「ドローンビジネス調査報告書2026」が3月末に発刊された。
今回の2026は大きく改定された。それをその背景も含めて、解説する。
2026年度のドローンビジネス市場
2026年度の国内ドローンビジネス市場は、一言でいえば、国内需要だけで成長してきた市場から、海外の制度変化、安全保障環境、デュアルユース化の流れに強く影響を受ける市場へと移行する年度である。
これまで日本のドローンビジネス市場は、点検、測量、農業、土木・建築、防災といった国内の現場課題を背景に成長してきた。インフラ老朽化、人手不足、危険作業の代替、省力化といった課題は、引き続き市場拡大の大きな要因である。しかし、2026年度以降の市場を見るうえでは、それだけでは不十分になっている。
なぜなら、ドローンを取り巻く環境そのものが、国内の産業利用という枠を超えて大きく変化しているからである。米国では目視外飛行、いわゆるBVLOSの制度整備に向けたPart 108の議論が進み、商業利用におけるドローン運航のあり方が大きく変わろうとしている。また、世界的にはウクライナ情勢などを契機に、ドローンが安全保障、防衛、災害対応、重要インフラ保護において極めて重要な技術であることが明確になった。こうした海外の動きは、日本のドローン市場にも確実に影響を及ぼしていく。
2026年度の国内ドローンビジネス市場は、引き続き成長が予測されている。しかし、その意味は単に市場規模が拡大するということではない。重要なのは、市場の成長要因が、これまでの「現場の省力化」や「点検・測量の効率化」だけでなく、制度対応、運航管理、サイバーセキュリティ、サプライチェーン、国産化、防衛・公共用途との接続といった、より大きな産業構造の変化に移っていく点である。
特に大きいのが、デュアルユースの動きである。ドローンはもともと、農業、測量、点検、物流、空撮などの民生用途で発展してきた。一方で、同じ機体技術、通信技術、自律制御技術、画像認識技術、運航管理技術は、防衛、警備、災害対応、重要インフラ監視にも転用可能である。つまり、ドローンは民生と防衛の境界が非常に近い技術領域であり、今後はこの両方を視野に入れた技術開発と事業戦略が不可欠になる。
これまでは、国内ドローン市場における防衛・公共分野は、民間市場とはやや別の領域として捉えられることも多かった。しかし、今後はそうではない。海外では、ドローンの大量運用、自律飛行、非GNSS環境での運用、通信妨害下での運用、セキュアなデータ管理、短期間での量産・改修といった能力が急速に重視されている。これらは防衛用途だけでなく、災害対応、警備、インフラ点検、物流、広域監視といった民生・公共用途にも直結する。したがって、防衛分野で求められる技術水準や運用思想は、今後、民間ドローンビジネスにも波及していくと考えられる。
米国Part 108の動きも、2026年度の市場を見るうえで重要である。日本ではすでにレベル4制度が整備されているが、実際のビジネスでは、有人地帯上空での目視外飛行を継続的かつ採算性ある形で運用するには、まだ多くの課題がある。機体認証、運航者の体制、第三者リスク対策、通信の冗長化、遠隔監視、異常時対応、地域合意などが必要となり、単に「制度上可能になった」だけでは市場は大きく立ち上がらない。
一方、米国でPart 108によるBVLOS制度整備が進めば、商業ドローン運航のルール、責任分界、遠隔運航、運航管理、機体要件、検知回避、通信要件などについて、国際的な参照点が形成される可能性がある。日本市場もその影響を受け、今後は国内制度だけを見ていればよいのではなく、米国や欧州でどのような運航ルールが標準化されていくのかを踏まえた事業設計が求められる。
この意味で、2026年度は、日本のドローンビジネスにとって、国内市場の成長年度であると同時に、海外制度・海外需要・安全保障環境を前提に再設計が求められる年度になる。
そのため、2026年度以降の国内ドローン市場では、国産ドローンや国内サプライチェーンへの関心がさらに高まると考えられる。ただし、これは単純な「国産か海外製か」という二分法ではない。重要なのは、機体、フライトコントローラ、通信モジュール、カメラ、バッテリー、クラウド、運航管理システム、解析ソフトウェア、保守体制まで含めて、どこにリスクがあり、どこを国内で押さえるべきかを見極めることである。ドローンビジネスは、機体単体のビジネスから、サプライチェーンとシステム全体の信頼性を問われるビジネスへ変わっていく。
利用企業側の意識も変化していく。これまでは「ドローンで何ができるのか」という探索的な導入が多かった。しかし、今後は「どの業務に組み込めるのか」「安全に継続運用できるのか」「データを業務システムに接続できるのか」「セキュリティ上問題ないのか」「海外制度や顧客要求に対応できるのか」という、より実装寄りの問いに変わっていく。これは、ドローン関連企業にとっても大きな転換点になるだろう。
つまり、2026年度は、国内ドローン市場が単に大きくなる年ではない。海外の制度変化と安全保障環境の変化を受けて、日本のドローンビジネスそのものの前提が変わり始める年である。ドローン産業は、いよいよ「飛ばす市場」から「社会実装する市場」へ、そして「国内用途の市場」から「国際的なルールと安全保障環境を前提にした市場」へ移行しつつある。
「ドローンビジネス調査報告書2026」の改定ポイント
この調査報告書自体は、当然、毎年の数字やその予測をアップデートするだけでなく、ドローン産業の環境や状況に合わせ、その内容も細かく改定をしてきている。上に書いたような環境を踏まえて、今回「ドローンビジネス調査報告書2026」の発刊を機に、10年が経過したこともあり、様々な声に合わせる形で大きく改定を行った。
以下がそのポイントとなっている。
- 市場分析における注目ニュースや米国の最新状況、ドローンビジネスの見通し項目の追加
市場規模の予測手法などにおいては大きな変化はないが、市場分析に定性面における注目ニュースやドローンビジネス上にも大きな影響を与えそうな米国の最新状況、また、そういったことに伴うドローンビジネスの見通し項目を追加した。これにより、ドローンビジネスの戦略策定にむけて、数字予測だけでなく、そのベースを組み立てるためのレポートとしても役に立つ形となっている。 - 各個別の企業動向から各レイヤー別の事業者動向への変更
今まで、この個別の企業動向に関して、インタビューを行うとともに、個票を各企業から提出してもらっていた。黎明期に関しては、その個別の企業動向に関して、ドローン関連企業がその事業戦略を策定するときに参考になったが、黎明期を抜けた局面において、その内容に関して各企業がアピールしたいポイントに集約されるケースも増える中で、各社のニュースリリースを集めたような形になってしまっていた。かなりのページ数を割いていたこともあり、もう少し引いた視線の中で横串的に各分野での事業者動向に変更した。また、新たな項目として、ドローンのサプライチェーンへの注目が集まっていることに考慮して、「日本のサプライチェーンを構成する企業とその候補」といった項目を追加している。 - 「技術動向」章の追加
今までも「ドローンの市場動向」の中で、技術動向を記していたが、新たに技術動向の章を追加した。これに関しては、先ほどのサプライチェーンを含めた産業構造が重要になってきていることもあり、ドローンを構成する技術ストラクチャーの現状とその内容や動向の理解が必要となっており、新たに記した章となった。
・技術ストラクチャーの構成と推移
・通信
・運航管理・UTM
・セキュリティ
といった項目で記している。 - 「利用企業動向調査」章の追加
この利用企業の動向に関しては、今までも個別利用企業に関してはインタビューを行ってきたが、オフレコの話も多く、また、その内容が個別企業の話なのか、全体に及ぶ話なのか、判別しにくいところもあった。
今回、幅広い企業へのアンケート(従業員100人以上、有効回答1076)により、企業のドローンの導入状況や活用実態、導入や運用の課題等が浮き彫りになる内容となっている。これはドローンビジネスの関連企業にとっての事業戦略策定に有用なだけでなく、利用企業においても、自社のドローン利用の相対的な取り組み位置が分かる内容となっている。
筆者個人においても、ドローン市場を把握する意味で非常に貴重な資料となっている。
「ドローンビジネス調査報告書2026」の市場予測
2025年度の日本国内におけるドローンビジネス市場規模は、4973億円(前年度比13.8%増)と推測され、2024年度の4371億円から602億円増加している。2026年度は5501億円(前年度比10.6%増)に拡大する見込みだ。また、2025~2030年度には平均13.9%の成長率で、2030年度には9544億円に達する予測である。
この内容は「ドローンビジネス調査報告書2025」の予測とは実近の数字としては大きな変化はないが(2025年度4987億、2026年度5621億)、2030年に関しては、1兆195億から下方修正をしている。その大きなポイントは、物流などを始めとした目視外飛行(BVLOS)での活用の遅れの懸念である。この目視外飛行における制度設計をどうするかが、米国がPart 108によって、今年度から活用が進んでいくと想定される中で鍵となってくるだろう。
サービス市場においても、大きなトレンドの変更はなく、点検、土木・建築、農業などの分野でドローンの実運用が進んでいる。規模が大きいのは点検分野で、特に下水道分野などを始めとしたインフラの老朽化の対策は「喫緊の課題」となっており、ドローンの活用が急がれている。橋梁分野など現在で既に進んできた分野においては、ドローンで取得した画像から損傷を検出するといった生成AIとの連動も盛んになってきている。
農業分野ではドローンによる農薬散布が定着しつつあり、政府の様々な補助金・支援策の後押しも加わり、今後もさらなる普及が見込まれている。
2025年度ぐらいから活用に関して顕著な動きがあるのは、土木・建築現場だ。今までも工事進捗などの分野において、ドローンは土木工事現場のデータ取得に使われてきたが、建設現場においても進捗管理用途で半自動化の流れの中でドローンポートの利用が急速に広がってきている。
また、運搬分野が大きく拡大しており、最大80kgの積載能力を持つ「DJI FlyCart 100」の登場は、「ドローンは軽いものしか運べない」という概念の打破が進むきっかけとなった。従来の建設機械や農業機械と同様、建設現場や農業や林業の現場で深刻化する高齢化・人手不足を補い、現場の課題解決のための道具として、今後も市場拡大を後押ししていくことが予想される。
ドローンショーも、この数年急速に拡大している分野となっている。2025年は大阪・関西万博において184日間ほぼ毎日1,000機規模のショーが開催されてギネス記録を更新するなど、エンターテインメントとして社会的に大きく定着しており、広告代理店との提携による広告効果・集客予測の可視化サービスなど、マーケティングツールとしての活用も進んでいる。
一方、物流に関しては、昨年度の予測においては、2029年ぐらいから立ち上がってくることを想定していたが、先にも書いた目視外飛行の遅れにより、2030年以降にスリップする形となった。
「ドローンビジネス調査報告書2026」の改定を含むポイントを挙げてきたが、皆さま方の事業計画策定に関しても、非常に参考になる内容となっていると考えるので、ぜひお手にとっていただきたい。
| 書名 | ドローンビジネス調査報告書2026[『実証』から『社会実装』への転換──産業基盤強化と2030年への戦略] |
| 著 | 春原 久徳、青山 祐介、伊藤 英、インプレス総合研究所 |
| 監修 | ドローンジャーナル編集部 |
| 発行所 | 株式会社インプレス |
| 発売日 | 2026年3月27日(金) |
| 価格 | CD(PDF)版・電子版 143,000円(本体130,000円+税10%) CD(PDF)+冊子版 154,000円(本体140,000円+税10%) |
| 判型 | A4判 |
| ページ数 | 562ページ |
| ISBN | 978-4-295-02419-4 |
| URL | https://research.impress.co.jp/report/list/drone/502419 |
