9月24日から25日の期間、「第4回ドローンサミット」が愛知県名古屋市港区の「ポートメッセなごや」で開催された。2022年創業のスタートアップ企業AIR WINGSが、物流用VTOL(垂直離着陸型固定翼)機を活用した新たな空の輸送インフラづくりに挑んでいる。代表を務める林賢太氏は、かつてANAでボーイング777を担当する整備士として活躍した経歴を持ち、事業用操縦士・計器飛行証明の資格も有している。
VTOL物流の社会実装を進める3つの事業軸
AIR WINGSの事業は大きく3つに分かれる。
1つ目は、自社およびパートナー企業によるVTOL機を用いたドローン物流の社会実装。2つ目は、同社が蓄積してきたVTOL運用ノウハウを企業へ提供し、運航支援やコンサルティングで支えること。3つ目は、今後ニーズが高まるレベル3(目視外飛行)以上の飛行を行う操縦者の育成・教育である。
同社はすでに2022年から新潟県内で物流実証に参画。佐渡と新潟本土を結ぶ空路を活用し、佐渡からは海産物、新潟からは血液製剤や医療資材を輸送する試みを重ねてきた。
ドイツ製VTOL機「PHOENIX WINGS」を導入
展示会では、ドイツのPhoenix Wings社が開発するVTOL機が展示された。翼幅は2.98m、最大離陸重量は52kg、ペイロードは最大15kg(航続距離60km)まで対応する。
林氏はこの機体を次のように紹介した。「ドイツ製VTOLといえばWingcopterが有名ですが、同機は最大離陸重量25kg未満でペイロードも限られていました。PHOENIX WINGSは、物流専用機として重量物を運ぶという特長を活かして差別化を図りたいと考えています」。
特徴的なのは、機首が開閉式のカバー構造になっており、内部に荷物を収納する方式を採用している点だ。荷台が引き出せるよう設計されており、積み下ろしの効率性も高い。安全性にも配慮が行き届いており、速度センサーや推進モーターは2系統で冗長化されている。さらに垂直離着陸用ローターを6基搭載し、仮に1基が故障しても残りのローターで飛行を継続できる設計だ。林氏は「安全性を最優先にした構造です」と強調する。
この機体はすでにエアロダインジャパンが国内導入しており、長崎県内で実証実験を実施している。AIR WINGSも今夏から導入を開始し、10月以降には岐阜県内や新潟県内で飛行を予定している。まずは3~5kg程度の医薬品輸送から運用を始める見通しだ。
VTOL型ドローンで医薬品から災害物資まで、“空の物流”を現実に
翼幅が約3mあるため離着陸場所が広く必要に思われるが、10m四方ほどのスペースを確保すれば十分運用可能だという。この取り回しのしやすさは、物資輸送で利用が広がるDJI「FlyCart 30」にも通じる。PHOENIX WINGSの優れた運用性がうかがえる。
今後AIR WINGSは、同機の高いペイロード性能を活かし、平時は医薬品などの定期輸送に、災害時は救援物資輸送に活用する構想を描く。「この機体を利用して物資輸送を行いたいという顧客も積極的に探していきたい」と林氏は意欲を語る。航空整備士出身の代表が率いるAIR WINGSは、実用的なVTOL機運用と安全性を両立したドローン物流の実現に向け、空のインフラ構築を着実に進めている。
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