風向きに応じて自律的に機首方向を変える自動飛行

 この日の実証は2~6℃保管の赤血球製剤(RBC)と、-20℃保管の新鮮凍結血漿製剤(FFP)の2種類の血液製剤をWingcopter198に搭載して、約1時間程度飛行させるという内容。赤血球製剤については氷点下になるような寒冷地においても2~6℃という保管温度を保つことを検証するため、蓄熱材あり、同なしという条件で飛行させた。

 東京都内の墨東病院から茨城県河内町のドローンフィールドKAWACHIまでは、検体や治験薬の輸送で実績のあるセルートの自動車で輸送。この間は赤血球製剤を電子冷却式血液搬送装置(ATR:Active Transfusion Refrigerator)、新鮮凍結血漿製剤を定温搬送装置の中で、それぞれ必要な温度帯に保ちながら輸送する。飛行場に到着すると各血液製剤をWingcopter198専用に開発された保冷箱に、それぞれ最適な保冷剤で挟み込む形で収め、同機の下面に取り付けられたカーゴポッドに格納して離陸した。

赤血球製剤(左)と新鮮凍結血漿製剤(右)(それぞれドローンに搭載するために梱包されている)。
血液製剤を収めて自動車で運ばれてきたATR(左)と定温搬送装置(右)。
Wingcopter198のカーゴポッドに合わせてスギヤマゲンが制作したドローン用保冷箱。内箱は熱伝導に優れたアルミ製。
ドローン用保冷箱の中に、3℃帯と-31℃帯の保冷剤を入れて温度を保つ。

 Wingcopter198はPCから離陸操作を行うと、垂直に上昇し、高度50mほどで自動的に前進を始め、設定された周回ルートに乗り、高度60m程度で水平飛行を始める。垂直上昇時はかなり大きな音が聞こえるが、水平飛行に移るとその音はほぼ聞こえず、むしろ飛行場上空を成田空港に向けて着陸する航空機の音がうるさいほどだ。

 この日のルートは利根川上空を楕円状に飛行するようにウェイポイント(WP)が設定されているが、Wingcopter198は常に風向きを検知しながら飛行しており、経路前方のWPの位置と風向きによって、旋回する方向を自律的に変えるのが特徴。この機能により着陸時も着陸帯上空に到達すると、自律的に機首方向を風上に向けて降下を始めるようになっている。

大きく機体をバンクさせて旋回するWingcopter198。旋回方向はWPと風向きに応じて機体が自律的に判断して決める。

 この日のフライトは3本計画されていたが、そのうち1本目のフライトでは途中でモバイル通信に不具合が発生し、通信を衛星経由に切り替えて離陸地点に帰還することとなった。その際もWingcopter198は自律的に機首方向を変えながら離陸地点に向かって飛行。その後、飛行を再開し、満充電のバッテリーが残量30%となるまで周回するという計画を完了したフライトでは、飛行時間53分、飛行距離78.8kmを記録している。

 着陸後、カーゴポッドに搭載された血液製剤は再び搬送装置に戻され、セルートの自動車で墨東病院まで輸送されている。今回の実証実験の自動車による輸送、ドローンの輸送による血液製剤への影響は、同病院で検証され後日学会などで報告されることとなっている。

Wingcopter198の飛行の様子。上昇から水平飛行に移ると、急激にローターの音が静かになる。着陸時は着陸地点上空に到達すると、自律的に風向きを判断して機首の向きを変えて降下を始める。