建設業界の課題に応えて社会実装を牽引するリーダー企業
日本国内では、ドローンの社会実装が想定以上に進んでいない傾向にある。その中で現在、ドローンの普及・社会実装を牽引している1つが、建築・土木分野におけるドローン測量である。地上測量と比べ、広範囲を短時間かつ低コストで実施できる点が評価され、深刻化する人手不足という建設業界の経営課題に対する有効なテクノロジーとして支持を集めている。
その中でユーザー数を急速に伸ばしているのが、スカイマティクスが2017年から提供するクラウド型ドローン測量サービス「くみき」だ。ドローンで撮影した画像から、オルソ画像や点群データ、DSM(表層の高さ)などの地形データを自動生成するクラウドサービスであり、地形データ生成に加え、計測・解析、GIS、現場管理など、幅広い業務効率化を支援する機能を備える。ドローン測量の専門知識がなくても扱える高い操作性も特長で、導入現場数はすでに5万件を突破した。
「大手ゼネコンを中心にニーズが確実に顕在化している。現在もかなりのペースで導入現場が拡大している」と語るのは、スカイマティクス代表取締役社長の渡邉 善太郎氏である。
我慢の中で痛感した「本当に必要とされる価値」の大切さ
スカイマティクスの創業は2016年。衛星画像ビジネスに携わっていた渡邉氏が、「地理空間情報を通じて、より広範な民間企業の課題解決に貢献したい」と考え、自ら試したドローン測量で得た確かな手応えが、同社設立の原点となった。
しかし、事業化は決して順風満帆ではなかった。創業当初は、国が推進していたスマート農業の支援を背景に、作物の生育状況の把握や農薬散布などを行う農業向けドローンサービスで一定の成果を上げたものの、「補助金があってこその需要だった。終了後は依頼が急減し、現場の真のニーズに根差したサービス開発の重要性を痛感した」という。さらに、ドローン機体開発への参入と撤退という苦い経験も味わった。
その後、くみき誕生の転機となったのが、「海外の鉱山でドローンによる3D測量が急速に普及している」という情報だった。国内に置き換えれば、建設現場で同様の活用が可能であり、盛土・切土の土量計算など、後工程の多様な業務効率化にもつながると考えた。
「当時、国土交通省主導で建設現場のデジタル化を推進するi-Constructionが動き始め、建設現場の生産性向上が強く求められていた。人手不足への対応として、ドローン測量のニーズは確実に高まると判断した。国内の総建設投資額は70兆円を超え、測量および周辺業務だけでも十分な市場規模が見込めた」と渡邉氏は振り返る。
潜在市場を確信しての経営資源の集中投下
スカイマティクスは創業以来、画像処理プラットフォームの開発に一貫して取り組んでいる。「ドローン測量を広く普及させるには、誰でも使える操作性と、お客様の業務を変える機能の両立が不可欠だ」という実体験に基づく考えが背景にある。
このプラットフォームを基に、2017年に市場調査の一環としてクラウド型の地形データ自動作成に機能を絞った「くみき」のプロトタイプを無料公開したところ、想定を大きく上回る申込数を記録。これにより潜在市場の大きさを確信し、経営資源をくみきに集中投下する決断を下したという。直近の目標としたのが、国土交通省の公共測量基準を満たすデータ品質の実現である。この取り組みを機に商用版ユーザーが着実に増加し、2023年には国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)に登録された。「これをきっかけに、ニーズに火が付いた」と渡邉氏は語る。NETIS登録には導入効果などの裏付け資料の提出が必要なため一般に数年を要すが、くみきはすでに導入実績が数多く存在し、半年ほどで認定を取得している。
一方で、ドローンはほとんどの企業にとって新たに触れるツールだ。その活用では新たな知識やノウハウの修得が欠かせず、それがドローン利用を踏みとどまらせる“壁”の1つとなっている。その打開策として、スカイマティクスではくみきの機能自体と周辺サービス拡充を推し進めてきた。
機能面での代表的な施策が、くみきのウリでもある画像データからの地形データ生成におけるAIによる作業自動化だ。地形データの生成では従来、専門知識を備えた人材による測量アプリ側の細かなパラメータ設定作業が必要とされ、それが成果物の品質のばらつきの原因にもなっていた。対してくみきでは、撮影後の作業で行うのはデータのアップロードだけと、人の作業を徹底的に省き、それが省力化と高いデータ品質の維持、そして地形データ生成の属人化の解消に貢献している。
現場の“可視化”を軸に建設DXツールへ進化
スカイマティクスは、ドローン運用を検討する企業向けに、ドローン測量や点群処理についての実践的な学習サービス「くみきトレ」や、BPOサービス「くみきGO」も展開する。また、渡邉氏は、「どの機種のドローンを利用すべきかとの問い合わせも多く、推奨機種を提示するとともに、ドローン本体とくみきを組み合わせた提案も行っている。ニーズに応じて柔軟に対応する」という。
そのうえで現在、特に注力しているのが、建設工程の進捗管理を支援する「現場の可視化」だ。ドローンによる定期的な撮影と時系列比較により、作業進捗を視覚的に把握でき、従来の煩雑な現場確認や管理業務の大幅な効率化が期待できる。
建設現場では作業の進捗に合わせて状況が日々、変化し、その中での現場の把握/管理は建造物の納期遵守や品質管理、協力会社への仕事の発注、完了後の請求対応で不可欠だが、作業は各工程における広範な現場での作業確認や、証跡としての写真撮影、進捗に合わせた管理表の更新など非常に雑多で煩雑だ。だが、ドローンで継続的に現場を撮影し、時系列で比較することで、どこで、どれだけ作業が進んだかを視覚的に容易に確認できる。画像を共有し、日々の指示や注意事項などを書き込むことで、従来からの表計算ツールやプレゼンツールによる管理と作業指示の抜本効率化も見込むことができる。
「くみきは測量ソフトであると同時に、GISソフトでもあり、スマホや360°カメラなどのあらゆる空間データの取り扱いと土量計算の効率化の支援機能など建設現場で必要な機能も早い段階から標準的に備えている。その後工程での作業支援を見据え、23年頃から現場の施工管理の機能強化に本腰を入れた。特にゼネコンからの評価が上々で、くみきをリモートセンシング技術を基盤とする建設DXツールとして認識するところも増え、進捗管理のために日々、ドローンを飛ばすところもすでに少なくない。ぜいたくな悩みだが、ドローン測量ソフトとして定着したくみきへの認識をどう打破すべきかが今の課題の1つだ」と渡邉氏は語った。
2月25日、スカイマティクスは、空間データ統合プラットフォームへの進化を目的に「くみき」の大型アップデートを実施し、新たに「GISプラン」の提供を開始した。今回のアップデートでは、最新オルソ画像を基盤とした地図上に、写真・動画・点群・図面などあらゆる空間データを一元管理できる環境を強化。画像アップロードのみで高精度な地形データを自動生成する機能、専門ソフト不要のGIS機能、測定・描画・コメント機能など現場管理機能を拡充した。さらに、PDF図面の重ね合わせやGL/FL設定など建築向け機能も強化している。新設の「GISプラン」は、ドローン測量を行わない企業でも利用可能で、各種データを地図上で統合管理できる点が特徴だ。「くみき」は業務効率化にとどまらず、迅速な意思決定を支援し、利益体質DXの実現を目指す。
▼スカイマティクス、「くみき」の建築向け機能強化と新GISプランを発表
https://drone-journal.impress.co.jp/docs/news/1188240.html
市場の見極めと集中投下が生んだ成功
設計BIMデータと地形データを組み合わせての、3D表示によるプレゼンテーション用図化など、くみきの活用領域は着実に広がっている。毎月の機能更新に加え、2026年には複数回の大規模アップデートも予定されており、進化は加速する。
渡邉氏は、くみきがこれほどの成功を収めた理由について、「適切な市場を見極め、そこに経営資源を集中投下できたことが成功の要因だ」と分析する。続けて、「今でも約50名の社員が総出でくみきにあたっている。リサーチによる市場の読みが当たり、そこをくみきで一点突破できたことが何より大きい。i-Construction 2.0では建設工程のデジタルによる一気通貫の作業による大幅な業務効率化が掲げられ、今後、我々は測量以外に、後工程の市場も取りに行く。実際、くみきは土木から広がり、現在は建築でも利用が急速に拡大している。眠れる市場はまだ広範に残されているはず」と展望を語る。
スタートアップとして競争を勝ち抜くための市場選定とリソース配分。その“目利き力”が、今後のドローン市場でも引き続き問われていきそうだ。
