垂れ下がる約40mのロープに荷物を取り付けて飛行させ、センサーや荷物側に取り付けられているGPSデータをもとに、ロープの揺れをドローン側の機体制御で抑制する。
当日は、わざとジグザグに飛行して荷物を大きく揺らしたあとで、スラングペイロード機能をオンにすると、スッと揺れが落ち着く様が見られた。ランディ氏によると、「狙った目標地点からわずか数cmの場所に荷物を着地させられる」といい、宣言通り、数cmの誤差で着地させたことで、参加者からは大きな拍手が巻き起こった。
この技術により、広い着陸スペースのない山間部や災害現場など、ドローンによる配送が難しかった場所にも荷物を届けることができるようになり、ドローンによる配達・運搬をより効率的で安全なものにできる期待が持たれる。
デモ②:高速飛行(Fast Loop Rate)
ホビーの世界のドローンでは、時速200kmを超えるスピードで、決められたコースをいかに早く飛行できるか競う高速ドローンレースが知られている。これまでArduPilotはドローンレースではあまり使われてこなかったが、今回、イギリスのAndy Piper(アンディ・パイパー)氏が、ArduPilotを高速ドローンレースにも活用するという発想のもと、その高速制御の開発成果を披露した。
アンディ氏は、加賀市の九谷ダム周辺で、自身のリアルタイムマニュアル操縦によるアクロバット飛行を行った。さらに、ドローンから中継される映像が途絶えた後に、RTL(Return-to-Launch:自動帰還)モードへ切り替え、出発地点に自動でドローンを帰投させるデモも実施し、成功した。
高速でのマニュアル操縦とArduPilotの強みである自動モードを自在に制御できることを示し、ArduPilotの実力を見せつけ、会場での反響が特に大きかったデモの1つとなった。
デモ③:緊急用パラシュート(Emergency Parachute System)
自動車のエアバッグ用部品などで知られる日本化薬グループは、ドローン用の緊急用パラシュートを実演した。ドローンが空中でもし故障したとき、怪我人の発生や物損事故を抑制する対策の1つだ。異常を検知したら即座にパラシュートを開き、ゆっくりと着陸させる。
デモでは、地上から約30mの高さで浮遊するドローンのモーターを強制停止させたところ、間髪を入れずパラシュートが開き、ゆっくりと落着させることができた。また、それに伴う機体の損傷もなかった。30mはドローンの飛行高度としてはかなり低いが、それでもパラシュート展開が間に合うことを証明できた形となる。
日本ではドローンの第一種型式認証を取得する上でパラシュート搭載が必須化されており、今後注目を集めそうだ。
デモ④:ミニコプター各種
会期を通じ、多くのデモが行われ注目を集めていたのは、機体重量が100g以下の各種ミニコプター(小型ドローン)だ。
Michelle Ros(ミシェル・ロス)氏は、HDZERO社のVTX(ビデオトランスミッター)を搭載しながら重量を100g以下に抑えたドローンでのFPV(First Person View:ドローンの視点から見て飛ばす)飛行を披露した。
Thomas Watson(トーマス・ワトソン)氏は、M5stack社からESP32-S3搭載のタイニードローンをプレゼン中に飛行させた。ESP32はSTM32に比べて安価で便利なため、ホビー用途にも適しているが、速度やパフォーマンスでの制約のため最適化が必要だった。IMUの更新周期やOSなど様々な問題が発生していたが、安定した飛行を可能にさせた。
なお日本国内では100g以下の機体なら飛行申請が不要であるため、入門者向けやホビー用途はもちろん、開発用としても100g以下のドローンの意義は大きい。
デモ⑤:艦艇着陸とエンジン垂直離着陸(Ship landing & Engine VTOL)
固定翼での長距離飛行が可能なVTOL(垂直離着陸)ドローン「FUSION」で有名な株式会社空解は、同機と株式会社RtoSのローバー「SPARK」を組み合わせたデモを披露した。
デモでは、地上を走行するSPARKの後ろを、FUSIONが空中で追従飛行し、最終的にはSPARKのピッタリ5メートル後方に着陸させた。両機の位置関係の調整にはGPSを利用し、動作はすべてArduPilotによる自律制御で実現しているという。開発陣によれば、そもそもは水上を走行する船(Ship)の上に飛行体を着陸させることを想定していることから、今回の発表タイトルになった。
さらに、ガソリンエンジンで動作するプロトタイプVTOLドローンのデモも実施し、こちらも無事成功している。
会期中は、この5つ以外にもさまざまなドローンのデモが披露され、イベントは盛り上がった。
参加者からは大好評、日本の文化にも触れる
デモ以外に、壇上での研究発表・プレゼンテーションも発表された。その数は3日間で25テーマにも上った。ドローン(クアッドコプター)に限らず、幅広く自律制御全般をサポートするArduPilotの特徴を反映してか、ヘリコプター、飛行機、VTOL、ローバー、ボート各種ビークルに関連した講演も行われていた。大きさに関係なく、さまざまな移動体を制御できるのがArduPilotの強みのひとつだ。
3日間の国際会議は、ArduPilotエンジニアを支えるパートナーである5社の協賛により開催することができた。
- Aero Systems West社(米)https://aerosystemswest.com/
- CUAV社(中)https://www.cuav.net/en/home-2/
- CubePilot社(豪)https://www.cubepilot.com/#/home
- EAMS ROBOTICS社(日)https://www.eams-robo.co.jp/
- Holybro社(香港)https://holybro.com/
また参加者から大好評のうちに閉幕した。最先端の技術が発表される場でありながら、イベントはアットホームな雰囲気で、デモや懇親の場には家族連れも多かった。聞けば、家族5名で来日し、国際会議の前後1週間で加賀市以外の観光を楽しんだ方もいたそうだ。
ランディ氏も「本当に素晴らしかった。当日のスケジュール進行・管理などをはじめ、勝俣さんの準備のおかげですね」と笑顔を見せ、勝俣氏も「友だちがたくさんできました」と満足気だ。
ドローンとは直接関係ない部分でも、来日者にとっては楽しみが多かったようだ。現地では歓迎イベントとして、獅子舞、田楽、加賀市に伝わる民謡の山中節などの伝統芸能も披露され、参加者を喜ばせた。
試験飛行のための手続きが煩雑すぎる?! 勝俣氏、ランディ氏が懸念
しかし、開催準備にあたって苦労は多かったようだ。日本で開催する話が持ち上がったのが2024年初頭のタイミング。そこから急ピッチで開催に至ったスピード感もそうだが、勝俣氏が何よりも苦労したのは、行政向けの手続きの複雑さだったという。
「多くの国では、開発者やエンジニアがドローンを飛ばすのは比較的簡単で、欧米間での許認可は互換(ある国で許認可されれば他の欧米国ではその許認可が免除もしくは簡易になる)があるんです。しかし日本では、開発試験目的であっても、商用・実用目的に使うのと同じ手続きが要求されます」(勝俣氏)
よって今回の会期中にデモ飛行・走行させた機体も、もれなく行政手続き上の申請を行い、電波利用などの許可を得た上で動作させなければならない。参加者には来日前の段階で連絡を取り、スペックを確認し、稼働させる機体の写真を撮ってもらって、日本国内で提出する書類に添付した。
しかも、その写真は、機体の斜め上から1枚撮ればいいという訳ではない。三面図のように、正面・側面・平面から撮った写真でないと書類が差し戻されてしまう。勝俣氏としては心苦しいが、写真の撮り直しを開発者にお願いする機会も少なくなかったそうだ。他にも、設計図が求められたり、回路図を書くケースすらあるという。
「携帯電話の基地局を設置するぐらいの大変な手続きを、開発中のドローンにも求められる。さすがにこれでは『イノベーションが阻害される』という気持ちにもなってしまいます」(勝俣氏)
しかし勝俣氏としては「そんなにハードルが高いのに、なぜ日本に来て開催する必要があるの?」と言われないよう、ランディ氏とともに開発者の協力を積み重ねながら、今回の開催になんとかこぎ着けた。
ランディ氏もこの実態を前にして「ルールを作った人は真剣に考えていないのではないか」と指摘する。
「バランスが重要だと思います。安全のためにルールは必要ですが、イノベーションを起こすためには自由が必要です。日本はルールが多すぎて、イノベーションを抑え込んでしまっているのではないでしょうか。ルールを作る前にもう少し考えてほしいですね」(ランディ氏)
ドローン特区として、規制を緩和し、ドローンの“サンドボックス”をめざす加賀市にも期待したい。
今後はAI機能の強化なども検討
ArduPilotは、次期メジャーアップデートであるバージョン「4.6」のリリースが控えている。「今回の開発者会議で紹介された機能はすべて反映される」(ランディ氏)ため期待したい。
さらにランディ氏は、ArduPilotの今後の展開として「AI機能の強化」を挙げる。「ArduPilotのセットアップはまだまだ難しいです。そこで、例えばAIが『モーターの回転は正しいですか?』など聞いて、システムをサポートしてくれるような機能を検討しています。これは1年以内の実装を目指したいです」と、かなり具体的な目論みを明かしてくれた。
また、ChatGPTと連携し、チャットでドローンを飛行させることも開発者版で実現させた。これはドローンエンジニア養成塾でも率先して披露している。
ランディ氏は、「ArduPilotはオープンソースで開発されており、大勢のエンジニアの努力でできています。興味さえあれば誰でも開発に参加できるため、ぜひ注目してほしい」と呼び掛けた。勝俣氏も、「日本のドローンエンジニアがより世界のArduPilotエンジニアとして活躍していけるようランディとともにより尽力していきます」と述べた。
次回のArduPilot Developers Conferenceは、英国・ヨークで2025年秋に開催することが決定している。ArduPilotの開発者コミュニティでは情報発信を積極的に行っており、加賀市の開催分についても、順次レポートや動画を公開していく計画だ。この誌面でとりあげられた詳しいプレゼンやデモの内容はドローン・ジャパンの下記Webサイトをチェックしてほしい。