2021年6月4日、2022年度に有人地帯での目視外飛行(レベル4)を実現させるために必要な航空法の改正案が国会で可決。そのレベル4の解禁により、最も期待されているのがドローンによる搬送物流分野だ。これまで、第三者上空の飛行が禁止されていたことから、離島や山間部への物流配送がほとんどだったが、レベル4の実現により都市部における物流配送なども検討されている。それに加え、モバイル回線を利用し、長距離における飛行制御や映像伝送、通信を行うドローンの開発も進み、2022年以降にはさらなる利用拡大が見込まれている。本記事では、ドローン物流の現状と今後のレベル4について解説する。
※本内容は8月17日インプレス発刊『ドローン物流の現状と将来展望』に掲載した内容を再編集したものです。

ドローン物流の現状

産業分野の中でもいち早く取り組みが始まったドローン物流

 ドローンの産業利用の中でも、ドローン物流は他の分野に先駆けて、2015年頃から技術検証が行われるようになった。2016年には千葉県千葉市が国家戦略特区に指定されたことを受けて、近未来技術実証プロジェクトのひとつとして、ドローンによる宅配等の取り組みを開始。また同2016年5月には楽天が千葉県内のゴルフ場で、プレーヤーがスマートフォンアプリで注文をすると、軽食や飲料をクラブハウスからティーまでドローンが届けるという、世界初のサービスを行っている。

 このようにいち早く産業利用への取り組みとして始まったドローン物流ではあるが、そのほかの太陽光パネルや鉄塔、橋梁などの点検や、測量、農業といった分野のように商用化は進んでいない。それは、他の分野が比較的限られた空域で作業を行うのに対して、物流はパブリックなエリアの上空を、長距離、広域に飛行する必要があることから、航空法をはじめとしたさまざまな法令や社会的受容性との折り合いをつけなければならないという高いハードルがあるからだ。また、電動マルチコプターの限られたペイロードに対して、搭載できる荷物とそのニーズがまだマッチングしていないということも挙げられる。

全国各地で進められてきた実証実験

 ただし、この5年間、全国各地でドローン物流に関する実証実験は、自治体と企業が手を組んで全国各地で行われている。2018年からは国が「過疎地域等における小型無人機を使用した配送実用化推進事業」として検証実験を行う地域を募り、福島県南相馬市、埼玉県秩父市、長野県白馬村、岡山県和気町、福岡県福岡市の5地域を選定して、ドローン物流の検証実験を行っている。

 2018年11月には福島県南相馬市で日本郵便が日本初のレベル3(無人地帯での補助者なし目視外)の飛行による郵便局間の荷物輸送を行ったほか、翌年1月には秩父市で楽天が送電線の上空を空の道として利用したドローンハイウェイを使った荷物輸送を実施。また、同年3月には長野県伊那市でKDDIとゼンリンが、それまで国土交通省が研究開発していた物流用ドローンポートシステムを活用した荷物配送を行うなど、地域課題を抱える自治体とドローン物流に取り組む事業者が、それぞれのテーマを持ってプロジェクトを行ってきている。

 このプロジェクトは2020年度から「過疎地域等における無人航空機を活用した物流実用化事業」として、新たに全国13地域で「過疎地・離島物流」「医薬品物流」「農作物物流」という3つのテーマで、実証実験が行われている。

物流専用ドローンの開発

KDDIが東京都から受託した「ドローンを活用した物資搬送のための調査・検証事業」に使用した「PD6B-type3C」。
資料1 プロドローン製「PD6B-type3C」(出所:KDDIプレスリリースより)

 一方こうしたオペレーションの検証・開発とともに、物流用途のためのドローンの開発も進んでいる。KDDIはプロドローンと共同で、各地で行っている実証実験で得た知見をもとに、最大で30kgの荷物を搭載できる物流用ドローン「PD6B-type3C」を開発。この機体は2020年8月から商用サービスを開始している、長野県伊那市の買い物支援サービス「ゆうあいマーケット」の機体として使われている。また、エアロネクストは独自の重心を制御する機体設計技術「4D GRAVITY」を採用した物流専用ドローンの試作機を、2021年6月に神奈川県横須賀市で行った弁当配送の実証実験で公開。同機はペイロードも含めた機体の重心を積極的に制御することで、飛行効率を向上させたドローンとなっている。

SkyDriveは、「建設・測量生産性向上展2021(CSPI-EXPO)」で資材運搬や物資輸送を目的とした大型ドローンを発表。
資料2「建設・測量生産性向上展2021(CSPI-EXPO)」で発表した大型ドローン(出所:ドローンジャーナルより)

 さらに、エアモビリティ、いわゆる空飛ぶクルマを開発しているSkyDriveは、その技術を生かして最大30kgの建設資材等を吊下して飛行できる大型の運搬用ドローンを開発。2021年秋以降にデリバリーを開始するとしている。

『ドローン物流の現状と将来展望2021』
執筆者:青山祐介、インプレス総合研究所(著)
発行所:株式会社インプレス
判型:A4
ページ数:206P
発行日:2021/8/17
価格:CD(PDF)+冊子版 104,500円(本体 95,000円+税10%)、CD(PDF)版 93,500円(本体 85,000円+税10%)、ダウンロード版 93,500円(本体 85,000円+税10%)
https://research.impress.co.jp/drone_logi2021