大手容器メーカーの東洋製罐は、同社のドローン用スプレー缶噴射装置「SABOT-3」を使った直接補修体験会を、総販売元であるセキドと共同で8月20日、22日に開催。屋根の雨漏りの補修や鳥忌避剤の散布といったデモンストレーションに加えて、参加者が実際にSABOT-3を使ってマーキング剤を建物の外壁に噴射する体験を行った。

写真:SABOT-3と専用増槽を装着したMatrice 300 RTK、スプレー缶
SABOT-3と専用増槽を装着したDJIのMatrice 300 RTK。

ドローンで補修作業が可能になる「SABOT-3」

 東洋製罐は2020年にドローンに装着可能なロボット用遠隔スプレー缶噴射装置「SABOT for Drone」を発表。この装置は、ホバリングするドローンから数メートル離れた対象物に向けて、ドローンに搭載した専用のスプレー缶からピンポイントで液剤を噴射することができる。液剤を広範囲に噴射するのとは異なり、狭い範囲に噴射できるのが特徴で、ドローンが対象物にマーキングするといった、“作業”をさせることができるという点で画期的な装置となっている。

 同社ではこの装置をDJIのMatrice 200シリーズのペイロードとして提供を開始。2023年にはDJIのMatrice 300/350 RTK向けに「SABOT-3」として発表している。SABOT-3ではマーキング剤や防錆剤、タッチアップ剤、鳥忌避剤といった液剤が用意されており、雨漏りの補修や鋼材の錆(さび)の拡大防止といった作業に利用できるようになっている。

写真:ドローンに搭載されたSABOT-3
Matrice 300 RTKに搭載したSABOT-3。
写真:ドローンにSABOT-3を装着する様子
機体への搭載はDJIのSKYPORTを介して装着する。
SABOT-3先端のノズルとカメラ、レーザー距離計
先端のノズルとカメラ、レーザー距離計。ノズルは液剤に合わせて細さを変更できるようになっている。
ノズルジンバルは機体の姿勢に応じてパン・チルト方向の二軸で駆動する。
写真:スキッドの左右に取り付けられたSABOT-3専用増槽
作業が広範囲の場合に対応できる専用増槽。Matrice 300/350 RTKの左右のスキッドにそれぞれ2本ずつ取り付けることで、最大5本を並列に接続し噴射容量を750mlに拡大する。

 この日、神奈川県横浜市鶴見区の東洋製罐テクニカルセンターで開催された体験会では、「タッチアップ塗料による雨漏り補修」「黒錆転換剤による錆補修」「コンクリート表面含浸材の散布」「鳥忌避剤の散布」「マーキング剤による外壁マーキング」という5種類のデモを実施。それぞれ対象物から2~3メートル程度離れた空中にホバリングするMatrice 300 RTKのSABOT-3から液剤を噴射するデモンストレーションを行った。

写真:屋根に見立てた3種類の折板とスタッフ
写真:板に開いた穴
写真:水性塗料で穴が塞がった様子
工場などの屋根を模したもの。SABOT-3で塗布したエマルジョン系の水性塗料が鋼板に開いた穴を埋めた。
写真:飛行しながら円盤に黒錆転換剤を噴射するドローン
写真:黒錆転換剤を浴びた円盤
錆びた円盤に黒錆転換剤を噴射。塗布した後は黒錆に転換するとともにラテックス被膜を形成する。
写真:飛行するドローンがダクト内に鳥忌避材を噴射する様子
鳥が巣を作りやすいダクトに鳥忌避剤を噴射。こうした上方への作業には、Matrice 300/350 RTKの上方ジンバルにSABOT-3を取り付けて使うことができる。
写真:飛行するドローンが壁面のピンク色のマーキング剤に水を噴射する様子
スプレー缶は水も選べ、この日は塗布した水性のマーキング剤を洗い流す作業を行った。

狙った場所に正確にスプレーを噴射する「SABOT-3」の実力

 SABOT-3はドローンを操縦するオペレーターが機体とSABOT-3の操作を行うだけでなく、もうひとつのコントローラーを二人目のオペレーターが操って液剤の噴射などを行う、いわゆる“2オペレーター”体制で作業ができる。この日の体験会では2オペレーター体制で参加者がSABOT-3の操作を行った。

 SABOT-3はDJIのペイロードSDKを利用して開発されており、コントローラーのアプリであるDJI Pilotの画面には、SABOT-3のノズル脇に付いたカメラが捉えた映像に、対象物上の噴射予測や対象物との距離、液剤の推定残量などが表示される。機体の姿勢から風速を予測し、ノズルの正面に対してどのくらい液剤の噴射位置が流れるかが表示されるため、風が弱くなった時に噴射するといったタイミングが計りやすい。これは、ペイロードSDKによって機体のIMUの情報を、機体とのジョイント部であるDJIスカイポート経由でSABOT-3が得ているからこそ実現できるものだといえる。

写真:コントローラーのディスプレイに表示されたSABOT-3のインターフェース
DJI Pilot上に表示されたSABOT-3のインターフェース。四角い枠の中にある円が液剤の噴射軌道データと対象物との距離から算出した予測位置。さらに機体姿勢から推定した風向きで、液剤がドリフト(横滑り)する方向を円内の点で示している。

 コントローラー背面のボタンを押すと液剤を噴射。ノズルから出た液剤は、対象物までの数メートルの距離を、まるで糸のように飛んでいき、コントローラーの画面で狙った目標位置にほぼ正確に塗布される。空中に浮いたドローンから風の中で液剤を噴射するというと、その的中率は決して高くないであろうという予測が、いい意味で裏切られるほどうまく目標に命中。機体のホバリングの精度と、液剤のスプレー缶とともにSABOT-3の作り込みの完成度を改めて感じさせるものであった。

屋根に対してタッチアップ塗料を噴射する様子。
ALCパネルにコンクリート表面含浸材を噴射する様子。
外壁にマーキング剤を噴射する様子。
増槽を取り付けて水のスプレー缶5本を使ってマーキング剤を洗浄する様子。

「SABOT-3」を利用した多彩なユースケース

 東洋製罐ではこれまでに、開発の過程でSABOT-3のユースケースを検証している。例えば工場の煙突の錆を隠すためにタッチアップ剤を使用。あくまでもテストケースとして煙突の一部分に適用したが、錆隠しとしては十分な効果が得られたとしている。また、トラス構造物の接合部に発生した錆に対して、応急処置として黒錆転換剤を塗布。転換剤のラテックスによって、塗膜や錆の落下を防ぐことができたという。

 また、屋外に解放された工場の天井部や、スタジアムの屋根に対して、鳥忌避剤を塗布するのにもSABOT-3を使用した結果、十分な効果が得られたとしている。特にスタジアムはそもそも高所作業車を使うことが難しいうえに、スタジアムの稼働を踏まえると作業時間が確保できないことから、ドローンによる散布が非常に有効だという。

 さらに、SABOT-3によるマーキング剤塗布は、積雪期の北海道で縁石の位置を示すという新しい使い方を生み出した。積雪がない時期にあらかじめドローンを飛行させて縁石の位置を記憶させておき、積雪期に縁石それぞれの位置に雪の上からマーキング剤を塗布。そのマーキングを目標にして除雪車が除雪を行うことで、経験の浅い除雪車の作業者でも、正確に除雪が可能になったとしている。

【SABOT-3を利用したユースケースの例】

写真:スライド画像(煙突の錆隠しタッチアップ)
写真:スライド画像(屋根の雨漏り簡易補修)
写真:スライド画像(錆劣化部の応急補修)
写真:スライド画像(コンクリート亀裂部のはっ水処理)
写真:スライド画像(倉庫の鳥忌避)
写真:スライド画像(倉庫の鳥忌避)
写真:スライド画像(スタジアムの鳥忌避)
写真:スライド画像(自動航行による除雪用マーキング)

 今回の体験会は「ドローンからの直接補修」がテーマ。「ドローンを使った点検はかなり普及してきているが、その点検結果を踏まえて補修を行うとすると、結局、足場をかけたりするといったことが必要となる。もちろん大規模修繕のような場合はそういった流れとなるが、経年が浅く、劣化や損傷の規模が小さい場合、そうした小さな修繕のためにも足場をかけるのはコスト負担が大きい。SOBOT-3が担うことができれば、作業事業者や利用者にとってメリットが大きいのではないか」(東洋製罐担当者)という。

 SABOT-3は総販売元としてセキドが窓口となっており、現時点で用意されている液剤のほかにも、ユーザーのニーズに応じた液剤を詰めたスプレー缶を用意するといった対応も可能。「Matrice 300/350 RTKを利用しているエンドユーザーやドローン事業者は多い。それが撮影だけではなく作業も担うことができれば、より有効活用できる」(東洋製罐担当者)といい、今後、さらに液剤のラインナップが増えることで、SABOT-3が使えるユースケースが増えることだろう。