CHASING M2 PROで死魚回収の実証実験

 さらにダイニチは、CHASING社の正規代理店であるスペースワンと共同で、2021年6月にCHASING M2 PROを使った死魚回収の実証実験も行った。2021年春に発売されたCHASING M2 PROは、同社従来製品と比べてモーター出力が向上し、潜航速度や潮流への耐性が向上したほか、水中で物体を掴めるアームやマルチビームソナーなどのオプション製品の搭載も可能だ。寺坂氏は、「欲が出てきた」と話す。

「水中ドローンで死魚を発見できることは分かった。『(死魚が)いないなら潜らなくてよかったのに』という空振りは回避できるようになったので、次は発見したらその場で回収までしたいと考えた。水中ドローンで死魚の発見と回収を一度にできれば、潜らなくていいので、現場の負担をさらに減らせる」(寺坂氏)

 実証は2つの方法で行われた。1つは、オプション製品のアームを装着して、死魚を掴んで回収する方法。もう1つは、機体に市販の網を括り付けて、死魚をすくい上げる方法だ。結論からいうと、網ですくう方法で死魚回収に成功した。

アームで死魚を掴むところ
網で死魚をすくいあげたところ

 既存のアームでは、サイズ的には問題がなくとも、魚の鱗やぬめりで滑ってしまう。また、数日経過した死魚だと腐敗が進み、掴んだ瞬間に崩れてしまうといった指摘もあった。実証に参加した漁場スタッフからは、「アームにギザギザがあれば掴めるかも」との声があった。アームの掴む部分に、何か滑り止めになるものを取り付けるという方法もあるかもしれない。

スペースワンのスタッフと現場でさまざま意見交換するところ

 一方、機体にくくりつけた網での回収は、水中ドローンの前方にあるカメラで死魚とアームを見ながら機体の向きを操作して、数分で見事成功した。「網の前方のワイヤーは柔らかい方がいい」「操縦スキルが必要」といった意見が出るなど、改善や実用化の可能性が見出せた。

マグロの養殖現場での実証実験

 ダイニチがかかわるマグロの養殖場においても、水中ドローン活用のニーズがあるという。陸地から数百m離れた沖合にある漁場では、アンカーが切れてしまったときには潜って捜索している。深いところでは水深70mまで潜ることもあり、非常に危険であるうえ、やみくもに泳いでも見つからないケースもある。実証当日には、CHASING M2 PROにマルチビームソナー(Blueprint Subsea社 Oculus M750d)を搭載して、水中の物体を可視化した様子も披露された。写真は真鯛の漁場での様子だが、魚の形をくっきりと捉えていることが分かる。

マルチビームソナーで生簀内の魚がくっきりと黒く映し出された

 ちなみに、マグロの生簀内を見ようとCHASING M2 PROを投入したさいは、60kg〜80kgのマグロ約800尾が一定方向にぐるぐると泳ぎ回る潮流に、ケーブルが流されてたわんでしまい、口を半開きにして泳ぐマグロの歯にケーブルが引っかかり、驚いたマグロが暴れるというヒヤリとする場面もあった。ケーブルが細すぎるとマグロが認識できず避けきれない、潮流を意識したケーブル捌きが必要など、魚種や生育段階による水中ドローン導入の検討事項はまだまだありそうだ。

安高水産の事例

「毎年、同じことをやっていて、問題が起きなければ、逆に何も分からないと思う。攻めなければ」。こう語るのは、安高水産で社長をつとめる安岡高身氏だ。安岡氏は、「養殖業は昔から経験則に頼り、エビデンスが少ない業界だ」と指摘する。

「昔、よその養殖業者を継いだ若い人から、『過去の記録が何もないから、いつ何をするべきか全く分からない』と相談を受けた。養殖魚は経済動物だが生き物なので、人間に置き換えて『疲れているから餌を控えよう』など、感覚で対処してきたので記録がない。また、小規模の事業者さんでは、ABテストをする余裕を持ちづらいという側面もある。安高水産は、先代の父親がかなり記録を取る人だったので、自分自身が継いだときにはデータがかなり溜まっていたが、それでも僕は不足を感じた。ABテストを1回やっただけでその結果を信じるのではなく、何度も繰り返して結果を検証し続けて、そのデータを次の世代に引き継いで行きたい」(安岡氏)

 安岡氏は水中ドローンを、潜水士の安全を守ると同時に、「海の中を見える化できる、データ取得ツール」として位置付けている。FullDepthのDiveUnit 300を活用する頻度で最も多いのは、ロープが切れてしまったアンカーの捜索だというが、将来的にはアンカーの状態や位置など、漁場設備の現状把握と記録に活用して行く構えだ。

安高水産 社長の安岡高身氏