「今回の実証実験は血液製剤輸送標準化の第一歩といえる取り組み」

 輸血に必要な血液製剤は、おもに血液センターから医療機関に自動車で届けられている。しかし、離島には定期船で輸送することになるため、医療機関はある程度余裕を持って在庫するようにしている。ただ、離島の医療機関では血液製剤が必要な治療の頻度が少ないこともあって、在庫した血液製剤すべてを必ずしも有効期間内で使い切ることができるとはいえない。しかし、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称:薬機法)や安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律(通称:血液法)によって、原則として病院間で融通することができない。

 そこで、国は血液製剤使用適正化方策調査研究事業の中で、離島地域において血液製剤を効率的に運用する研究を実施。小笠原諸島という離島を抱える東京都でも、墨東病院を中心として、小笠原諸島の医療機関で使いきれなかった有効期限内の血液製剤を、再び墨東病院に戻して有効利用する「ブラッドローテーション運用」を行っている。

 今回の実証実験に参加した墨東病院輸血科の藤田浩部長は、「ドローンによる血液製剤輸送は、離島の島民の安全を担保してくれる存在。さらに墨東病院のある東京都東部地域はいわゆる“ゼロメートル地帯”(地表標高が満潮時の海抜高度より低い地域)であり、水害時に医薬品物流が停止するリスクが高い。その際にドローンは血液製剤輸送手段として有効。こうした取り組みでドローンによる血液製剤輸送の標準化が実現できることはとても有意義だ」と説明する。

小笠原諸島と墨東病院の間で血液製剤を融通する取り組み「Ogasawara blood rotation」。

2026年度を目途に第一種型式認証の取得を目指す伊藤忠

 今回の実証実験で伊藤忠と共同でWingcopter198の運航を担ったのはANAHDだ。同社は2021年3月に長崎県五島市、同年9~10月には北海道稚内市で、4ローターのWingcopter178を使った医薬品輸送の実証実験を実施している。また、2021年4月に医薬品及び日用品等のドローン配送事業化に向けた業務提携をWingcopter社と締結するなど、日本におけるWingcopterのオペレーターとして実績を重ねてきている。

「ANAHDのモビリティ事業創造部では、パイロット、整備、システム、貨物といった、航空機のエキスパート17人が、その知識と経験をドローン運航に適した形に置き換えて、安全運航体制を確立している」(信田氏)という。同社では昨年、ドイツのWingcopter社にスタッフを派遣して、Wingcopter198のオペレーションの研修を実施。同社未来創造室モビリティ事業創造部の鈴木謙次部長は「Wingcopter198は固定翼機として長距離飛行、高速飛行が可能な大型のドローン。ANAHDはエアラインとして培った運航技術を発揮して、固定翼機の運航特性に応じたフライトプランを作成し、安全かつ効率的な運航体制を確立していきたい」という。

実証実験について説明する中田悠太伊藤忠航空宇宙部航空宇宙第一課プロジェクトマネージャー(右)と信田光寿ANAHD未来創造室モビリティ事業創造部ドローン事業グループリーダー(左)。

 伊藤忠は2022年3月にWingcopter社に出資して、資本業務提携を結ぶと同時に、販売代理店契約を締結している。伊藤忠航空宇宙部の佐藤正治部長代行は「Wingcopter198はその卓越した性能に加えて、ユニセフと共にアフリカで医薬品の共同搬送を行ったほか、ドイツ、アメリカ、ブラジルといった地域で運航実績を重ねてきており、そこに伊藤忠が培ったノウハウを生かして、日本におけるドローン物流の立ち上げに取り組む」という。

 具体的には今後、今回のような血液製剤や医薬品といった医療分野のモノを中心に、ドローン物流のユースケースと飛行時間の蓄積を進めていくとしている。ただし、輸送を担う側としてドローンを飛ばすのではなく、あくまでもリースやサブスクリプションといったサービスモデルを検討している。「Wingcopter198はハイエンドの機体であり、操作や取り扱いが難しく、それを組織として担える事業者をパートナーとしてビジネスを進めていく」(中田氏)という。また、Wingcopter社はFAAの機体認証基準にかなう生産体制を整えており、伊藤忠では機体の冗長性や生産体制を踏まえて、日本において「2024年以降、国土交通省の無人航空機に関する型式認証の取得に取り組み、2026年を目途に型式認証を受けたい」(中田氏)としている。