JR東日本グループが本気で挑む「ドローンDX CHAMPIONSHIP」開催

写真:TAKANAWA GATEWAY CITYの外観と人々

 狭隘空間の点検を行う小型ドローン「IBIS2 Assist」を開発・販売するLiberawareは、東日本旅客鉄道(JR東日本)のグループ企業と協業し、駅施設などの点検業務にIBIS2を活用している。2021年には、JR東日本スタートアップおよびJR東日本コンサルタンツとの合弁会社としてCalTaを設立。同社はインフラ施設などの三次元点群データを取得・利活用するプラットフォーム「TRANCITY」を提供するなど、鉄道インフラの高度化を支えている。

 そんなドローン活用に積極的なJR東日本グループが、ドローンをより身近に感じてもらうことを目的に開催したのが「JR東日本グループ ドローンDX CHAMPIONSHIP」である。

 イベントは2025年6月7日と8日の2日間、東京都港区の「TAKANAWA GATEWAY CITY」を舞台に開催された。新しく設けられた高輪ゲートシティ駅のエリアは、2025年3月に「まちびらき」を行ったばかりの最先端の街で、広場を移動する自動走行ロボットや、高輪ゲートウェイ駅で活躍する警備・清掃ロボットなど、スマートシティの象徴的な設備が整備されている。

写真:TAKANAWA GATEWAY CITYの屋外で人を乗せて移動するロボットや水遊びをする子どもたち

駅施設点検を支えるIBIS2 Assistとは?鉄道インフラを変える小型ドローン

 イベント最大の目玉は、Liberawareが開発・販売しているIBIS2 Assistを用いた本格的なドローンレースだ。IBIS2 Assistは、狭小空間の点検用に開発された小型ドローン「IBIS2」の性能を向上したモデルであり、機体の上下4m以内の障害物を検知し、自動で高度を維持する補助機能が追加された。これによって誰もが扱える点検用ドローンとして3月にリリースされたばかりだ。

写真:箱に収められた「IBIS2 Assist」
Liberawareが2025年3月にリリースした国産ドローン「IBIS2 Assist」。人ではアクセスできない屋内施設の狭小部の点検などに役立てられる。

 会場となった「TAKANAWA GATEWAY CITY THE LINKPILLAR1 地下2階」には、駅をモチーフにした特製コースが設営された。コースは天井裏の狭隘空間やホーム床下をイメージしたルートを含み、IBIS2 Assistの特長を最大限に活かす設計だ。レースのクライマックスでは、実際に使用されている改札機に、ドローンに取り付けたSuicaをタッチしてゴールする演出も行われた。

写真:ネットで囲われたレースコースに設置された改札
ドローンレースのコース全景。会場の真ん中に設置され、存在感を放つ。実際の改札機が使用されているのは、JR東日本のイベントならではだ。

 7日には、JR東日本の設備点検や工事設計などで既にドローンを業務利用している部署の4チームが出場する「JR東日本グループ Challenge Cup」を開催。8日には、JR東日本グループ以外の企業でIBIS2を業務で活用する8事業者のオペレーターが競い合う「JR東日本グループ presents『IBIS2 Master Cup』」が行われた。

 イベントではレース以外にも、小学生向けの職業体験プログラム、IBIS2 Assistの操縦体験コーナー、ドローンを使ったお菓子釣り、TRANCITYを活用した宝探しゲームなど、最新のテクノロジーに触れられる多彩なコンテンツを用意。家族連れでも1日楽しめる内容となった。

写真:子どもがドローンを操縦し、飛行するドローンでお菓子を釣り上げようとする様子
子どもが夢中で楽しめるドローンのお菓子釣り。
写真:ドローンを操縦する子どもとサポートするスタッフ
子ども向けのタイムアタックゲームも行われた。
写真:モニターを映る点検映像を見る子どもとスタッフ
ドローンで撮影した駅施設の点検映像を見ながら、スタッフが子供向けに丁寧に解説していた。

改札タッチでゴール!IBIS2 Assistが挑む白熱のドローンレース

 ドローンレースである「IBIS2 Master Cup」では、ライトアップされた巨大な特製コースが目を引いた。レースに参戦したのは、JR東日本ビルテック、えきまちエナジークリエイト、KDDIスマートドローン、セントラル警備保障、ソフトバンク、JR東日本コンサルタンツ、新潟工科大学/アグリノーム研究所/九電ドローンサービスの合同チーム、東京電力ホールディングスの計8社で、レースは2組のトーナメント形式で行われた。

 各社のオペレーターは通常業務と同様に、ドローンから送られる映像を頼りに、複雑で入り組んだコースを飛行させる。3人1組のチーム制で、操縦を交替しながら進行。オペレーター以外のメンバーは操縦補助や機体チェック、Suicaの取り付けなどを担当した。

写真:レースコースを飛行するドローン
配管をイメージしたコースに進入するIBIS2 Assist。配管は2本通されているが、好きなほうを飛行して構わない。

 レースはタイムアタック形式で、ステージごとに周回数が増える仕組みだ。決勝戦では3周の合計タイムを競い、コース内に設置されたARマーカーをスキャンするとタイム短縮のボーナスが得られるなど、戦略性も問われた。

写真:レースコースを飛行するドローン
駅のホームを模したロングストレートを全力で飛ぶIBIS2 Assist。点検業務ではあまり見られない飛行形態だ。機体の上部には天井裏へと続く点検口が空いている。

 産業用ドローンであるIBIS2 Assistを用いたレースに「本当にレースが成立するのか」と当初は疑問を抱いていたが、実際にはIBIS2 Assistが上下左右に細かく移動し、狭隘空間を縫うように飛ぶ様子に目を奪われた。駅のホームを模したロングストレートでは全速力で駆け抜け、Suicaタッチでゴールを決める際には失敗を繰り返しながらも挑む姿に、思わず応援したくなるほどだった。

写真:ステージ上に設置されたテーブルに着席する4人と周囲の様子
グリーンのライトで照らされたステージに対戦する企業同士が向かい合う形で着席。テーブル上に設置されたモニターの映像を頼りに操縦する。背景のスクリーンにはチームのタイムとIBIS2 Assistから送信される映像が映し出される。

 レースを盛り上げる実況・解説や迫力ある映像演出も加わり、イベントとしてのエンタメ性は非常に高かった。また、普段は点検業務で安全を最優先するオペレーターたちが「安全に操縦する」ことを意識しつつも、攻めるべきところでは全力を尽くす姿勢が印象的だった。
 特に、「IBIS2 Master Cup」で初代チャンピオンに輝いたKDDIスマートドローンチームのパフォーマンスは圧巻だった。決勝でアンカーを務めたオペレーターは、ARマーカーを全回収しつつ、3周をわずか34秒で完走。ほかのチームが3分前後かかる中、産業用ドローンでもこれほどエキサイティングなレースができることを証明した。

 2日目に開催された「IBIS2 Master Cup」の結果は、KDDIスマートドローンが優勝に輝き、新潟工科大学/アグリノーム研究所/九電ドローンサービスが準優勝、JR東日本ビルテックが3位となり、各社が接戦を繰り広げた。

写真:トロフィーの授受
優勝したKDDIスマートドローンにはトロフィーとビール券が贈られた。左はJR東日本の喜㔟代表。
写真:壇上に並ぶ人々
JR東日本の喜㔟代表とレースに参加した企業のオペレーター達。

ドローン操縦や職業体験も充実!家族で楽しめる多彩なプログラム

 会場内では、JR東日本グループや各企業によるドローン活用事例の展示も実施された。鉄道現場での巡視点検や災害時の施設確認に、自律型ドローンを活用することを目指すプロジェクトである「Project SPARROW」の紹介パネルなどが並び、VRゴーグルを用いて点検の様子を体験できるブースもあった。

写真:展示されたドローン
「Project SPARROW」で使用される自律型ドローンのイメージ。線路上空を飛行して点検する。

 多くのファミリー層が楽しめるように休日の開催ということもあり、子ども連れの来場者が多かった印象だ。JR東日本の広報担当者は「高輪周辺の住民の皆さんは『今日は何かやってるかな?』と散歩気分で立ち寄ってくださいます。JR東日本グループや参加企業の家族だけでなく、地域の方にも楽しんでもらっています」と語る。筆者自身、IBIS2 Assistの操縦体験を初めて行い、国家資格「無人航空機操縦者技能証明」の実技試験にも含まれる8の字飛行を試すと、スティック操作の滑らかさや応答性の高さに感心した。狭隘空間での繊細な飛行が求められる現場に適した機体だと実感した。

 イベントの最後にはJR東日本の喜㔟陽一代表も登壇し、「各チームの技術力とチームワークが結集した戦いをワクワクドキドキしながら観戦しました。Master Cupも第2回、第3回と続けていきたいと考えています」とコメントし、今後の継続開催に意欲を示した。