写真:ホワイトハウスではためくアメリカ国旗

 日本政府は、ドローン(無人航空機)を経済安全保障推進法に基づく「特定重要物資」に指定し、2030年までに年8万台規模の国内生産体制を構築する方針を示しました。研究開発や量産設備への投資に対しては最大50%の補助を行い、機体だけでなくモーターやバッテリーといった主要部品も支援対象に含めています。関連予算は約140億円規模に達しており、日本がドローン産業に本格的に公的資金を投下する姿勢を明確にしたと言えるでしょう。

 もっとも、この動きを単なる産業振興策として捉えるのは適切ではないと考えます。背景には、ここ数年で世界の前提条件そのものが大きく変化してきたという現実があることを理解すべきでしょう。

ウクライナ侵攻が変えたテクノロジーの位置づけ

 ロシアによるウクライナ侵攻は、エネルギーや食料に限らず、テクノロジーの意味合いをも大きく変えました。なかでもドローンは、偵察・攻撃・補給・通信といった複数の役割を担い、民生技術が瞬時に軍事用途へ転用され得る存在であることを、世界に強く印象づけました。

 その結果、ドローンは「Dual Use(軍民両用)」技術の象徴として認識されるようになり、各国は次のような現実と向き合うことになります。

  • 市場原理に委ねたグローバル分業は、有事には容易に断絶し得る
  • 特定国に依存したサプライチェーンは、安全保障上の脆弱性そのものになり得る
  • 技術性能以上に、「誰が作り、誰が管理しているか」が問われる時代に入った

 自由貿易そのものが否定されたわけではありません。しかし、「無条件のグローバル化」が後退し始めていることは明らかです。ドローン産業は、その変化が最も早く、かつ顕著に表れた分野の一つだと言えるでしょう。

アメリカ:一度閉じ、条件付きで開き直す

 アメリカのドローン政策は、この世界的な「内向き化」を象徴する動きを示しています。

 2025年12月22日、米連邦通信委員会(FCC)は、安全保障上の懸念を理由に、中国製に限らず「外国で新たに製造されたドローンおよび重要部品」を原則として規制対象に含める方針を打ち出しました。これは事実上、米国市場を一度リセットするに等しい判断であり、同盟国企業を含むグローバル業界に大きな影響を与えました。

 しかし、それからわずか2週間後の2026年1月7日には、この方針は部分的に修正されます。Blue UAS認証を受けた機体や、Buy American基準を満たす製品については、2027年までの期限付きで例外として扱われることになりました。

 この一連の動きが示しているのは、アメリカが単純に内向きになったわけではない、という点です。市場の入口をいったんすべて閉じたうえで、信頼できる技術とサプライチェーンのみを選別し、再び市場を開いたと見るのが実態に近いでしょう。

 アメリカが排除しようとしているのは外国技術そのものではありません。管理できず、説明責任を果たせない技術と供給網なのです。

台湾:内向き化を前提に、最初から外へ売る

 台湾の政策は、さらに踏み込んだものとなっています。

 中国との軍事的緊張を前提に、台湾はドローンを国家存続に直結する戦略産業と位置付け、「非紅(Non-Red)」政策を進めてきました。目標は2030年ではなく、2028年までに月産1万5,000台という、極めて野心的な設定がなされています。

 注目すべきなのは、台湾がこの「内向き化した世界」において、内需拡大ではなく、同盟圏向けの供給拠点となる道を選んでいる点です。

 サプライチェーンが政治的圧力によって遮断され得る現実を、台湾は最前線で理解しています。だからこそ、国内完結に固執するのではなく、民主主義圏との分業による「非中国サプライチェーン」の構築を急いでいるのです。

日本:立ち位置が定まりきらないまま

 これらと比較すると、日本の政策は、世界の内向き化という大きな潮流に十分に乗り切れていないように映ります。

 年8万台という目標は、世界市場を見据えれば決して大きな数字ではありません。一方で、国内需要だけを考えれば、過小とも言い切れない規模です。その結果、日本のドローン政策は、「内需向けとしてはやや過剰、外需向けとしては不足」という中途半端な位置にとどまっている印象を与えています。

 さらに、日本の国産化支援は、どの国の規制を通過し、どの市場で戦うのかという輸出前提の設計が十分とは言えません。世界が内向きになるほど重要になるのは、「国内で作ること」そのものではなく、「どの内向き市場に接続できるのか」という視点です。

内向きの時代に、どこにつながるのか

 ここで問われているのは、補助金の是非そのものではありません。問われているのは、その補助金が「どの世界」と接続するための時間を買っているのか、という点です。

 世界はすでに、「安いから」「高性能だから」ではなく、「信頼できるから」「同じ陣営だから」という基準で技術を選ぶ段階に入っています。

 アメリカのように、内向きに見えて外向きな市場を構築するのか。台湾のように、最初から外向きで、内向きの世界に入り込むのか。

 日本がこの問いに向き合わない限り、巨額の補助金は一定の安心感をもたらしても、持続的な競争力にはつながりません。

 いま必要なのは、内向きの時代において、日本のドローン産業を「どの世界」に接続するのかを見据えた、明確な戦略ではないでしょうか。

伊藤 英 (いとう・あきら)
1983年東京生まれ。カリフォルニア州立大学サンタクルズ校デジタルメディア学部卒。日本、米国、シンガポールの映像制作会社や広告メディア会社などで研鑽を高める。2018年にドローンのソリューションプロバイダーとして3年連続で世界第一位に選出されるAerodyne Groupの日本法人を設立し、CEOを務める。2023年より現職にて、公共及び民間のインフラ設備管理者向けに、ドローンをはじめとしたデジタル及び新技術を活用したDXソリューションの業務実装支援を行なっている。