9月4日・5日、神戸国際展示場にて産業総合展示会「国際フロンティア産業メッセ2025」が開催され、5日には関西航空機産業プラットフォームNEXT主催による講演「大阪・関西万博後の空飛ぶクルマ、実装に向けた課題と見通し」が行われたので、その模様をレポートする。
実装の3つのカギと今後のロードマップ
電動化、自動化、垂直離着陸の3つの特長を備えると期待される次世代モビリティである空飛ぶクルマは、大阪・関西万博で一般公開され、国産機が海上飛行を成功させるなど、一般の人々に向けた認知が急速に広まっている。関係者からは、「空飛ぶクルマの社会実装に向けた気運がいよいよ高まってきた」という声が出始め、2027年の商用運航開始に向けて国や自治体、事業者が機体開発や法整備、離着陸場の整備などに取り組んでいる。
空飛ぶクルマの世界における市場規模は、2040年に1.5兆ドル(約225兆円:150円換算)に達し、その規模は現在の航空機業界の4倍以上になると見込まれている。市場に含まれる関連産業は、現在想定されているだけでも機体の製造・開発をはじめ、運航管理、バーティポートの運営や保守メンテナンス、通信関連と多岐にわたる。
同イベントが開催された兵庫県では、2023年度より「空飛ぶクルマ実装促進事業」を実施し、バーティポートの整備や事業開発支援といった社会実装と産業化に向けた具体的な取り組みを進めている。
同イベントの講演「大阪・関西万博後の空飛ぶクルマ、実装に向けた課題と見通し」では、慶應義塾大学 大学院 SDM研究所 顧問 中野冠氏が登壇。空飛ぶクルマの基本から現状と課題、今後のユースケースやビジネスの在り方まで、空飛ぶクルマの全体像を解説した。
中野氏は、空飛ぶクルマの実装には「技術」「ビジネスモデル」「社会システム」の3つのイノベーションを同時に起こす必要があると言う。国土交通省と経済産業省は「空の移動革命に向けた官民協議会」を設置し、2018年12月に空飛ぶクルマのロードマップを作成した。計画では、2023年の商用運航開始を予定していたが、機体の型式証明の取得をはじめ、法整備や環境整備など、多くの課題によって計画通りには進まず、2022年にロードマップが改訂され、来年にも見直しが予定されている。一方、大阪・関西万博によって機体の安全性や操縦者のライセンス、事業者のライセンスといった整備が、世界に先駆けて進み始めているという。
今後の計画予定についても解説された。制度面で日本が参考にしている米国では、UAM(Urban Air Mobility)の基準をレベル6まで設定している。大阪・関西万博後はレベル2(型式認証の取得)をクリアし、レベル4(中密度、100台同時運航)に達することを当面の目標としている。
機体開発の計画はマルチローター型から固定翼型のeVTOL、そして固定翼ハイブリッド型のeVTOLが通説とされているが、今後のバッテリー技術の発展を考える自動車と同じように普及にはハイブリッドが先行する考え方も出てくるかもしれないという。
日本の競争戦略は「欧米追従型」か「独自開発型」か
空飛ぶクルマは、既存の航空機と飛行方式が異なる考えがある。飛行経路を事前に設定・管理し、自律的に目的地に到達するデジタル飛行方式や、自動化飛行方式を目指している。この技術開発には、この先10年を要するとされている。
今後のユースケースでは、富裕層に向けて高付加価値を提供する都市部でのエアタクシーのほか、地方の課題解決として自治体を支援することが考えられると中野氏は分析する。
中野氏は、東京都内でのエアタクシーの利用をシミュレーションし、地上のタクシー運行データを用いて10か所の離着陸場で1か所あたり3つの離着陸&駐機スポットがあると仮定したところ、必要な機体は最低7機と推定された。これを実装する場合、ポートを設置する敷地面積が課題となる。それに加え、他の公共交通機関が発達する都市部で採算を成立させることは難しいとされる。
一方、地方の利用は地方空港の活用や地方都市間交通として、インフラ維持のコストを抑えることができる。現時点ではニーズがなくても、地方活性化の公的支援として考えられる。例えば、ドイツでは地域医療の集約化に空飛ぶクルマの活用が検討されており、国内でもドクターヘリが使えない離島での転院や、専門医による巡回医療での活用が求められているという。
中野氏は、今後世界と競争していくための戦略として、欧米追従型と独自機体開発型の2つの選択肢があると話す。前者は都市型エアタクシーを将来的に自律飛行させ、組み立てや部品製造、材料の調達においてグローバルサプライヤーを目指し、運航サービスや制度設計で日本の市場を守るという考えだ。
後者は都市型とは異なるニーズに重きを置き、ガスタービンによるハイブリッド型eVTOLを開発したり、中国のサプライチェーンを利用しながら他国よりも高品質な機体開発を目指す。これを用いて、米国よりも低価格な中間に位置する市場を狙うといった考え方がある。
例えば、兵庫県と神戸市は地形や広さが全国の縮図であることから多様なユースケースが出てくる可能性があり、航空ものづくり企業の存在や複数の空港、比較的安定した飛行がのぞめる瀬戸内広域ネットワークもあり、中野氏は「全国を先導できるのではないか」と期待感を膨らませた。
