川崎重工が開発するヒューマノイドロボット「Kaleido 9(カレイド9)」が2025国際ロボット展で公開された。人間のような動作と対話能力を持ち、工場、家庭、災害現場といった多様なシーンで活躍を見せる次世代型ロボットだ。最新モデル「Kaleido 9」の特徴とデモンストレーションの様子を解説する。

Kaleidoシリーズの歩みと進化、川崎重工は2015年からヒューマノイドロボット

「Kaleido 8」紹介動画(Kawasaki Robotics JP YouTubeチャンネル)

 川崎重工は、2015年から「Kaleido」の開発をスタートし、改良を重ねてきた。2023年の国際ロボット展では第8世代のKaleidoが披露され、ロバスト性(外部からの予期せぬ変動への対応)を重視した設計や、人との協働を想定した新機能が話題となった。

 第8世代では、転倒を防ぐバランス制御や、腕や肘に搭載された力覚センサーによる精密な作業、球面モニターによる多彩な表現力などが実装され、ロボットと人とのインタラクションがより自然なものとなった。

活躍の舞台は家庭から災害現場まで、Kaleido 9の実力をシーン別に紹介

 今回は初公開されたKaleido 9は、ロバスト性と環境認識能力をさらに向上し、新たなセンサーによって地形や障害物を3Dで認識できるようになった。これによってより精度の高い自律的な行動が可能になっている。さらには、AIによる多言語対応も可能となり、グローバルなコミュニケーションが可能になった。

写真:少し膝を曲げて立った状態のKaleido 9

 常に進化し続けているKaleido 9は、シミュレーション上で学習が可能だという。数千体を同時にシミュレーション上で動作させることでAI強化学習を行っている。この数千体の動きからあらゆる対応、細かい動作などを学習し、スムーズかつ柔軟な動作を実現していくという。

写真:「AI強化学習による不整地歩行制御則の獲得」の様子を映したモニター。画面内がたくさんのKaleido 9で埋め尽くされている

業務・家庭・災害救助での活用を実演

 2025国際ロボット展では、Kaleido 9の実運用を想定したデモが行われた。最初に用意されたのは、近未来の工場での活用シーンだ。

 現在は従業員がプログラムを使ってロボットに指示を出して稼働させている工場だが、今後はロボットの導入が増え、声指示と生成AIにより、柔軟な作業指示の変更が可能になる。川崎重工では、次世代コントローラーとクラウドプラットフォーム「RoboX」との連携を進めており、複数のロボットを一括で制御することができる。

 この次世代コントローラーをロボットに使用させれば、ロボットがロボットを動かすことが可能になる。本来であれば、ロボットに音声で指示するのは私たち人であるが、ロボット同士であれば指示を出すだけでなく、通信を行うことが可能だ。

 今回のデモでは、実際にKaleido 9が「ロボットAとロボットBは作業を開始してください」と発し、これを合図に据え置き型のロボットが作業を開始する様子が公開された。

 続いて、家庭における活用を提案。人の道具をそのまま使用できる身体構造を活かし、庭掃除やゴミ捨てといった日常的な作業をサポートする。周囲の状況をセンサーで認識し、人との協調作業を実現するのが大きな特長だ。

写真:竹ほうきを使ってKaleido 9が掃除をする様子が映るモニター
写真:口が開いたゴミ袋を両手で持つKaleido 9が映るモニター

 Kaleido 9は、スタッフに「これで落ち葉を集めて」と指示されると、会場に用意されたほうきを持ってちり取りに落ち葉を集めはじめた。そして、ゴミ袋を持つように指示されるとゴミ袋を広げて持ち、さらにそれをゴミ箱に捨てるよう指示すると、ゴミ箱までのルートを探索し、自律的にゴミ捨て場に向かって歩き始めた。

 モニターにはKaleido 9の認識画面が映し出され、胸部に搭載されたセンサーによってリアルタイムに周囲環境を把握する様子が見られた。探索したルートは青いラインで表示され、周囲の環境に応じてルート変更が行われる。そして、Kaleido 9は無事にゴミ捨てを終えることができた。

写真:モニターに映し出されたKaleido 9の認識画面。周囲の状況と青いラインで示されたルート

 次は災害現場での活用だ。

 会場では火災現場を想定したエリアが用意された。ここでは、人が近づくことのできない場所にKaleido 9が入り、救助活動を行う様子が披露された。

 これまでKaleido 9は、人の指示に従って自律的に作業する様子を見せたが、救助活動は人による遠隔操縦モードで行われた。スタッフがVRゴーグル(Meta Quest 3)を使用し、Kaleido 9のカメラ映像をVRゴーグルに映し出して操縦する技法だ。手に持ったコントローラーを動かすことでKaleido 9の腕を連動させることができ、細かな作業も可能になる。

写真:火のパネルに向かって手に持ったホースから放水し、消火活動を行うKaleido 9の様子を映したモニター
写真:倒れた棚を起こそうとするKaleido 9の様子を映したモニター

 Kaleido 9は、会場に用意された放水用ホースを手に持ち、火災に見立てたパネルに向け、消火活動を行った。そして、奥には取り残された猫がいる想定となっているが、棚が倒れており、アクセスが困難な状況だ。Kaleido 9は棚の前に立つと、約30kgある棚を起こして無事に猫を助け出すことに成功した。

共創拠点KAWARUBAを羽田にオープン

 川崎重工は、ソーシャルロボットの社会実装を加速させるため、東京都大田区・羽田に新設された「CO-CREATION PARK KAWARUBA(カワルバ)」を新たな開発と共創の拠点としてオープンした。

 この施設は、産学官連携および企業間の共創を目的としたスペースであり、多様なステークホルダーが集まり、課題解決に向けた実証実験や共同開発を行う場となっている。従来、明石工場を中心に開発が進められてきたKaleidoや、双腕自走式ソーシャルロボット「Nyokkey」の研究・実証活動も、より人の往来が多い首都圏エリアに拠点を移すことで、社会実装を現実のものとして加速する狙いがある。

 また、KAWARUBAでは一般公開イベントも開催されるなど、社会との接点を意識した活動が盛んに行われている。川崎重工はこの場を活用し、現実のニーズを反映させたロボット開発を進め、「人とロボットが共生する社会」の早期実現を目指している。

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