写真:雪原でドローンを操縦する様子

 日本漢字能力検定協会が発表する2025年の「今年の漢字」には、「熊」が選定された。ニュースやSNSでも熊の出没が連日のように報じられ、地方だけでなく都市近郊でも住民生活に大きな影響を及ぼしている。自治体にとっても、熊被害はもはや一部地域の問題ではなく、防災・危機管理の文脈で向き合うべき全国的な課題となりつつある。

 環境省のまとめによると、2025年4月から2026年1月までの熊による全国の人身被害は209件、死者は13人にのぼる。一昨年の2024年4月から2025年3月までは人身被害83件、死者3人であり、熊被害はこの1年で大幅に増加したことになる。

クマの出没件数(年度別)、直近5年の出没件数(月別)
出典:環境省
2025年9月末時点の熊出没件数。2025年は6月以降出没件数が増加傾向にあるのが分かる。


 異常気象によるエサ不足、住民の高齢化に伴う林野の荒廃、さらには人里の食べ残しを学習して市街地に出没する、いわゆる“アーバンベア”の存在などが背景にあるとみられている。いずれにしても、熊被害は早急な対応が求められる深刻な「社会課題」であることは間違いない。

 こうした状況を受け、熊被害が目立ち始めた昨年秋以降、自治体がドローン関連企業と連携し、対策に乗り出す事例が増えてきた。人が立ち入るには危険な場所を上空から確認でき、夜間でも活動できるドローンは、従来の見回りや追い払いを補完する新たな防災ツールとして注目されている。今回は、ドローンによる熊対策に取り組む福島県昭和村の事例を紹介しながら、ドローンをどのように活用すれば熊対策として効果を発揮できるのかを探る。

山岳遭難対策に最適なペイロードが揃う「Skydio X10」を導入

 福島県昭和村は、福島・会津地方のほぼ中央に位置する人口約1100人の村だ。面積は209.46km²で、東京23区のおよそ3分の1に相当する。村は標高1000m級の山々に囲まれており、春の山菜採りや、秋のキノコ採りなど村外からの来訪者も多い一方で、山中での行方不明事故も少なからず発生してきた。2024年秋には、そうした遭難事故が立て続けに3件発生し、村の消防団が出動。そのうち1件では広報用ドローンを飛行させ、遭難者を発見できたという事例もあった。

 山岳遭難では、行方不明から72時間(3日間)以内に発見できなければ生存率が大幅に低下する傾向にある。一方、夜間に人が捜索に入ることは二次遭難のリスクも伴う。そこで昭和村では、遭難者の早期発見を目的にドローン導入を検討。以前から別事業で関係のあったNTTドコモビジネス(旧・NTTコミュニケーションズ)に相談し、協力を得ながら米国製ドローン「Skydio X10」を2024年11月の実証試験に採用し、2025年7月に本格導入した。

写真:手に持った「Skydio X10」
NTTドコモビジネスが国内販売を手掛ける米Skydio社「Skydio X10」。

 Skydio X10は、通常の可視光カメラに加え、熱を感知するサーマル(赤外線)カメラを搭載するほか、声かけを行うスピーカーやLEDライトも搭載している。サーマルカメラは人や動物の体温を捉えることができるため、暗闇や草木に覆われた場所でも対象を発見しやすいのが特徴だ。これらの搭載機器による遭難者の熱源探索や、地上の遭難者・捜索者への呼びかけを想定して昭和村はドローンを導入したという。

 Skydio X10導入に至った1つの理由であるサーマルカメラと可視光カメラの搭載だが、具体的な運用について、「遭難者の捜索は、サーマルカメラの方が効率的に見つけることができるのではないかと考えていました。ところが、実際には必ずしも夜間の捜索でサーマルカメラが見つけやすいとも限りませんし、昼間にサーマルカメラが役立つことも多々あります。例えば夜間捜索では、遭難者が身に着けている服に反射板があるとドローンのLEDライトが反射し、可視光カメラで発見することができたということもあります。そのため、運用時は両方のカメラ映像をモニターに映し出して活用しています」と説明した。

熊対策への転用と運用で得られたドローンの知見

 山間部に位置する昭和村では、従来から熊の目撃情報や農作物被害が報告されており、村職員が追払用花火などで熊を追い払うことで対応してきた。その結果、ここ10年ほど人的被害は発生していなかった。しかし、全国的に熊の出没が増加していくのと同時に、2024年以降は農作物被害が増加。さらに2025年10月には、村内で新聞を取りに出た男性が熊に襲われ、幸いにも命に別状はなかったものの、左手を嚙まれて重傷を負うという痛ましい事件が発生した。この出来事をきっかけに、遭難対策用として導入したドローンが、熊対策へと急きょ“転用”されることになる。

写真:並んだ3人
ドローンの運用を担当する総務課 企画創生係 係長 小林勇介氏(左)。消防団協力班(本部付け)の総務課 住民係 主事 馬場雄嗣氏(中央)。有害鳥獣担当の産業建設課 産業係 主事 栗城拓弥氏(右)。

 村のドローンパイロットは3名。総務課 企画創生係長の小林勇介氏、総務課 住民係(消防団協力班)の馬場雄嗣氏、産業建設課の栗城拓弥氏だ。事件当日は全員が出動し、ドローンと予備電源を積んだ自動車で現場周辺へ向かった。住民の不安に対応しながら、昼から夜間までドローンでの熊の捜索を続けたという。

 その後も12月までに計84回ものフライトを実施した。これは熊の出没情報が入るたびに、村職員が迅速に現地へ向かい、住民の安全確保を最優先に運用を重ねてきた結果でもある。

 ドローンの運用は森林地帯を考慮し、高度40〜90mで飛行しながら、サーマルカメラと可視光カメラで地上を監視した。熊と思われる動物を発見した場合は位置情報を地図上にプロットし、映像とともに猟友会へ共有。さらに、村民との共有には村が運営する「有害鳥獣ダッシュボード」を活用。これは、地図上に日付と動物の出没場所のほか、イノシシや猿、鹿など種類別に記録でき、さらには目撃、被害、捕獲といった事象の情報も集約されており、村民への注意喚起も行われた。

写真:サーマルカメラで撮影した茂みの中のクマ
サーマルカメラで熊を捉えた。
写真:サーマルカメラで撮影したクマ
拡大して観察し、仕草等から動物の種類を判別する。
写真:可視光カメラで撮影したクマ
サーマルカメラで確認後、可視光カメラに切り替えることで、より正確に判別することが可能になる。

フライトを重ねて分かった、熊対策におけるドローンの有効性

 昭和村ではドローンの運用を重ねる中で、いくつかの重要な気づきも得られたという。まず、夜間や森林内ではサーマルカメラで熱源を探し、動物を発見した後にライトを照射して可視光で種類を判別するという二段階の確認が有効だった点だ。また、パイロットの小林氏は、「熊やイノシシは四足歩行であるが、エサを探す際の動きや仕草によって動物種を見分けられるようにもなってきました」という。

 一方、ドローンで熊を見つけて即座に猟友会による「緊急銃猟」を行うのは現実的ではないケースも多いという。緊急銃猟とは、2025年9月1日施行の改正鳥獣保護管理法に基づき、市街地などの「人の生活圏」に熊やイノシシが出没し人命が危険な場合、市町村長の判断で警察官や猟友会員が緊急に銃器で駆除できる措置だ。栗城氏は、「緊急銃猟は、行政手続きや安全確保に一定の時間を要します。熊は移動が速いため、むしろドローンで行動ルート、いわゆる“獣道”を把握し、そこに罠を設置するのが効果的です」と話す。この方法はイノシシなど他の有害鳥獣にも応用でき、村では有害鳥獣の計15頭ほどを罠で捕獲した実績がある。

 また、熊を追い払う目的で追払用花火の代替えとしてスピーカーから大音量を出す試みも行われており、逃走方向の制御には一定の課題が残るものの、使用場所や状況を適切に判断することで、スピーカーも有効に活用できる見込みだという。

防災ドローン運用の現実的な課題と、自治体が向き合うべき論点

 安全な監視体制が構築される一方で、課題も明確になっている。自治体が防災目的でドローンを運用するうえで、他地域でも共通して直面しうる論点だ。最大のハードルは導入コストだ。Skydio X10の導入には数百万円を要し、昭和村ではこれを村単独で負担した。当初、消防・防災用途として国の補助金活用も検討したが、補助金を使うと消防・防災以外での使用が認められず、柔軟な運用が難しくなる。そのため昭和村では、村内の設備点検など多様な用途を見据え、あえて補助金を使わずに導入を決断したという。

 また、現在のドローンパイロットはSkydio X10の所定の訓練を受けた3名のみで、長時間運用が続く熊出没時には負担となっている。今後は職員の追加育成を進める方針だが、人材確保も喫緊の課題だ。

 昭和村の取り組みは、導入当初からNTTドコモビジネスが技術面・運用面で支援してきた。同社はドローンポート(無人運用設備)を設置する実証実験においても支援を行ったが、どこに出没するかわからない熊対策では車にドローンと電源を積んで現場へ急行するという機動力重視の運用が有効であることが分かった。

 NTTドコモビジネスのプラットフォームサービス本部 5G&IoTサービス部 第二サービス部門 課長 田仲秀行氏は、「ドローンポートは無人運用を実現しますが、昭和村の事例では様々な事態を想定し、ドローンに加え電源装置などの関連機材を自動車に積み、現場に駆けつけています。こうした運用は省人化だけでなく、あらゆる状況に対応できる機動力を重視した事例となります」と話す。

写真:車の荷室に積み込まれたドローン機材やStarlink、充電用ポータブル電源
自動車にはドローンの機材のほか、衛星通信を行うStarlinkと充電用ポータブル電源も積載している。

 同社は昭和村のこれらの成果を「福島県昭和村DFR(Drone as First Responder)モデル」(緊急事態発生時にドローンを迅速に展開する方法)として整理し、今後、全国の自治体や企業へ展開していく方針だ。