ドローン体験イベント「ドローンジェニックな旅をしよう in 茶源郷 和束町」が、3月7日に開かれた。主催は近畿日本ツーリスト、企画はDron é motion(ドローンエモーション)が担当した。しかし、和束町を象徴する絶景「円形茶畑」でのドローン空撮体験が実現するには、地元出身ドローングラファの奔走があった。本稿では、イベント実現に至るまでの背景や工夫とともに、イベントの目的と当日の様子をレポートする。

5年前は「撮影お断り」だった

 和束町は、京都府の南部に位置する、日本有数のお茶の産地だ。茶葉の収穫は、年3回。4月下旬~5月、八十八夜の頃には、煎茶。梅雨明けの7月には、ほうじ茶や番茶。そして秋には、抹茶の原料となるてん茶を収穫するが、この生産量はなんと日本一だ。

 山々に囲まれた盆地に、所狭しとお茶畑が広がる風景は圧巻で、「茶源郷」はかつて人気の撮影スポットだった。しかし近年は、来訪客のモラルが低下。農家の方が、何百年もかけて手入れしてきたお茶畑に、カメラの三脚を突っ込む人もいた。農家も地域も「入ってこないでほしい」と頑なになってしまい、ここ4~5年は、メディアの取材や撮影も断るようになっていた。

茶畑農家共同の道路から許可を得てドローンを飛ばす様子。以前は、子どもがお茶の木に乗りかかったり、お弁当のゴミをお茶の木の下に押し込んで帰る人もいたそうだ。

ドローン空撮画像を見せて説得

 そんな和束町で「町おこしのために、ドローンを活用したい」とお茶農家の方々を説得してまわる、地元出身のドローングラファがいる。定年後に和束町に戻り、いまは町役場でSEとして働く、ドローン歴4年の木崎茂氏だ。和束町で、最初は自宅の茶畑で、ドローンを飛ばすようになって、お茶畑の景観に感動したという。

 ところが、農家の方にドローン空撮を相談してみても、「そんなんあかん」という回答。お茶畑が痛むという、撮影に対するネガティブな印象もさることながら、ドローンとは何かがそもそも伝わりづらい。1回だけ、とドローンを飛ばさせてもらって、写真を印刷して見せたところ、「こんなにええのか、自分の茶畑」と喜ばれたそうだ。

木崎氏(右)は、ラジコンヘリコプターが日本に入ってきた頃から飛ばし始め、自衛隊在職時には無線通信を専門に活躍、いまは和束町役場でSEとして働いている。

「ドローン×地方創生」は地元発で

 和束町では、雲海のなかに浮かぶ茶畑や、雪景色なども撮影できる。四季折々で変わる景色は表情豊かで幻想的だ。しかし、地元で暮らす人には、それらは日常の一部となっている。日本人の奥ゆかしさだろうか。当たり前すぎるその価値は、決して高く評価されることはない。

 そこにドローンという鳥の目からの景色を見ることで、日常とは異なる視点から地元の魅力を再発見できる。そこに住む人に感動が生まれ、その感動が地域の一体感になって初めて、「ドローン×地方創生」はスタートラインに立てるのではないだろうか。

 木崎氏が空撮したドローンの映像や写真をYouTubeなどで見て、「これを観光PRに活用しよう」との声が上がり、1~2年前からは、メディアにも積極的に素材提供するようになったそうだ。素材は著作権・利用条件フリーで提供。その背景には、「畑に入られるリスク」を最小限にとどめたいとのお茶農家の方々への配慮があった。

絶景「円形茶畑」で360°撮影を楽しむ参加者

ドローンを軸に、多様な人とコラボレーション

 しかし、今回のドローン体験イベント「ドローンジェニックな旅をしよう in 茶源郷 和束町」では、カメラマンやインフルエンサーの誘致に踏み切った。「木崎氏がドローングラファの窓口となり、撮影に同行して安全運航管理をしてくれるなら」と、協力的な農家の方々が現れたのだ。これまで空撮NGだった、絶景「円形茶畑」の農家さんからも許可が出た。

絶景「円形茶畑」でのドローン空撮の様子。農家の方は数百年かけてこの形を作り上げたが、一度も俯瞰して見たことがなく「お茶の収穫量が一番多くなるように、とお茶畑を作った結果こうなった」のだという

 イベントは、近畿日本ツーリストが主催し、イベント告知や参加者の事前募集、当日の送迎などを担当した。イベント企画や当日の講習を行ったのは、観光PR空撮動画やドローン教育などの豊富な実績を持つDron é motion(ドローンエモーション)。同社 代表取締役田口氏は「実は2年前から、あたためてきた企画だ」と実現を嬉しそうに語った。

機体の設定や操縦をレクチャーする様子。飛行可能エリアなどの情報がまとまったパンフレットは事前にメールで配布された

 注目すべきは、集まった参加者の多様性ではないかと思う。事前募集では50名以上の応募があったそうだが、インスタグラマー、ドローンイベントを自ら主催する空撮師、茶道家など「多様な拡散力」を持つ12名が選ばれた。ドローンは初めてでも「写真で魅せる」達人だ。絶景でのドローンジェニックな撮影をすぐに楽しんでいる姿が印象的だった。

初めてドローンを飛ばした参加者が操縦練習をする様子。飛行時には、必ずスタッフが補助者として隣に立った
田口氏とともに「ドローンジェニックな旅」を手がけてきた、絶景トラベラーはぴさや(高橋早矢歌)氏も講師として参加した(写真右)
ランチにはタイカレーや和束茶が振る舞われた
上香園によるお茶講座では、美味しいお茶の淹れ方レクチャーがあり好評だった
本イベントの画像や映像は、「#ドロジェニ和束町」「#DJIJAPAN」「#和束町」「#茶源郷」のハッシュタグ付きで、各種SNSで拡散されている

ドローンをきっかけに、「お茶に近づいてもらう」

 「若い人にも、ペットボトルのお茶だけではなく、“本当のお茶” を飲んでもらいたい。発信力のある方に来ていただき、和束茶を発信してもらいたい。」木崎氏は、イベントの狙いをこう語った。今後も、積極的にドローングラファを受け入れる予定だ。2020年1月、木崎氏やお茶農家が和束町で「茶源郷GROUP」という有志団体を発足した。問合せ窓口、農家さんへの許可取り、空撮当日の同行も行う予定だ。

 「ドローンという話題性のあるツールをきっかけに、お茶農家の方々が作業する場面を空撮するなどして農家との交流を生み、お茶にだんだんと近づいてもらう。最終的には、お茶を飲む人を増やしたい。ドローンが観光のきっかけとなり、総合的に和束茶の活性化に役立つことが目標。」(木崎氏)

参加者が空撮したパノラマ写真

 和束町は「日本で最も美しい村」連合にも加盟している絶景地。本イベントに講師の1人として参加した河田愛氏は、同じく「日本で最も美しい村」である兵庫県香美町小代でドローンを活用した地域おこしに挑んできたが、「熱量があって、ドローンのことを分かる方が、地元にいることは重要」と指摘し、新たなコラボレーションイベントを企画中であることを明かした。

 地方でのドローンの利活用は、災害、物流、測量、点検、農業など、さまざまな場面で検討されつつあるが、決してハードルの低いものではない。観光PRなど空撮から、ドローン利活用の検討を始めてみるのは、一案ではないだろうか。

絶景円形茶畑『ドローンジェニックな旅をしよう in 茶源郷 和束町』
Dron é motion(ドローンエモーション)