建築の維持管理を変える「点群BIM」とドローン技術

 2025年5月30日、一般社団法人日本建築ドローン協会(JADA)の第8期定時総会にて、「建物の維持管理・運営段階に向けたBIMの構築およびドローン、点群技術活用の可能性」と題した基調講演が行われた。登壇者は芝浦工業大学建築学部の志手一哉教授である。

写真:話をする志手教授
芝浦工業大学 建築学部 建築学科 建築生産マネジメント研究室 志手 一哉教授。

 現在急速に進行しているデジタル化の波の中で、建築分野においては、維持管理分野におけるBIM(Building Information Modeling)と点群データの融合である「点群BIM」の概念が特に注目されている。志手教授は、これによって建物管理の効率化が可能になり、ドローンが果たす役割も大きいと指摘した。

点群BIMとは何か?既存建物におけるBIMの現実的解

 BIMは、建築物の形状、部材、性能、維持管理情報などを統合した3Dモデルを用い、建築プロセス全体を通じて情報を一元管理する手法である。新築物件では設計・施工段階から導入が進んでいるが、既存建物ではBIMデータが存在しないケースが圧倒的多数を占める。

 日本では築30年以上の建物が全体の約4割を占めており、今後ますますその割合は増加する。こうした建物の維持管理を効率化する手段として、志手教授は点群データを直接活用する点群BIMの導入に注力している。

 点群とは、レーザースキャナーやドローンの写真撮影によって得られる無数の点から成る三次元データ群である。従来のBIMが3Dモデルを再構築するのに対し、点群BIMではこの点群データをそのまま建築情報として活用する。

 志手研究室では、点群データの取得から、セグメンテーション(設備ごとの点群分割)、ラベリング(OCRなどによる名称付け)、検索可能な構造化までを一貫して行うシステムを構築している。これにより、建物内の機器や設備の位置や情報を素早く検索・管理することが可能になる。

スライド:点群データのセグメント分け技術の開発
セグメント化された点群データ。同じグループは同じ色で示される。
スライド:点群データから自動で文字列抽出し、ラベルを貼る技術の開発
点群データから文字列を抽出しOCRにかけることでラベル化が可能。

 特に、災害や緊急時の対応において、点群BIMは高い有用性を発揮する。停電や浸水といったトラブル時には、現場と遠隔地の対策本部との間で正確な情報の共有が求められるが、これまでの口頭説明や2D図面では限界があった。

 点群上にスイッチやバルブの位置、機器の名称情報などを付加することで、現場状況を三次元的に把握しながら指示を出すことができ、迅速な対応が可能となる。

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ドローンの外壁点検は実装可能段階へ──UR都市機構との協働プロジェクト

 講演では、志手研究室が2023年度にUR都市機構と協働で実施したドローンによる外壁点検の事例が紹介された。対象となったのは、1967年竣工の5階建て賃貸住宅である。

 これまで外壁の劣化診断は、建物に足場を組み、作業員が目視で確認しながら図面を作成するという方法が主流であった。URでは、この作業の手間とコスト、人的リソースの問題に対する課題意識を持ち、効率化を検討してきた。その中で採用されたのがドローンだ。

 実証では、壁面から約3mの距離を保ちながらドローンを上昇・下降させ、1階から5階までの壁面を撮影。DJI Phantom 3を使用し、民間資格を持つ学生が飛行計画の策定から許可取得、操縦までを担当した。URは住民に対して事前通知を行い、プライバシー保護にも配慮する形で飛行を行った。

スライド:ドローンの飛行計画
ドローンの飛行ルートが簡易的な図で示された。5階に到達したら少し横にずれ、1階まで降りながら撮影する。これを数往復実施してデータを取得した。

 離隔距離の維持が難しい場面もあったが、すぐに操縦に慣れ、従来3日かかるとされた撮影作業を1日未満で完了。4K映像には、外壁の劣化、クラック、さびが鮮明に記録された。

 その後、実際に足場を設置し、作業員による目視点検結果と比較したところ、約8割が一致。撮影できなかったバルコニー裏などの2割は、従来通りの方法で補完された。

ドローンと人手の棲み分けで効率的な点検体制の構築

 今後は、ドローンで確認可能な箇所はドローンを活用し、撮影困難な部分は作業員が対応するという棲み分けが有効である。限られた人的リソースを効率的に活用するためには、役割分担の最適化が鍵となる。

 また、この事例ではレーザースキャナーによる点群データも取得し、ドローンによる映像データと組み合わせることで、修繕が必要な箇所の数量的把握が可能となった。

スライド:写真と見比べながら修繕範囲の数量を測量
点群とドローンが撮影した画像を組み合わせ、具体的な場所の数量の取得が可能と確認できた。

 志手教授は、こうしたデータ活用により、居住者自身が建物の状態を把握し、不適切な修繕工事から自らを守る知識が備わることを期待している。

実装に向けた展望とJADAの役割

 ドローンを活用した点検の研究・実証は進められているものの、まだ一般化していないのが現状だ。志手教授は「技術や性能のハードルは存在しません。あとは“誰かが最後のひと押し”をすれば、一気に広がるはずです」と語る。

 JADAとしても、今後はこのようなドローン活用事例を積極的に発信し、建築業界全体への普及と社会実装を後押ししていく方針である。

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