海洋資源の利活用に関する技術や製品が集結する「Offshore Tech Japan 2024(オフショア・テック・ジャパン 2024)」 (第5回海洋産業技術展・旧SUBSEA TECH JAPAN)が、2024年1月31日から2月2日の3日間、東京ビッグサイトで開催された。展示会には約30のブースが出展され、わが国のAUV戦略から最新の水中機器まで幅広く見ごたえのある内容だった。今回はAUV、ROV、水中機器の3つのカテゴリで最新動向を紹介する。

AUVは実海域で活躍中の機体が展示

 まず、会場でひときわ目を引いていたのが、水深6,000m対応の自律型無人探査機「しんりゅう6000」だ。戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期「海洋安全保障プラットフォームの構築」で導入されたAUVで、2023年12月19日から2024年1月19日の約1か月間、レアアースが眠っているとされる南鳥島海域で水深約5,600mまで8回の潜航を行い、海底からの一定高度を維持して安定して航行し、各種センサーを用いて自律的にデータを取得してきたという。

自律型無人探査機「しんりゅう6000」

 もともとは、米国 Huntington Ingalls Industries Proprietary(HII社)が製造する次世代型高性能 AUV「New Generation REMUS 6000(NGR6000)」という機種だ。購入の目的は、調査スピードの向上、運用ノウハウの蓄積や調査技術の確立、またHII社の最上位機種に実際に触れた知見を今後の日本国内におけるAUV開発に反映させることも目指す。

 今回は、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の海底海域研究船「かいめい」という母船に載せて、AUVの運用は3名体制で実施可能であることも確認したという。「しんりゅう6000」を調査対象水深(約5600~5800m)まで潜航させるのに片道約1.5時間、往復約3時間を要したが、調査中はすべてのセンサーを稼働させながら速度約3ノットで航行し、実稼働できたのは約12時間だった。

「かいめい」から可搬型投入揚収装置(LARS:Launch And Recovery System)を使い「しんりゅう6000」を投入するところ

 各種センサーを用いて、SBP(サブボトムプロファイラー)で実際には見えない海底下の構造を調査、SSS(サイドスキャンソナー)で海底面の形状を左右約200mと幅広に撮影、MBES(マルチビームソナー)で扇状に音波を発して海底面の起伏などより詳細に調査、LEDストロボと下向きに固定されたスチルカメラで海底面のインターバル自動撮影を行った。取得データは機体内部の格納されたSSDに保存される。また、DVL(ドップラー速度計)は機体の制御に使用、音響モデムは「かいめい」との通信・測位に用いた。同モデムは海底面に設置したトランスポンダーと測位にも使用できる。

機体に装備された各種センサーの説明
各種センサーによる取得データの紹介

 もう1つ、珍しく実機の展示があったのが、いであの「TUNA-SAND」classホバリング型AUV、民間商用化1号機の「YOUZAN」だ。まだ販売はしておらず、同社でも1台しか保有していないため、展示会でのお披露目は叶わないことが多いそうだが、今回はちょうどメンテナンス期間中ということで実機が紹介されていた。

「TUNA-SAND」classホバリング型AUV「YOUZAN」

 2019年に稼働を開始し、潜航実績は90回にのぼる。もともとは水深2,000mの海底資源探査用に開発された機体で、2台のカメラを装備しており、主な仕事は詳細な画像や映像の取得だという。

「YOUZAN」の模型

 潜航と浮上に電磁石を用いているのはユニークなところだ。重量約8kgの電磁石の錘を機体腹部に2つ取り付けて、その重さで潜航する。撮影したい水深まで到達したときに錘を1つ切り離すと、中性浮力で一定の高度を維持。そしてもう1つの錘を切り離すことによって浮上する。ちなみに錘の素材は鉄で環境に問題ないことを確認しているという。潜航中に万が一トラブルが発生しても、電源を落とせば電磁石の錘が自動的に切り離されて浮上するため、機体をロストする心配がない。なお運用中は常に地上でモニタリングし、位置情報の補正を行っているとのことだ。

機体腹部の見本
いであの展示ブース

ROVはお馴染みの機種から日本上陸間近の機種まで

 有線ケーブルで遠隔操作するROVにおいては、スペースワンが展示ブース内に水槽を設置して、「水中ドローン操縦体験会」を実施していた。使用機種は中国のCHASING社の「CHASING M2 S」だ。また展示ブース内では、CHASING社のフラッグシップモデルである「CHASING M2 PRO MAX」や、同社が日本総代理店をつとめるノルウェーのBlueye Robotics社の「blueye X3」などの機種も紹介されていた。

スペースワン・一般社団法人日本水中ドローン協会の共同出展ブース

 また、コスモス商事が各種ROVの販売、レンタル、サービスを手がけていることを打ち出していたほか、海洋電子はアメリカのDeep Ocean Engineering社の「PHANTOM」シリーズの日本国内における販売を開始したことを発表していた。過去にDeep Ocean Engineering社は日本市場から一度撤退したが、昨今の高まりを見せる洋上風力関連の水中業務での需要に応えるべく、再度日本市場への参入を決めたという。

海洋電子の展示ブース

 実機の展示はなかったが、様々なクラスのROVが展開されていることが分かる。日本市場では水深300mに対応し水中点検用に多様なペイロードを搭載可能な「T-Series」が主力製品となる見込みだ。例えばDVLを搭載して定点保持することも可能だという。また、特殊用途向けの機種「T5-Defender」は、例えば沈船の窓などを破壊する目的で鉄球を打ち出す射出装置を搭載している。Deep Ocean Engineering社のROVは、アメリカでは警察、消防、軍で使用されているとのことで、アメリカでの実績を活かして日本市場での再起を図る構えだ。

水中機器の小型化・高度化は今後も注目

 JAMSTEC発のベンチャー企業であるオフショアテクノロジーズは、海中の塩分、水温、水深を観測する小型のCTDセンサー「JES10mini」を紹介していた。プラスチック製で水深200m、SUS製で水深1,000mまで対応している。また小型軽量で、釣具によるキャスティングが可能、国産かつ安価だという。

小型軽量のCTDセンサー「JES10mini」

「JES10mini」はすでに市販されており、主な取引先は、研究機関、大学のほか、水中ドローンを使った海洋観測を行う調査会社、通信会社や電機メーカーなど幅広い。SUS製でも重量800gと非常に軽いためAUVを小型化するニーズにも応えやすいのが強みだ。

水中ドローンに搭載して使用することも可能

 また同社は、小型プランクトンサンプラー「Plafilt」も展示していた。プランクトンやマイクロプラスチックなど、水中の粒子を水中ポンプで吸引、フィルタリングして採取する濾過機だ。Wi-Fiと本体を接続し、Webアプリケーションを利用してスマホで操作することも可能だ。

小型プランクトンサンプラー「Plafilt」

 Nortekジャパンは、ノルウェーのNortek ASが製造するDVL(水中ナビゲーション用センサー)を展示し、2024年1月に日本国内で正式リリースになったばかりのINS機能を紹介していた。この機能を使えば、従来も計測できていた対地速度や海底からの高度などに加えて、水中での緯度経度情報を取得できるようになる。

 すでに購入した機器でも、ライセンスアップデートとファームウェアアップデートを行えば、新たにリリースされたINS機能も利用可能になるという。ROVに搭載可能であるほか、AUVの小型化への寄与も期待される。

Nortekジャパンの展示ブース

 島津製作所は、水中光無線通信装置「MC500」を紹介していた。「MC500」は、レーザー光を使用して水中での中距離高速通信を可能にする光モデムで、最大通信視野角40度と最大通信距離80mを実現したという。

 展示ブースでは、実際に水中光無線通信を使って映像を伝送する実演も行われていた。カメラの前で手を振りながら映像を確認したが、ほとんど遅延は感じなかった。

水中光無線通信のデモンストレーション

 また、「海洋石油・天然ガスに係る日本財団-Deep Star連携技術開発助成プログラム」で取り組んだ全周囲型水中光Wi-Fiシステムの実海域での通信試験の動画も紹介されていた。水中で自由に無線通信エリアを構築できる未来にも期待したい。