2025年6月3日、旭テクノロジー(以下、ATCL)は、2025年4月10日に姫路市の下水道施設において、スイス・Flyability社製の球体ドローン「ELIOS 3」を活用した下水道点検の公開検証を実施したと発表した。

 検証には姫路市上下水道局と関連事業者が参加し、老朽化が進む下水道設備の安全で効率的な点検手法として、ドローン活用の可能性を確認した。

 日本では、1950年代以降の高度成長期に整備された社会インフラが急速に老朽化しており、建設後50年以上経過する下水道設備の割合が加速度的に高くなる見込みであり、見えないリスクの増加が懸念されている。

 従来の人による点検は、柔軟な撮影や打音検査に優位性がある一方、硫化水素による人身事故が発生するリスクがあり、カメラロボットと比較した際には効率性の課題がある。また、カメラロボットや水上ロボットによる点検では、人的リスクは軽減されるが、点検範囲・撮影範囲が限定されるという課題があった。ドローンを活用した場合、これらの課題がどのような点で効率化・安全化されるか検証した。

【検証用機材】

Flyability「ELIOS 3」(スイス製) 

直径×高さ400mm×380mm
搭載カメラ4Kカメラ、サーマルカメラ
搭載ライト防塵 16,000ルーメン
飛行時間9分(高性能LiDARあり)、12分(高性能LiDARなし)
機体重量2.35kg(バッテリー等含む)
写真:ELIOS 3、ELIOS 3による点検の様子・イメージ

検証結果

 下記条件のもと、ELIOS 3による下水道点検の効率性・安全性を検証し、下水道点検のスクリーニング調査(初期診断)に有効なことを確認した。

【検証現場の条件】

マンホール直上の吸い込み風速約2.0m/s
管径1,350mm
管径に対する水量4分の1程度(電波が届かない可能性あり、専用エクステンダーを利用)

【飛行・撮影内容】

  • 本菅を約6.7m飛行し、動画と静止画を撮影(撮影後、専用ソフトウェアにて3D点群データ生成)

【主な検証ポイント】

 特殊な環境下で繊細なドローン操作が必要となるため、十分配慮しながら厳しい環境下で動画・静止画が鮮明に撮影できるかを検証し、参加者からその評価を聞いた。

1. 下水道管路点検での環境(一般的な設備・施設点検と環境が大きく異なる)

  • 電波が届かない、太陽光が届かない、高湿度な空間、狭所空間 など

2. 点検区間によって異なる環境

  • 風速の変化、流水量の変化、狭所内での方向変化、堆積物等の蓄積 など

①マンホール直上・本管内における強風の影響

 検証前のテスト飛行では、マンホールを開けた際にマンホール直上から1m程度降下した時点で機体が急速に吸い込まれる現象が発生したため、マンホール直上の風速に注意しながら行った。

 検証当日のマンホール直上の風速は約2.0m/s、ELIOS 3の性能上問題なく投下した。また、本管まで降下し、横移動でも問題なく飛行ができた。

②本管内の水量の影響

 マンホール直上から目視したところ、本管内の水量は管径に対し約4分の1であったものの、流水のスピードが速く、機体への影響が懸念されたがおおむね問題なく横移動を行った。

③撮影速度

 本管内約6.7mの撮影を、約3秒で移動。

④撮影した静止画・動画の品質

 静止画・動画を参加者に提示し、報告書作成に問題なく鮮明であることを確認した。

マンホール内の様子、マンホールの先に見える本管
左:マンホール直上から投入、右:本管に到達
サーマルカメラで水温を可視化、3D点群・静止画・静止画一覧
左:サーマルカメラによる水温測定、右:3D点群・静止画・静止画一覧

【参加者からの評価】

  • 予想以上に画像が鮮明であった。
  • 思った以上に早いスピードで移動し、撮影ができていた。
  • カメラロボットや水上ドローンに比べ、空間内での自由な撮影が可能。
  • 下水道点検のスクリーニング調査に利用してみたい。
  • 3D点群データに撮影位置が表示されているため、報告書作成時に効率化が期待できる。
  • 本管点検以外に、マンホール点検に高性能LiDARにて生成した3D点群データが有効。
  • 詳細の図面が無いことが多く、3D点群データ生成により効率的な維持管理・修繕予測ができそう。

【検証による発見】

  • 下水処理場の近隣では、マンホール直上の風速が早くドローンが引き込まれる事象を確認した。
  • 事前調査の際、マンホール直上の風速が約3.5m/sであったが、隣接するマンホールを空けたところ2.5m/s程度まで減少することを確認した。


 検証の結果、ELIOS 3は強風や流水量の影響を受けるものの、下水道点検のスクリーニング調査に有効との評価を得た。

 着水・水没のリスクと回収方法の検討、本管の直径と流水量により大口径であっても飛行不可となる状況、高湿度な環境下での撮影対策などの課題があるものの、ATCLは今後も継続して社会実装・自治体への展開に取り組むとしている。