米Freefly Systemsの産業用途向け中型ドローン「ASTRO」が、2024年モデルから大きなアップデートが加えられ、「ASTRO PRIME」として提供されている。“PRIME”へのアップデートにより、米国の国防権限法(National Defense Authorization Act:NDAA)に対応。日本においても電力、通信をはじめとしたインフラを中心に、日本や欧米製のドローンを求める向きがあるが、ASTRO PRIMEはこうしたニーズにも応えるものとなっている。そんな同機について、日本の総輸入元であるイデオモータロボティクスの井出大介氏に聞いた。
飛行性能を追求したプロ向けの中型空撮機「ASTRO」
古くは大型ドローンCinestar(後のALTA)シリーズや、カメラスタビライザー(ジンバル)のMoVIシリーズといった、映像撮影機材メーカーとして知られた米国のFreefly Systems。2019年には大型クワッドコプター「ALTA X」をリリースし、それまでの映像業界だけでなく、測量や点検、調査といった産業分野のユーザーも開拓している。そんなFreefly Systemsが2020年に発表したのが「ASTRO」である。
ASTROは約90cmスクエア、最大離陸重量約7kg、ペイロード1.5kgのクワッドコプターだ。4本のローターアームを折り畳むと、およそ50cmスクエアに収まるという、Freefly Systemsのドローンとしては小型のモデルとなっている。6セル157Whのバッテリーはインテリジェント化された同社オリジナルのもので、これを2本搭載して約40分の飛行ができる。
そして、最大のトピックはフライトコントローラーに米AuterionのSkynodeを世界で初めて搭載したことだ。SkynodeはAuterionが開発した次世代のフライトコントローラーで、フライトコードにはオープンソースのPX4をベースにしたAuterion Enterprise PX4を採用。さらにASTROはリリース当時最新であった、FMU(Flight Management Unit) V5を採用し、ミッションコンピューターとフライトコントローラーが通信を行い、単に自動飛行するだけでなく、機体が取得したデータを機上で処理してアクションを起こすといったことができる。
AuterionはPX4の開発者であるスイス工科大学のローレンツ・マイヤー氏が興した会社で、現在は国防省向けのドローンや火星で飛行していたドローンのフライトコントローラーも開発するなど、事実上米政府が支援している企業である。つまり、ASTROは昨今の米中を取り巻く地政学的状況を踏まえ、機体を中心としたハードウェア面はFreefly Systems、フライトコントローラーとそのフライトコードであるソフトウェア面はAuterionと、米国を代表する二つの企業が協業して作り上げたドローンだといえる。
NDAAへの対応で進化した専用送信機「Pilot Pro」
このようにDJIに代表される中国製のドローンに事実上対抗する形で、米政府の肝いりでASTROという産業用ドローンが誕生したものの、ASTROはコントローラーと機体間の通信に、中国HexのHerelinkを採用していた。しかし、米国製ではないHerelinkのシステムは、NDAAやBlue UASといったルールに対応できない。そこで、ASTRO PRIMEは、Freefly Systemsが2023年秋にリリースした「Pilot Pro」と、米Doodle Labsの通信システムを新たに採用することで、すべて米国製を求めるこれらのルールへの対応を実現したのである。
Pilot ProはFreefly Systemsが独自に開発したコントローラーで、堅牢性やプロシューマーが求める使い勝手が特徴となっている。その上でFreefly Systemsが米国で製造を行っており、NDAAおよびBlue UASに対応。また、Mesh Riderと呼ばれるDoodle Labsの通信システムは、マルチバンドと干渉を回避する機能を備え、さらにメッシュネットワークを構築することが可能で、安定した通信が可能となっている(Doodle Labsの通信システムは取材時点で日本においては未承認)。
高解像度カメラのほか、LiDARやスキャナーの搭載で幅広い産業で活躍
ASTROはデビュー後約半年で、純正のペイロードとしてソニーのミラーレスカメラ「α7R Ⅳ」と専用ジンバルのパッケージをリリース。ASTRO PRIMEでは2023年にソニーがインテグレーション専用カメラ「ILX-LR1」をリリースしたことを受けて、このLR1を採用したジンバルカメラペイロードを開発。LR1ペイロードは6100万画素の可視光撮影だけでなく、サーマルカメラやレーザー距離計を組み合わせたジンバルカメラペイロードを選ぶこともできる。
また、ASTROはPX4 Dronecodeで定義された、カメラをはじめとしたペイロードのための標準インターフェースであるPixhawk Payload Bus Standardを採用しており、さまざまなサードパーティベンダーからペイロードがリリースされている。例えばWorkswell社の可視光・赤外線統合カメラペイロードや、豪Emesent社のSLAM LiDAR「Hovermap」、Inertial Labsの測量用LiDAR「RESEPI」といったペイロードが用意されている。
さらにASTROのフライトコントローラーであるSkynodeは、機体とコントローラー間の通信だけでなく、4G LTE モバイル通信にも対応している。今回、ASTRO PRIMEのリリースに合わせて日本市場においても、モバイル通信への対応を開始。Auterionではフリートや取得データを管理するクラウド「Auterion Suite」を展開しているが、ASTRO PRIMEがモバイル通信に対応することで、機体から直接インターネットを経由してAuterion Suiteにアクセスできるようになった。これにより、テレメトリーのデータや飛行中に取得した映像データなどをリアルタイムにAuterion Suiteにアップロードすることができる。
Freefly SystemsではASTROを始めドローンのモデルスパンを約6年と長く設定し、その間にプラットフォームを進化させていくというエコシステムをコンセプトにしている。そのため、ASTROのデビューから約3年を経てもなお、機体というハードウェアは大きく変わることなく、システム面を進化させたASTRO PRIMEをリリースした。同機はこのアップデートに限らず、“Made in USA”を代表する産業向け汎用ドローンとして進化していくことが見込まれる。