板橋区とブルーイノベーションは9月1日、ドローン活用による地域防災および産業振興に関する包括連携協定を締結した。同日、「防災の日」に合わせて板橋区役所で締結式を行い、坂本健板橋区長とブルーイノベーションの熊田貴之代表取締役社長が協定書に調印した。
本協定では、災害時の情報収集や被害調査だけでなく、平時からドローンの実証・運用を重ね、防災、インフラ、物流、産業振興、人材育成などに活用する。そこで得たデータや運用ノウハウ、地域との連携体制を有事にも生かし、平時と有事を分断しない持続可能な都市型ドローン運用モデルの構築を目指す。
両者は協定に基づく取り組みを「ITABASHI SKY LINK PROJECT」として推進し、板橋区内をフィールドに実証・検証から運用、社会実装へと段階的に進める。現時点で具体的な実証内容は決まっていないが、2027年度を一つの目安として何らかの実証を開始する方向で検討しているという。
板橋区をフィールドに都市型ドローンの社会実装へ
本協定では、災害時の情報収集や被害調査などの支援、ドローン関連産業の振興、企業連携やイノベーションの創出、人材育成・普及啓発、行政課題の解決に向けた実証・社会実装などを連携事項としている。
今後は板橋区をフィールドとした実証・検証を通じ、物流、インフラ点検、見守りサービス、イベントなど、さまざまな分野におけるドローン活用の可能性を探り、地域課題の解決や新たなサービスの創出につなげる考えだ。
ブルーイノベーションは、ドローンやロボットを統合制御する独自のプラットフォーム「Blue Earth Platform(BEP)」を軸に、インフラ点検や防災などのソリューションを展開する。同社は10年以上前から板橋区内に研究・実証拠点を構えており、現在は「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」に研究開発拠点を置く。同施設内に設けられた「板橋ドローンフィールド」の運営にも携わっている。
板橋ドローンフィールドは、東京都初の物流施設併設型ドローン実証実験施設として2024年に開設された。河川に隣接した敷地や実稼働中の物流施設、ドローンポートなどを利用でき、物流、点検、災害対応などを想定した研究開発や実証を行える。
板橋区とブルーイノベーションはこれまでも、「板橋区産業振興構想2035」の検討会や、日本大学豊山女子中学校・高等学校における探究学習、ドローンを活用した活動などで連携してきた。坂本区長は、新技術を開発するだけでなく、地域で実際に利用していくことが重要だとして、次のように話した。「近年、ドローンやAI、ロボティクスといった先端技術は急速に進化しており、私たちの暮らしや産業の在り方を大きく変えようとしています。一方で、新しい技術は開発されるだけではなく、社会に浸透していかなければなりません。実際に地域の中で活用され、人々の暮らしや企業活動の中で価値を生み出すことで、初めてその技術は社会に根付くものと考えています」。
板橋区は、ものづくり産業をはじめとする産業集積を強みとし、特に光学・精密機器などの分野に関連する企業が集まっている。「板橋区産業振興構想2035」ではドローンを重点的にイノベーションの推進を行う分野に位置付けており、区内企業の技術とドローン産業を結び付けることも狙いの一つとなる。坂本区長は、区内企業や教育機関、地域住民も巻き込みながら取り組みを進め、「板橋区ならではのイノベーションを創出していきたい」と述べた。
熊田社長も今回の協定について「実証から実際の社会実装へと進めていく新たなスタート」と位置付ける。「板橋区には都市、河川、道路やインフラ、産業、教育など多様な都市機能と、社会実装に向けたフィールドがあります。こうした多様な環境を持つ板橋区は、都市部におけるドローンの社会実装モデルを作っていくうえで、大きな可能性を持つ地域だと考えています」と説明する。
「ITABASHI SKY LINK PROJECT」、4領域でユースケース創出を目指す
両者は協定に基づく取り組みの総称を「ITABASHI SKY LINK PROJECT」とし、板橋ドローンフィールドをはじめ、河川敷や公共施設など区内のフィールドを活用しながら、実証・検証、運用・拡大、社会実装へと段階的に取り組みを進める。プロジェクトでは「防災・安全」「インフラ・環境」「物流・移動」「産業・人材」の4領域で、地域課題を起点にドローン活用の可能性を検討する。
防災・安全では、災害発生時の情報収集や被災状況の把握など、迅速な初動対応への活用を検討する。インフラ・環境では、河川、道路、橋梁などの点検・監視を通じ、維持管理業務の高度化・効率化を目指す。物流・移動では物資輸送など、地域を支える新たな物流手段としての可能性を検証する。産業・人材では、区内企業やスタートアップ、研究機関などとの連携を通じた新技術・サービスの創出と、将来のドローン活用を担う人材の育成を進める。
坂本区長が特に期待を寄せるのが、産業振興とイノベーションの創出だ。
「例えば、技術力を持つ区内の製造業がドローンの高性能パーツや関連機器の開発に参入する、建設・点検事業者がドローンを用いた効率的なインフラ点検サービスを展開する、商店街や物流の現場でラストワンマイルを支える新たな配送実証に挑むといった展開です。また、人材育成についても、区内の小・中学校や教育機関と連携し、子どもたちがロボティクスやドローン技術に触れる機会をつくり、将来のエンジニアや研究者を板橋区から育てる環境を整えていきたい」と坂本区長は話した。
具体的な実証は2027年度を目安 都市部ならではの課題も
締結式後の質疑応答では、今後の実証についても言及された。熊田社長によると、具体的な実証内容についてはすでに板橋区と協議を進めているものの、公表できる段階には至っていない。インフラ点検、防災、物流などを候補とし、2027年度を一つの目安として実証を検討していく考えを示した。
一方、板橋区のような都市部でドローンを社会実装するには、飛行環境や住民理解などの課題もある。区側は、人口集中地区にあたる板橋区ではドローンを飛行させること自体に一定のハードルがあるとの認識を示した。そのうえで、地域が抱える課題を行政側が抽出し、ドローンで解決できるテーマを事業者と検討するとともに、実証に必要な場所の確保や関係者との調整を行政が担うことで、実証の機会を増やしていく考えだ。
住民理解についても、実証を積み重ねながら安全性や利用価値を伝えることが重要になる。板橋区は、ドローンを導入すること自体を目的とするのではなく、区民生活の向上につながる具体的なメリットを示しながら理解を得ていく方針を示した。4領域の中でも、都市部での「物流・移動」は実装に向けたハードルが高いとの認識で両者は一致している。熊田社長は、まず災害時の物資輸送を想定し、そこから逆算して平時に必要となる運航やデータ蓄積の仕組みを作ることが一つの可能性になるとの見方を示した。板橋区側も、将来的な配送人材不足などを踏まえれば、ラストワンマイル配送をドローンが担う可能性はあるとしつつ、具体的な実証内容については今後検討するとした。
平時のデータを有事に生かす都市型ドローンの「板橋モデル」
熊田社長が「ITABASHI SKY LINK PROJECT」で特に重要な要素として挙げたのが「データ」である。平時からインフラ点検や巡回などにドローンを活用し、飛行・運用実績やデータ、ノウハウを蓄積する。実証では、作業時間がどの程度短縮されたのか、安全性や効率性が向上したのかといった効果も定量的に確認しながら、運用を拡大していく考えだ。
熊田社長は、その考え方を「フェーズフリー」という言葉で説明する。「平時の活用が有事の力になるということが大事なポイントです。平時にインフラ点検や巡回フライトを行い、地域との連携とデータを蓄積する。そのデータを基に仮想空間で板橋区を再現できれば、有事を想定したシミュレーションにも活用できます。実際の有事には被災状況を迅速に把握し、そこで得たデータをさらに蓄積して平時に生かしていく。こうした持続可能な運用モデルを作っていきたい」と話す。
ただし、仮想空間上で板橋区を再現する仕組みは現時点で導入が決まっているものではなく、熊田社長が将来的なデータ活用の方向性として示した構想である。災害時のドローン運用も、すべてを同じ機体や用途でまかなう想定ではない。板橋区防災危機管理課は、発災直後には被災状況などの情報収集が重要になり、その後、災害対応の段階が進むにつれてインフラ確認や物資輸送などへニーズが変化すると説明した。平時の実証を通じ、目的ごとに必要な機体や台数、情報伝達の方法などを検証していく考えだ。
また、大規模災害への対応をブルーイノベーション1社だけで担うことは想定していない。平時から区内企業や教育機関、ドローン事業者などとの連携体制を構築し、複数の主体が収集したデータや運用体制をつなぐ仕組みも「板橋モデル」を構成する要素になるという。熊田社長は、ドローンについて「飛ぶ機械から意思決定を支えるインフラへと進化します」と表現する。現場から収集したデータをプラットフォームに蓄積し、行政や地域の意思決定にも活用できる仕組みへ発展させる構想だ。
ブルーイノベーションは、板橋区での実証や運用を通じて得た成果、データ、運用ノウハウ、地域連携の仕組みを、都市部で再現できるドローン社会実装の「板橋モデル」として体系化する考えだ。熊田社長は、平時から地域で活用される仕組みが結果として有事にも機能する持続可能な都市型ドローン活用モデルを板橋区とともに構築し、将来的には同様の地域課題を抱える全国の自治体や地域へ展開できるモデルへ育てていきたいと述べた。
