株式会社ワールドスキャンプロジェクト(WSP)は10月16日、次世代エアモビリティ「STAR WALKERS(スターウォーカーズ)」の先行お披露目会を開催し、機体のコンセプトと事業展開を発表、同時に予約受け付けを開始した。
STAR WALKERSは同社が“空飛ぶスポーツカー”と位置づける一人乗り電動垂直離着陸機(eVTOL)で、ドローン技術を応用した「好きな場所に持ち運べるコンパクト設計」が最大の特徴だ。WSP代表取締役CEOの上瀧氏は、「惑星=地球(Star)を、空中散歩する人(Walker)をコンセプトに、誰もが自由に空を楽しむ未来を実現したい」と名称の由来を冒頭で説明した。
ドローン技術×3Dスキャンの融合で生まれた“持ち運べる空の乗り物”
STAR WALKERSの開発を支えるのは、WSPが長年にわたり培ってきたドローンの制御技術と3Dスキャン技術だ。
同社はこれまで、ドローンや独自のガジェットを使用して軍艦島の3Dスキャンや水中ドローンによる沈没船探索、ギザのピラミッド内部の3Dスキャンなど、世界中で高精度な立体データを取得し、保有している。こうしたセンサー制御や自動航行のノウハウが、今回のeVTOL開発を支えている。
他社が複数人を運ぶ「空飛ぶタクシー」の実用化を目指すのに対し、WSPは「個人が所有し、気軽に空を楽しむモビリティ」を目標に掲げる。イメージとしては、海辺や山間部でパラグライダーを楽しむように、STAR WALKERSで空中散歩を体験する世界観だ。それに合わせて、1人乗り用のコンパクトな設計を採用し、他社の空飛ぶクルマ・タクシーとの差別化を図っており、個人の趣味用のモビリティとして提供される点も大きな違いだ。
量産モデル「Gen 4 Plus」は2027年納車予定。全長2.0m、幅1.6m、高さ1.3mとコンパクトで、ワンボックスカーの荷室に収納できるという。駆動は全電動式で、8つのモーターとプロペラが独立して動作する二重反転式を採用。重量は146kg(バッテリー含む)で、最大離陸重量は246kg。最高速度は約60km/h、航続距離は10~14kmを想定している。
搭乗者は1人で、体重50~100kg(重りを含む)の範囲と制限を設けている。安全面から、初期段階では高さ3m程度の限定エリア内でのフライトを想定している。
WSPはまた、ドローンスクールの屋内施設を活用した「屋内型飛行体験アトラクション」の構想も発表した。これは、同社が保有する世界遺産などの3DスキャンデータにVR/AR技術を組み合わせ、搭乗者が“空中から遺跡を眺める”ような没入型体験を実現するというもの。上瀧氏は「屋内で2m上空をホバリングし、時速10kmで円を描くだけでも、驚くほど楽しい体験を提供できます」と語った。
安全性への配慮も徹底しており、8モーターによる冗長設計を採用。1~2枚のプロペラが停止しても姿勢を保ち、自動で緊急着陸モードに切り替わる。エアモビリティ開発部の藤井部長は「ガソリンエンジンの航空機とは異なり、バッテリー駆動ならではの静かで安定した乗り心地です」と自らの試験飛行体験を語った。
グローバル展開を視野に――初期600台の出荷目指す
開発は2021年の「スカイクレーン(Gen 1)」からスタートし、第二世代の「Gen 2(機体重量70kgに70kgの搭乗者を乗せて飛行)」では国土交通省の承認を受け、自動運転による有人飛行試験を実施した。今回発表された「Gen 4」を改良した量産型「Gen 4 Plus」を2027年に納車していく予定だ。価格は16万ドル(税別約2,150万円)。予約金は8,000ドル(約100万円)で、10月16日より受け付けを開始した。
WSPはすでにニューヨーク(150 Beekman Street)にショールームを開設し、グローバル市場への販売を準備している。
現在日本国内では、敷地面積や地面の状態など国土交通省が定める基準を満たす試験飛行場など限定された環境で飛行可能。上瀧氏は「日本だけにとどまらず、世界各国の航空法に則って展開していきます。2027年頃には法規制の整備も実用に向けて進んでいると想定されます」と話す。また、購入者・操縦者に対しては「安全性を最優先する」という姿勢を強調した。
WSPの理念を理解し、一定の技術知識を持つインストラクターや技術者から取り扱いを始める計画で、ドローンスクールとの連携による訓練カリキュラムも整備中であり、協業するドローンスクールを募集している。将来的には、パイロットコミュニティを形成し、安全運用の仕組みを広げていくという。
さらに一部の国では、プラモデルのように組み立てる「デベロッパーキット版」として販売する構想もあり、購入者には専用講習と適正試験の合格を義務付けるという。
販売計画について、上瀧氏は「2028年を“空飛ぶクルマ元年”と仮定した場合、初期は世界で600台の出荷を目指しています。美しい景観を楽しめるロケーションの良い場所がターゲットになります。パラセーリングやモータースポーツが盛んな地域など、“空で遊ぶ文化”が根付いている各国で展開し、世界に広げていきます」と説明した。
WSPは、ドローン技術の延長線上にある“個人の空の自由”という新市場を切り拓こうとしている。
