2025年1月、埼玉県八潮市で発生した道路陥没事故では、下水道内部の調査に点検用ドローンが活用され、従来の調査方法では難しかった現場対応を実現した。この事例は、全国の自治体やインフラ事業者の間で下水道点検分野におけるドローン活用の可能性を強く印象づけ、それ以降は狭所空間で運用可能な屋内向け小型ドローンに対する問い合わせが増加している。
事故現場の調査を担当したブルーイノベーションは、7月29日から4日間、インテックス大阪で開催された国内最大級の下水道関連展示会「下水道展’25大阪」に初出展。道路陥没事故で調査に使用した屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」を開発するスイスのFlyability社と共同で、ドローンの展示や活用事例の紹介、さらにはデモフライトを行い、来場者から熱心な質問が相次いだ。
国内最大規模の展示会で関心高まる狭所空間向け小型ドローン
下水道展’25大阪は全国の地方公共団体や下水道事業者を対象に、最新技術やソリューション、サービスを紹介する国内最大規模の展示会で、毎年開催地を変えて実施している。
2025年は350社が出展し、来場者数は累計4万3000人を超えた。国土交通省が八潮市の事故を受けて「下水道管路の全国特別重点調査」を要請したこともあり、会場ではドローンを含む新技術への注目度が例年以上に高まっていた。
ブルーイノベーションが国内販売する「ELIOS 3」は高精度LiDARと球体ガード、高輝度LEDを搭載し、暗くて狭い下水道管内でも安全かつ安定した飛行と映像撮影を可能にする。GPSが使えない狭所や照明のない暗闇にも対応し、人が立ち入れない場所での調査に最適だ。
陥没事故の調査では、とくにLiDARによるリアルタイム3Dマップが大きく貢献している。通常のドローンではGPSを受信できないため、遠隔操縦によって映像や写真を撮影した詳細な場所が把握できない。しかし、ELIOS 3であれば、飛行しながら3Dマップを生成できるので、撮影した場所をタグ付けし、映像や写真がおおよそ何m先のデータなのかを知ることができる。
ブルーイノベーションの担当者は、「ELIOS 3は高性能ながら、約2時間の講習で基本操作を習得できます。下水道管内での飛行には免許も不要で、日常的に点検業務を行う作業員でも扱いやすい機体です」とELIOS 3の魅力を説明してくれた。
展示会で行われたブルーイノベーションによる技術紹介セミナーは、立ち見が出るほどの盛況ぶりで、導入に向けた動きが加速していることが感じられた。
硫化水素による労災事故の深刻化、即投入可能でコスト効率も高い
下水道点検の現場では、有毒ガス「硫化水素」の危険性が常に付きまとう。
2025年3月7日には秋田県男鹿市で3人、8月2日には埼玉県行田市で4人が硫化水素中毒で死亡する事故が発生。換気を行っても堆積物から再び硫化水素が発生することは珍しくなく、作業員の安全確保は喫緊の課題だ。
こうした背景から、無人化による点検方法の需要は急速に高まっている。
従来の無人点検には有線ロボットやカメラを搭載した水上走行型ロボットが用いられてきたが、多くは事前の管内清掃が必須だった。一方、ELIOS 3は水に浸からないため清掃不要で、準備から投入まで5分未満。価格は約850万円と高コストに思えるが、業務委託による点検費用(1kmあたり約400万円)や清掃費用(同額程度)を考慮すれば、業界内では割高感は少ないと言えるだろう。
パートナー拡大とデジタル化の推進
現在、ELIOS 3での点検業務は自社にドローンを導入して運用するか、ブルーイノベーションのパイロットが現地に赴くかたちで行っているが、需要拡大を見据え、同社は2024年10月から協業パートナー(サービスプロバイダー、サブリテーラー)の拡充を進めている。
展示会では、パートナー企業の管清工業とフソウのブースでもELIOS 3を展示し、具体的な運用事例が紹介された。なお、ブルーイノベーションとフソウは共同で実証検証を行うなど、下水道管内でのドローン活用を進めている。
フソウは2020年からブルーイノベーションに出資し、上下水道分野でのデジタル化を共同推進している。リアルタイム映像管理に加え、LiDARで取得した点群データを即時3D化し、将来的にはデジタルツインを設計や工事に活用するシステムの開発も進行中だ。
今後の展望――老朽化インフラへの切り札となるか
ブルーイノベーションは「現場活用の実証実験はしばらく続く」としながらも、老朽化が進む下水道インフラの維持には質の高い点検作業が急務と指摘する。ドローン点検は安全性・効率性・コスト面で優位性があり、下水道保守の新たなスタンダードとしての定着が期待されている。
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