GMO AI&ロボティクス商事(以下、GMO AIR)は9月8日、東京・青山で記者会見を開き、ヒューマノイドの運用を支える3つの仕組みを示した。発表したのは、現場データを学習に生かす「GMO LOOP for Physical AI」、セキュリティ対策の「GMO SAFE」、保守を担う「GMOヒューマノイド救急車」で、このうちGMO LOOPとGMOヒューマノイド救急車を同日発表した。
GMOインターネットグループ グループ専務でGMO AIR 代表取締役社長の内田氏は、冒頭で「世界中のヒューマノイド開発の競争は、もはやデータ収集競争になっているのではないのでしょうか」と投げかける。ハードウェアの性能だけでなく、導入後に継続して動かすための仕組みが重要になっているとの認識を示した。
ヒューマノイドロボットの販売から「運用を支える会社」へ
GMO AIRは、ヒューマノイドなどのロボットを調達し、GMOインターネットグループが持つAIやインターネットインフラ、セキュリティなどの技術と組み合わせて提供する「ヒューマノイド商社」を掲げている。2026年6月には、中国のUnitree Roboticsと国内正規代理店契約を締結した。Unitree Roboticsは2025年の二足歩行ヒューマノイド出荷台数で世界No.1としている(Unitree Robotics調べ)。会見冒頭では同社製ヒューマノイド「G1」5体がダンスを披露した。
ロボットの販売はECプラットフォーム「GMOヒューマノイド.shop」で行う。また、二次開発の拠点として、東京・渋谷のセルリアンタワーに「GMOヒューマノイド・ラボ 渋谷ショールーム」を設置。4月7日に約半分を先行オープンしており、内田氏は会見で10月5日に全面オープンする予定だと説明した。約30人のエンジニアが二次開発に取り組むほか、外部のエンジニアも利用し、ヒューマノイドをテーマとしたハッカソンなども開催している。こうした二次開発力を生かし、JALグランドサービスと空港業務へのヒューマノイド活用に向けた実証実験を行うなど、現場への導入も進めている。
GMO AIRが今回示したのは、機体を販売し、二次開発して現場へ投入するだけではなく、その後の運用をデータ、セキュリティ、保守の3方向から支える考え方である。
世界ヒューマノイド運動会で直面した「データ」と「故障」
その必要性を実感する機会となったのが、2026年8月22~26日に中国・北京で開催された「第二回 世界ヒューマノイド運動会(World Humanoid Robot Games 2026)」だった。
会見では、大会への出場を提案し、プロジェクトの統括を務めた廣本氏が取り組みを報告した。GMOはUnitree G1をベースに二次開発した機体で、100m、400m、1500m走の3種目に出場。市販されている汎用機を使いながら、走行速度の向上と自律走行の実現に取り組んだ。
開発では、G1の標準的な走行速度が約1.5m/sだったのに対し、約5.5m/sで走行するフォームを作成したという。GMOインターネットグループ陸上部の選手の動きも参考にした。一方、速度を上げるとモーターが発熱し、安全機能によって停止してしまうため、温度を管理しながら速度を引き出す必要があった。
シミュレーションと実環境との差である「Sim2Realギャップ」にも苦戦した。開発期間中には合計約20日間、実際の陸上競技場へ機体を持ち込んで走行試験を行った。シミュレーション上では問題なく走れる動きでも、実機では同じ結果にならず、実環境での検証を繰り返したという。
さらに、自律走行に必要なレーン認識AIの学習では、30を超える競技場で人が胸部にカメラを装着して走り、約5000枚の画像を収集。画像上のレーンを人手で指定して学習データを作成した。しかし、本番会場は事前にデータを収集した屋外競技場とは異なる屋内環境だった。レーン脇には明るい照明や広告などがあり、機体がレーンを見失う場面が発生した。このため現地で改めてデータを収集し、パラメーターを調整して対応した。「現場のデータを取り込んでいくことで、ロボットの精度が上がっていきます」。廣本氏は大会を通じて得た学びをそう振り返った。
もう一つ浮き彫りになったのが保守である。400m走では機体が転倒して頭部を破損した。次のレースまで約20分しかなかったが、予備パーツを準備し、交換方法を把握するエンジニアが現場にいたことで約10分で復旧。次の競技へ出場できたという。「壊れたときに支える体制があれば、連続稼働も可能です」と廣本氏は話した。こうした経験が、今回発表されたGMO LOOPやGMOヒューマノイド救急車につながっている。
現場データを精度向上に生かす「GMO LOOP for Physical AI」
1つ目の「GMO LOOP for Physical AI」は、9月8日に提供を開始したサービスだ。「ロボットの基本性能はある程度高まってきていますが、ヒューマノイドが現場で働けるかどうかが課題になっています」と内田氏は説明する。社会実装を進めるうえでは、機械学習に利用できる現場データの不足と、シミュレーションと実環境との差であるSim2Realギャップが課題になるという。
GMO LOOPでは、①現場データの取得、②モデルの強化、③実機への還元というサイクルを繰り返し、導入先の作業や環境に合わせてヒューマノイドの動作精度を高めていく。
導入前にはデータ収集キットを使って現場の情報を集め、導入後はロボット自身の稼働データをモデル強化に利用する。データの収集方法としてGMO AIRは、遠隔操作(テレオペレーション)、モーションキャプチャー、作業者が装着したカメラによる一人称視点動画、実際の稼働ログ、シミュレーションや世界モデルなどが生成する仮想データの5つを挙げる。特定の方式に限定せず、「その現場に適した方法でデータを収集していきたい」と内田氏は話した。
背景には、汎用的なヒューマノイドを現場へ持ち込むだけでは、現時点で人の作業をそのまま代替することは難しいという認識がある。GMO AIRは、ロボットメーカーが機体開発を担い、自社がユーザーとともに現場データを収集することで、個々の用途に合わせた動作へ改善していく役割を担う考えだ。
取得したデータについては、保管や学習をGMOインターネットグループ内で完結させ、外部への提供や、動作精度の改善以外の目的では利用しないとしている。本誌の書面質問に対しても「GMO AIRを中心としたGMOインターネットグループで独自にモデル強化を行います」と回答しており、データ収集だけでなくAIモデルの改善まで手がける方針だ。一方、ヒューマノイドが実際に人の仕事を代替できるまでにどの程度の期間が必要になるかについて、内田氏は明確な期間を示さなかった。現在進めている企業とのプロジェクトも長期的な視点で進めているという。
生成AIでは、Transformerの登場と大量のデータ学習によって性能が急速に向上した例がある。ロボティクスでも技術的なブレークスルーによって同様の変化が起きる可能性がある一方、ロボティクスの進化の速度はまだ見えていないとする。そのうえで内田氏は「今からデータを集めておかないと、早期投入ができません」と話した。将来の技術進歩を見据え、まず現場データを蓄積できる環境を作っておくことがGMO LOOPの狙いなのだ。
導入企業が懸念するデータ流出、「GMO SAFE」で外側から守る
2つ目が、2026年8月から提供しているセキュリティサービス「GMO SAFE」だ。ヒューマノイドにはカメラをはじめ多数のセンサーが搭載され、稼働ログも取得する。会見では、工場や研究開発施設への導入を検討する企業から、そこで取得した映像やセンサーデータ、ログなどが外部へ流出しないかという懸念が多く寄せられていることも明かされた。
内田氏は「このヒューマノイド、本当に安全なんですか?という質問をよく受けます」と話す。そのうえで同社の考え方を「リスクがあるから使わないということではなく、リスクを正しく把握して安全に使う」と説明した。GMO SAFEは、「調べる」「整える」「見守る」の3段階で構成する。GMOサイバーセキュリティ byイエラエのホワイトハッカーが、ハードウェアとソフトウェアの両面から機体のリスクを調査。その結果に応じてネットワーク設定や周辺機器などを整え、導入後も通信を継続的に監視する。
ヒューマノイドはメーカーによるソフトウェアアップデートが続き、導入後に利用環境の設定が変化する可能性もある。このため、一度診断して終わりにするのではなく、運用中のネットワーク通信を監視し、不審なデータ通信などが発生していないかを継続して確認することを特徴とする。
質疑応答で具体的な対策方法を問われた内田氏は「機体はもういじりません」と説明した。機体側に脆弱性が見つかった場合はメーカーに修正を求めつつ、GMO SAFEではネットワーク構成などを通じて、機体の外側から保護する考え方を基本とする。「ロボットに着せるセキュリティウェア」という表現も、こうした考え方から付けている。
今後は対応機種を増やすほか、アプリケーション層の保護や、設定したエリアから機体が外れた場合に停止させるジオフェンス、危険な挙動が生じた際に外部から停止させる仕組みなども検討する。ただし、GMO SAFEが現時点で主に対象としているのは、データやネットワークなどサイバーセキュリティ面の安全性である。人との接触や転倒といった物理的な安全性は別の課題になる。内田氏によると、ラボでヒューマノイドを扱う際には長靴や革手袋などを着用しているほか、イベントなどへ機体を派遣する際には、転倒などに対応できるよう担当者を近くに配置しているという。将来的にヒューマノイドが一般の人と同じ空間で稼働するには、自動車やドローンと同様に、運用ルールや安全基準の整備も必要になるとの見方を示した。
故障による停止時間を減らす「GMOヒューマノイド救急車」
3つ目が保守である。GMO AIRはすでに、自社が販売したヒューマノイドが故障した際、修理期間中に代替機を貸し出すサブスクリプション型の保守サービスを提供している。
Unitree G1では修理に約1.5カ月かかるケースがあるため、その期間を上限として代替機を提供する。料金は月額7万円で、年間1.5カ月分までは追加料金なしで代替機を利用できる。
ヒューマノイドの導入先には研究開発用途も多く、修理中に機体がなくなれば研究や開発そのものが止まる。「故障で止まっている時間をお客さまに負担させない」という考え方から始めたサービスだという。故障頻度について、GMOインターネットグループ シニアリサーチエンジニアの滝澤氏は、用途や使い方によって異なると前置きしたうえで、体感として「3カ月ぐらい使っていると、何かしら壊れる機体が3~4割ぐらいはあります」と説明した。ラボで激しい動作を繰り返していた時期には、ほとんどの機体が故障したこともあったという。
新たに発表した「GMOヒューマノイド救急車」は、こうした代替機と修理設備を現場へ直接届けるための専用車両である。
車両には代替機1台のほか、主要部品、消耗品、交換パーツ、診断機器、修理工具などを搭載する。「GMOヒューマノイド・ラボ 渋谷ショールーム」で二次開発に携わるエンジニアが同乗し、現場で故障原因を切り分ける。その場で対応できる場合は修理し、難しい場合は代替機と交換したうえで、故障機をラボなどの修理環境へ搬送する。
内田氏によると、もともとは故障した顧客へ代替機をどう届けるかを検討していたことがきっかけだった。「だったら自分たちで車両を作ってしまおう」と考え、さらにヒューマノイドエンジニアを同乗させれば現場で診断や修理まで行えるとして、専用車両の導入に至ったという。
GMO AIRは、人型ロボットの保守に特化して設計・導入された専用車両として国内初としている(同社調べ、2026年9月時点)。一方、内田氏によると、中国ではJD.comが2026年7月に類似したヒューマノイド向け専用車両を発表しており、海外には先行例があるという。現時点でGMOヒューマノイド救急車は1台のみで、セルリアンタワー周辺を拠点とする。対応エリアはまず東京都23区を想定し、提供先も限定して運用する。将来的には要請から1~2時間程度で現場へ駆けつけられる仕組みを目指すとしているが、内田氏は「現状、体制が全部出来上がっているわけではない」と説明しており、現時点で到着時間を保証するサービスではない。また、すべてのメーカーのヒューマノイドを修理するものではなく、基本的にはGMO AIRが取り扱い、機体構造や故障時の対応方法を把握している機種を対象とする考えだ。
社会実装の先行候補は倉庫・物流
では、こうした運用基盤を必要とするヒューマノイドの社会実装は、どこから進むのか。
内田氏によると、現在は空港、倉庫、物流、工場など幅広い業種から相談がある。そのなかでも「足元では倉庫や物流の業界が最も早くヒットするのではないか」とみている。製造現場では細かな部品を扱うなど複雑な動作を求められるケースがある一方、倉庫や物流では物を押す、持ち上げる、ピッキングするといった比較的動作を定義しやすい業務があり、ヒューマノイドを導入できる領域が早く現れる可能性があるという。一方、導入企業側には「現場で本当に使えるのか」という不安もある。このためGMO AIRでは販売だけでなく、1カ月や3カ月といった期間で機体を貸し出し、実際の現場で有効性を確認するレンタルにも対応している。
本誌はGMO LOOPについて、今後4足歩行ロボットやドローンへ展開する可能性も尋ねた。GMO AIRは「現段階では可能性もあると考えております」と回答している。内田氏は会見の最後に「データ学習とセキュリティ、保守、この三つを今後の一番の注力領域として、ヒューマノイドの社会実装、運用基盤を支える役割に徹していきたい」と話した。
ヒューマノイドは、機体を購入すればすぐに人の代わりとして働ける段階にはまだない。現場に合わせてデータを蓄積し、動作を改善し続けること。取得するデータを管理し、安全に運用できる環境を整えること。そして、故障しても稼働を止めない保守体制を用意すること。今回の発表は、ヒューマノイドの社会実装が機体性能だけでは成立しないことを、GMO AIR自身の実機運用の経験から示すものとなった。
