日本UAS産業振興協議会(JUIDA)と航空自衛隊第一警戒隊(三重県津市)は2025年12月5日、災害時にドローンを活用した復旧支援を行うための「災害時応援に関する協定」を締結した。
都内にて締結式が行われ、JUIDAの鈴木真二 代表理事と、第一警戒隊長で笠取山分屯基地司令を務める松永康佑 二等空佐が出席し、協定に署名した。JUIDAはこれまで陸上自衛隊の複数部隊と同様の協定を結んでいるが、航空自衛隊との締結は今回が初となる。
第一警戒隊が管轄する笠取山分屯基地は、平常時は領空侵犯や弾道ミサイルを監視するレーダーサイトとして機能しているが、大規模災害発生時には津市や伊賀市など周辺地域への自衛隊支援拠点としても重要な役割を担う。一方で基地は標高842mに位置し、市街地から直線でも約15kmと距離があるうえ、アクセスは山道に限られる。災害により道路が寸断されれば孤立の可能性が高まるという地理的課題を抱えており、そこにドローン運用の必要性が浮かび上がる。
災害対応の実績を持つJUIDAと、航空自衛隊が初めて構築する民間連携モデル
JUIDAは2024年1月に発生した能登半島地震において、石川県輪島市や珠洲市からの要請を受け、約30社のドローン関連企業と連携し、被害状況の確認や物資輸送を実施した実績を持つ。その経験を踏まえ、災害時にドローンをより効果的に活用できる仕組みとして、企業・団体で構成する民間防災組織「JUIDA-D3(ディーキューブ)」を創設し、実運用を支える人材育成として「ドローン防災スペシャリスト教育」なども展開している。
こうした活動実績と専門性を評価し、第一警戒隊から協定締結の申し入れが行われ、今回の合意が成立した。大規模災害発生時には笠取山分屯基地司令からJUIDAへ協定に基づく応援要請が出され、JUIDAは出動可能な企業を編成して同基地を中心に活動する。想定される任務には、津市など基地周辺の被害状況の把握・情報収集、山間部や孤立地域への物資搬送など、ドローンならではの機動性を生かした運用が含まれる。
災害時には国土交通省が救援用航空機の安全確保のため「緊急用務空域」を指定し、ドローンは原則飛行禁止となる。しかし、自衛隊など国の機関や自治体の依頼に基づけば、一定条件のもと特例的に飛行が認められる。平時から協定を結んでおくことは、災害発生直後に迅速な運用へ移行できる点で大きな意義を持つ。鈴木代表理事は「災害時のドローン活用がさらに進むことを期待しています。協定を締結することで、万が一の際にも迅速に対応が可能になります」と語り、制度面の整備に加えて実戦力の向上が図られることを強調した。松永隊長も「JUIDAはドローンによる災害対応能力を備えており、多様な支援が可能だと期待しています」と述べた。
また、笠取山分屯基地レーダーサイトが常時電波を発信している点については、ドローン操縦に使用する電波帯域とは異なるため運用に影響はないとの見解を示したうえで、「年に2~3回の合同運用訓練を実施し、安全性や運用面の確認を進める予定です」と今後の連携強化に意欲を示した。
今回の協定は、災害時のドローン活用を行政・自衛隊・民間が一体となって高度化させる新たな枠組みとして注目される。ドローンの社会実装が進む中、こうした官民連携モデルは全国的な標準となる可能性もあり、今後の取り組みの進展が期待される。
