点検用ドローン「ELIOS 3」の販売や、ドローンとロボットを統合した点検ソリューションを展開するブルーイノベーションは、2023年度から日本大学豊山女子高等学校(東京都板橋区)の「探究プラットフォーム」(総合的な探究の時間)に協力している。総合的な探究の時間は2022年度から高校の学習指導要領に導入された学習方式で、生徒自身が課題を設定し、仮説立案から実証、検証までを行いながら解決策を探っていく。

 ブルーイノベーションは、この探究プラットフォーム内で「ドローン部」の設立を支援。部員たちは設定した課題に対して、ドローンの活用方法などを提示し、解決への取り組みを促している。

 2026年4月には板橋区役所で、2025年度ドローン部活動報告会が開催された。3年生5人が研究成果を発表し、産官学の関係者がそれに対する講評を行った。本稿では、ドローンを学校教育に取り入れる先進的な取り組みの模様を紹介する。

発表会での生徒や関係者の集合写真
日本大学豊山女子高等学校は、「探究プラットフォーム」の取り組みとして、板橋区における社会課題に対してドローンの活用を探求。学生たちによる成果発表が行われ、ブルーイノベーションや板橋区が講評した。

4つのテーマでドローンが課題解決に役立つか検証

 会の冒頭では、講評を担当する出席者が挨拶を行った。ブルーイノベーションの熊田貴之社長は、生徒たちが板橋区内にどのような課題があるか意見を出し合い、検証のため板橋ドローンフィールドでの検証や実証実験を行って知見を深めてきたと説明した。

写真:スライド資料「ドローンで拓く板橋区の未来:産学官連携による「未来創発」」の前で話をする熊田氏
日本大学豊山女子高校による産官学連携の「未来創発」について説明するブルーイノベーション株式会社 代表取締役社長 熊田貴之氏。

 2025年度の活動では、「鳥獣被害対策・動物共生」「防犯・防災・見守り」「生活支援(物流や農業など)」「地域振興・教育・ルール形成」の4テーマを中心に探究を進めたという。熊田氏は「生徒個人でテーマを設定し、ドローンを使って課題解決が可能か検証しています」と、生徒たちの主体的な取り組みを評価した。

写真:スライド資料を使って生徒が発表する様子

 最初の発表テーマは「ドローンを使って野良猫の保護問題を解決する」だった。板橋区では野良猫による糞尿被害や保護件数の増加が課題となっている。一方、従来の保護活動では草むらなどに隠れた猫を探し出すのが難しく、作業者が噛まれて感染症にかかる危険性もある。

 そこで生徒たちは、野良猫が活発に動く夕方から夜間にかけて、赤外線カメラを搭載したドローンを活用して捜索を行うアイデアを提案した。板橋ドローンフィールドでは、動物の体温に見立てたカイロを草むらに隠し、探索速度を比較する実証実験を実施した。しかし、当日は日差しが強く、地面や草が温まっていたため、赤外線カメラで熱源を識別しにくい状況だった。その結果、人間の目視のほうが早く対象を見つけられたという。それでも発表した生徒は、「夜間であれば温度差が大きくなり、ドローンが有効に機能する可能性がある」と考察した。

 板橋区立教育科学館の池辺靖学術顧問は、この実験を高く評価しつつ、「野良猫を見つけた後、どのように地域全体をより良くしていくのかまで追究し、その後の保護猫の生き方まで確認できると良いでしょう」とさらなる探究を促した。

 続いて発表されたのは、ハクビシンやアライグマなどの害獣問題へのドローン活用だ。板橋区内では、家屋侵入や農作物被害が多発している。生徒たちは、ドローンには「広範囲を短時間で捜索できる」「夜行性動物を夜間に探せる」「少人数で作業できる」といった利点があると分析した。加えて、カラス被害への対策として、カラスの剥製を装着したドローンや、ハサミ付きドローンによる巣の撤去などの案も提示された。

写真:スライド資料を使って発表する生徒
ハクビシンやアライグマなどの害獣問題へのドローン活用について発表が行われた。

 このテーマでもサーマルカメラ搭載ドローンによる実験が行われたが、人間が1分30秒ですべての対象を発見した一方、ドローンは10分で3つしか見つけられなかった。結果として、人間のほうが圧倒的に速く正確だったという。ただ、生徒たちは「ドローンは万能ではないが、人が立ち入れない場所や夜間に当たりをつける役として有効ではないか」と結論づけた。また、カラス対策についても、ドローンに搭載したスピーカーから鳴き声を流して群れを移動させるなど、人間もカラスも傷つけない方法を追求したいと語った。

写真:スライド資料「ドローンは「当たりをつける役」に向いている!」
害獣問題では、人による調査の前にドローンを使い、当たりを付けることが有効であるという結論を導き出した。

 熊田氏は、ドローンによる実証が効率的な成果を出せなかった点について、隠さず共有した姿勢を高く評価した。「適用限界をきちんと直視している点が非常に勉強になります」とコメントした。池辺氏も、AIによる画像解析や鳴き声研究が、今後の害獣対策の鍵になるとアドバイスを送った。

板橋区内の農業への適用に期待

 防犯や見回り業務へのドローン活用についても発表が行われた。発表者は、日本社会が抱える災害の多発、高齢化、人手不足といった課題に着目。AI検知やLTE通信など、近年進化しているドローン技術を活用すれば、人力よりも早く、広範囲かつ安全に監視業務を行えるのではないかと仮説を立てた。

 実証実験では前述と同様の条件で比較を行ったため、人間に有利な結果となった。しかし発表者は、「ドローン自体に問題があるのではなく、利用環境の条件が大きく影響する」と分析。「今後はドローンが真価を発揮できる場面を探していきたい」と展望を語った。

 これに対し、実証実験に携わったブルーイノベーションの担当者は、「100カ所、100ヘクタール、100時間耐久といった条件になれば、ドローンが圧倒的に有利になります」と説明。より広い視点で条件設定を変えながら研究を続けてほしいとエールを送った。

 熊田氏も、点検や監視というドローンの主要活用分野を的確に捉えている点を評価。「広さ、高さ、風、天候などの条件をマトリックス化し、実験を重ねていけば、社会人顔負けの成果につながるのではないでしょうか」と期待を寄せた。

 最後は農業ドローンについての発表だった。発表者は、1、2年生時から農業分野におけるドローン活用を調査してきたという。少子高齢化が進む中、農作業の効率化や生育状況の把握にドローンが有効である一方、同級生の多くがその存在を知らなかったことに驚き、普及の必要性を感じたと語った。発表では、防除や生育モニタリングへの導入事例を紹介。「人間とテクノロジーが、それぞれ得意分野を担うことが重要」と考察した。

 板橋区産業経済部長の家田彩子氏は、猛暑による農作物被害やカラス被害が区内でも深刻化していることに触れ、「農業へのドローン導入は非常にありがたい視点です」と評価。板橋区が抱える実際の課題を踏まえながら、さらに研究を深めてほしいと期待を示した。

写真:家田氏、話をする熊田氏
生徒に期待を寄せる熊田氏と板橋区産業経済部長の家田彩子氏。

ドローンへの理解を深めた高校生たちなら解決策を見つけてくれる

 すべての発表終了後、出席者による総合講評が行われた。池辺氏は、「ドローンはあくまで道具であり、システムを作るのは人間です。人間とドローンの得意分野を補い合いながら、全体として良い仕組みを作ることが重要です」と総括。また、一般社団法人日本UAS産業振興協議会(JUIDA)顧問の青木義男氏は、生徒たちが板橋区の現状を調査し、赤外線カメラ搭載ドローンを用いた実証実験まで行った点を高く評価。「ドローンが得意なこと、苦手なことを理解したうえで、“当たりをつける役”として活用できるという考察は非常に的確だと思います。皆さんの研究が、新たな社会ルール形成につながることを期待しています」とコメントを寄せた。

 閉会後、熊田氏は今回の発表を振り返り、「生徒たちは、ドローンをまったく知らない状態からスタートし、機体の性能や適用条件まで理解するようになりました」と語った。続けて、「獣害対策の発表にもあったように、実際の野生動物は非常に素早く、物陰にも隠れます。簡単に見つけられるものではありません。しかし彼女たちには未来があります。探究プラットフォームを通じてドローンへの理解を深めた彼女たちなら、きっと将来、解決策を見つけてくれる。そんな希望を感じています」と、生徒たちの今後に大きな期待を寄せた。