ドローン活用の現実解の一つとして、測量分野が着実に存在感を高めている。空中から地形データを取得するドローン測量は、従来の地上測量と比べて圧倒的に効率が高く、国内外の導入事例を見てもその有効性は明らかだ。こうした分野で業績を急拡大させているのが、ドローン測量で得られたデータをSaaS型で管理・活用できるプラットフォーム「くみき」を提供するスカイマティクスである。同社は「くみき」をはじめとするソフトウェアだけでなく、測量用ドローンの提供においても大きく貢献している。
今回は、スカイマティクス代表取締役社長の渡邉善太郎氏に、ドローンビジネスに対する考え方をはじめ、ドローン市場の現状や課題、そして今後の展望について話を聞いた。
民間が扱いやすいドローンで“多様な空間データビジネス”を確立
──ドローン業界/市場をどのように見ていますか?
渡邉氏:衛星画像の解析や販売、GISシステムの開発などに携わっていた私の立場から言えば、空間データの取得手段としてドローンには極めて大きな可能性がある。衛星画像は地球規模のデータ取得が可能である一方、ビジネスとして成立させるには運用規模が大きく、顧客も政府機関などに限られがち。結果として、継続的な民間ビジネスに育てるのは容易ではない。
一方でドローンは、調査範囲こそ限定されるものの、データを迅速かつ安価に取得できる。これにより、従来ではコスト的に成立しなかった民間向けの小規模かつ多様な空間データビジネスが可能になる。スカイマティクスの創業を決意した背景には、まさにこの点への評価があった。
スカイマティクスが紆余曲折を経て最終的に選んだのは、測量用の画像解析プラットフォームの開発だった。2016年の創業当時、ドローンで撮影した画像を空間データに変換するには、煩雑な設定作業、高性能PCの導入による高額なコスト、そして長い処理時間が必要だった。将来的にドローンが普及しても、この状況では空間データ活用の広がりが見込めない。その抜本解消を目標に定め、それが今の「くみき」につながっているという。
──ドローンジャーナルでは、市場規模を毎年算出しています。これらの調査では、ドローンのサービスが想定していた以上に成長していないと感じています。
渡邉氏:ドローンビジネスは国の補助金依存の側面がいまだ強い印象だ。補助金事業は、未成熟な市場において一定の収益をもたらすが、永続的なものではない。スカイマティクスも、創業初期にはスマート農業向けの補助金で利益を上げたが、持続性はなかった。
その学びから一貫して取り組んできたのが、「顧客に喜ばれる機能」に絞ったソフトウェアの開発だ。「すごい技術」ではなく、「使ってみたいと思われる機能」でなければ、ハードであれソフトであれ、ユーザーは対価を支払わない。そうした思想が、「くみき」の開発方針の根幹にある。
「なんでもできる」が招くドローンの“没個性化”
スタートアップは体力が限られるからこそ、需要喚起と差別化のためのマーケティング(誰にどのような価値を提供するのか)を明確にすることが重要だ。スカイマティクスが建設業界にフォーカスしたのも、その戦略的判断によるものだ。建設業界はTAM(Total Addressable Market:ある事業が獲得できる可能性のある全体の市場規模)が大きく、将来的な事業性も高い。実際に特化を進めたことで、顧客から新たな機能要望が次々と寄せられ、それを取捨選択しながら高速で開発を進めることで、「くみき」は磨き上げられてきた。このプロセスは、先行者利益だけでなく、最終的に生き残るための「残存者利益」を確保する上でも有効だ。
──ドローンビジネスにおいて重要視している課題はありますか?
渡邉氏:業界全体を見ると、ドローンビジネスはハードウェア開発に偏りすぎていると感じている。ドローンで取得したデータを活用するには、くみきのようなソフトウェアが不可欠であるにもかかわらず、その重要性が十分に認識されていない。日本がモノづくりを得意としてきた弊害だろう。
一方でハードについても課題はある。「何でもできる」ことを訴求するあまり、結果として製品の個性や提供価値が見えにくくなっていること。ドローンを飛ばすには何らかの狙いがあり、メーカーとして「測量」「写真撮影」など、個々のドローンの得意領域について、メーカー自身が分かりやすく示すと良いのではないだろうか。
スカイマティクスも当初はプロダクトアウト型で、「地形データを簡単に生成する」ことだけを目標にしていた。しかし、建設業界にターゲットを絞り、顧客の声に耳を傾けるようになったことで成長軌道に乗った。「くみき」を「測量版のfreee」といった分かりやすい比喩で説明し、提供価値を明確にしたことも、短期間で支持を集めた要因だ。
ドローン産業の構造は、自動車産業に似ているという見方も興味深い。部品はサプライヤーが供給し、メーカーは設計と組み立てを担うOEM的な構造だ。市場が成熟するにつれ、カテゴリごとにメーカーが淘汰され、各社が顧客と向き合いながら独自の価値を磨いていく。その過程で機能は急速に進化していくだろう。
スカイマティクスは、「くみき」とドローンを組み合わせた提供にも取り組んでおり、今後はドローンの新たな提供方法も模索していくという。ドローン測量の効率性はすでに建設業界で広く認知されており、利用拡大は確実だ。さらに、グローバル市場でも競争の余地は大きい。実際、同社は東南アジア市場の開拓を進め、カンボジアでは現地ゼネコンや行政機関への採用にも成功している。画像データを活用した施工管理機能が高く評価された結果だ。
資金力で勝る米国発テック企業と競争できる点こそが、ドローンビジネスの醍醐味だと渡邉氏は語る。国産ドローンメーカーのライバルは中国勢だが、建設・農業・屋内狭所といった特定分野に特化した作り込み次第では、日本企業にも十分な勝機がある。意欲ある国内メーカーと連携し、「オール・ジャパン」で世界市場に挑む――技術とビジネスモデルで大手に伍して戦うことに、渡邉氏は強い手応えと魅力を感じている。
