新十津川町は12月22日、「北海道におけるドローン産業の現在と今後について」と題したセミナーを開催した。北海道庁、KDDIスマートドローン、ACSL、そしてドローンジャーナル編集長が登壇し、国内ドローン市場の最新動向から、寒冷地特有の技術課題、人材育成、地方実装の在り方までを多角的に示した。会場およびオンラインの参加者は200名を超え、北海道特有の積雪寒冷環境におけるドローン利活用への関心の高さが改めて示された。
本セミナーは、単なる技術紹介にとどまらず、「実証から実装へ」「地域課題を起点とした産業化」という視点で構成されており、北海道におけるドローン産業の現在地と、今後の成長シナリオを具体的に描き出す内容となった。
国内ドローン市場の現在地――拡大する市場と顕在化する「実装の壁」
冒頭では、当誌・ドローンジャーナル編集長の河野氏が、国内ドローン業界全体の俯瞰的な状況を解説した。河野氏によれば、2025年にドローンジャーナルが配信したニュースは850本に達し、2022年と比べて約2倍に増加したと報告。一方で、その多くは実証実験段階の事例であり、実装に至ったニュースが継続的に出てきていない点を業界の課題として指摘した。
市場規模については、当社・インプレス総合研究所の調査データを基に説明した。国内ドローンビジネス市場は、「機体」「サービス」「周辺サービス」の3分野で構成されており、とりわけサービス分野は、2016年の調査開始時から一貫して成長が予測されてきた。農薬散布、測量、工事進捗管理、警備といった用途が市場拡大をけん引しており、近年はドローンを自社で保有・運用する内製化の動きが顕著だと説明した。続けて河野氏は、「市場の6割から8割は内製化していく可能性がある」との見解を示した。
産業分野別に見ると、点検、土木建築、農業は着実に実装が進んでいる一方、物流分野は依然として採算性の壁に直面している。その中で、例外的に急成長しているのがドローンショーの市場だという。「2024年には約15億円規模だった市場が、2025年には35億円程度まで拡大すると見込まれており、アニメや漫画などの知的財産との親和性、花火大会での協賛ロゴ表示といった活用が、日本独自のイベント文化と強く結び付いている点が成長要因だ」と説明した。
さらに、今後の重要なトピックとしてサプライチェーンリスクへの対応を指摘した。ACSLやイームズロボティクス、米Skydioといった主要な機体メーカーの多様化に加え、日本航空電子工業、ニデック、村田製作所などの大手企業が部品供給に参入していることに触れ、「国産ドローンを巡る動きは今後さらに活発化する」との見通しを示した。また、産業用途と防衛用途の両立を意味するデュアルユースへの対応も不可欠であり、「各分野の特性を理解し、事業化まで伴走できる企業の価値が高まっている」と述べた。
北海道と新十津川町に見る「実装主導型」ドローン政策と地域モデル
続いて、道庁経済部AI・DX推進局DX推進課長の村田高志氏が、道庁の取り組みを紹介した。
道庁では2022年度から「ドローンフィールド北海道」として、ドローン利活用推進を進めており、その取り組みが全国知事会の先進政策バンクにおける令和7(2025)年度「優秀政策」に選定されたことが報告された。
道庁の施策は、「ドローンワンストップ窓口」「道内におけるドローン実証・練習フィールドの紹介」「各種飛行実証」「普及啓発イベント」の4本柱で構成されている。特にワンストップ窓口は、「ドローン相談、まずは道庁へ」を合言葉に、年間150件以上の相談に対応し、自治体や企業の実証・導入を後押ししてきたという。操縦練習や機体開発、実証に活用できる施設・土地を持つ道内自治体とのマッチングまで一元的に支援している点が特徴である。
実証事業では、積雪寒冷環境への対応や災害時を視野に入れた平時からの活用方法といった、北海道特有かつ道内自治体に共通する課題に焦点を当ててきた。その成果として、冬季運用ガイドライン、1機を複数用途で活用するマルチユースのハンドブック、災害時活用の手引きなどが整備・公開されている。
2025年度に実施した道内179市町村への調査では、今後活用したい分野として災害対策が最多となり、観光、鳥獣害対策、インフラ点検、農業が続いた。一方で、操縦者の育成、導入・運用コスト、法規制対応に加え、「気候・地形といった自然条件」が北海道特有の課題として浮き彫りになった。村田氏は「北海道では冬の厳しい寒さでも飛行できなければ通年活用は難しい」と述べ、新十津川町が取り組む寒冷地性能試験評価を高く評価した。
また、2025年度の新たな実証として、2025年11月17日に厚真町をフィールドとして「災害時における遠隔操縦ドローンの多数機同時運航実証」を実施したと報告。民間企業等が設置したドローンポートを連携協定に基づいて災害時に活用するというシナリオで、複数機を遠隔操縦して広範囲の被災状況把握や避難誘導を行う仕組みを検証した。
続いて、新十津川町の事例として、総務課企画調整グループ長の政所正人氏が、ドローンを軸としたまちづくりの取り組みを紹介した。人口約6000人の米どころである同町では、高齢化や担い手不足を背景に、2018年頃からスマート農業技術を独自に支援してきた。その結果、現在では約90台の農業用ドローンが稼働し、民間ライセンスを持つ農家は100名を超える。「農薬散布の面積は町内圃場の半数以上となる。6月から8月にかけてドローンが活用されており、その普及率は北海道内でも突出している」と述べた。
町民アンケートで明らかになった「交通」「買い物」「働く場」という3つの課題を起点に、人材育成、新スマート物流、技術開発拠点、観光コンテンツの4本柱プロジェクトが展開されている。人材育成では、KDDIスマートドローンアカデミー新十津川校を開設、車とドローンを組み合わせた配送、小学校跡地を活用したテストフィールド、ドローンフェスタやショーの開催などを通じ、移住や起業といった具体的な成果も生まれている。
さらに、ACSLの佐々木大介氏からは、新十津川町で策定した寒冷地性能試験評価要領について説明があった。低温、降雪、積雪の3分野で試験項目を整理し、用途に応じた部分評価も可能とすることで、寒冷地での導入や開発を促進する狙いだという。「実際に降雪環境でカメラの視認性や通信距離を確認する試験を実施した。試験結果をレーダーチャートで可視化することで、一目で比較することができる」と活用方法を示し、ユーザーへの説明や比較にも活用できる点を強調した。
遠隔運用と人材が切り拓く、次のフェーズ
セミナーの終盤では、KDDIスマートドローン オペレーション事業部の小林寛之氏が、遠隔運航を前提としたドローン活用と人材育成の将来像を語った。小林氏自身、2023年に新十津川町へ移住しており、同地を拠点に人材育成や地域連携を進めてきた。アカデミーでは国家資格に加え、運航管理などの領域専門コースへのニーズが高く、卒業生の中には起業する人材も現れているという。
同社が目指すのは、24時間365日、必要なときにドローンが出動できる体制である。災害時の一次状況確認だけでなく、平時の見守り、インフラ点検などを日常的に回すことで、安全性と採算性を両立させる「フェーズフリー」な運用を実現する考えだ。全国1000台のドローンポート配備計画の一環として、新十津川町にも2025年12月にポートが設置され、米Skydio社のX10が運用されている。小林氏は、「電源に接続すると自動充電による完全自動運用が可能。独自のクラウドでセキュリティ面もセキュアである。ポートの設置によってパイロットの仕事のあり方も大きな転換期になる。遠隔運用が本格化すれば新十津川町から本州の役務獲得ができる」と説明した。
熊の出没対応といった具体的な地域課題への活用事例も紹介され、遠隔運用による人的リスク低減への期待が示された。「ポートがあれば遠隔からドローンが一次状況を確認し、人的災害リスクも抑えられる」と説明。新十津川町では猟友会とも協議を開始しており、冬眠明けの2026年4月以降、現実的な取り組みを行っていく予定だという。
パネルディスカッション――「定着」を支える熱意と伴走
パネルディスカッションでは、登壇者が北海道のドローン産業の展望と課題を語り合った。
河野氏が「新十津川町の取り組みが定着している理由」を問うと、政所氏は「事業者がしっかりと地域に根付き、町民とコミュニケーションをとってくれた。行政のソフト的な支援がその効果を最大化した」と答えた。小林氏は「地域に愛される企業でなくてはならないと決めていた。町の子どもから大人まで知っていただき、それを見た外部の方が集まってきてくださっている」と語った。
村田氏は「熱心な職員や首長がいる自治体はうまく進んでいる」と新十津川町の成功要因を分析し、道庁のワンストップ窓口を通じた支援を呼びかけた。佐々木氏は「実証から実装へ移行する中で、ユースケースに応じた性能評価が必要。寒冷地試験評価要領はその観点で開発にもお客様への説明にも活用できる」と意義を強調した。
最後に各者が今後の目標を語った。小林氏は「町の単位から北海道、全国へ広げていく」、佐々木氏は「お客様の使っている環境に着眼した実用的な機体開発を進める」とし、村田氏は「179全ての市町村でドローンが活発に使われることを目指している」と道内全域への普及に意欲を示した。政所氏は「事業終了後も新たなスタートとして、ドローンの町・新十津川を伸ばしていく」と締めくくった。
