空飛ぶクルマの飛行方式とユースケース、都市と地方で異なる可能性
続いて、日本政策投資銀行(DBJ)産業調査部 調査役の岩本学氏が登壇。担当している航空・航空機産業の観点から空飛ぶクルマの社会実装について、海外の動向も交えながら説明した。
空飛ぶクルマの産業は「資金」「認証」「インフラ」「市場」の4つの観点から見て、ディープテック分野の中でも社会実装が非常に難しい産業だという。とはいえ航空機産業はスタートアップ企業を中心に、空飛ぶクルマ以外にもeSTOL(電動短距離航空機)、eCTOL(滑走路から離着陸する小型電動航空機)など多種多様な航空機の開発が活発になっており、ライト兄弟時代と同じような革命が起きていると話す。
空飛ぶクルマの開発を巡っては、「電動化」と「自動化」を最大の特長とし、ハイブリッド型eVTOLの開発プロジェクトが複数進行しているという。さらに、空飛ぶクルマの開発企業と自動車メーカーによる連携の動きも出てきている。
空飛ぶクルマの業界は、産業化の不透明性から“オワコン”であるという噂も耳にする。市場動向としては、型式証明の取得に想定よりも時間がかかっており、また破綻する機体メーカーも出てきている。機体メーカー間の資金調達力で明確な差が生まれ、例えば、機体開発を行うスタートアップ企業には過去約10年間で2兆円以上の資金が投資されているが、約90%が上位13社に集中している。
特に資金獲得に成功しているのが、ジョビー・アビエーション社(米国)、アーチャー・アビエーション社(米国)、ベータ・テクノロジーズ(米国)の3社だ。これらのトップランナーは潤沢な資金を背景に早期商業化に向けて動いている。ジョビーはドバイ、アーチャーはアブダビでのエアタクシー事業を年内から来年にかけて計画。ベータは物流や防衛市場向けに機体の販売を進めている。これらの動きを踏まえると、「巷で言われるようなオワコンではない」と岩本氏は説明する。
空飛ぶクルマ産業の現状と世界の動向
空飛ぶクルマにおける世界動向は欧州がやや後退気味だ。一方、中国は自動車産業の参入でさらに期待が高まっている。そうした中で米国は機体開発・制度整備の面で業界をけん引し、グローバルスタンダードの道を進んでいる。欧州、中国、米国、そして日本が積極的に取り組む一方で、近年は中東の参入も始まっているという。
社会実装に向けた計画は遅れているが、大阪・関西万博を機にイノベーションが始まり、今後も開催予定の国際イベントが後押しするとしている。並行して2026年から30年にかけて複数の機体メーカーが型式証明を取得し、その後いよいよ本格的な商用化が始まる。
岩本氏は、「モビリティが社会課題の解決につながることを目指し、リスクを取りながら実装化を進めていくべきではないか」と提言する。大阪・関西万博の閉幕でその勢いが終わらないように長い目で捉え、各地域全体で業界を支援してほしいと述べた。
