2025年7月29日、東京大学生産技術研究所のソーントン・ブレア准教授は、OKIコムエコーズ、ディープ・リッジ・テクと共同で、内閣府総合海洋政策推進事務局が公募した「自律型無人探査機(AUV)利用実証事業/その他利用用途ビジネスモデル構築」に「港から発進して海底をマッピングするAUVと港から発進して目標物を精査するAUV調査の実証試験」が採択されたことを発表した。

 この実証事業では、自律型無人探査機(AUV)(※1)の社会実装に向けた制度環境の整備や、より実用的な製品開発等につなげることを目的として、AUVの利活用が期待される場面での実証試験を実施し、AUVの社会実装に向けた取り組みを効果的・効率的に推進することを目指す。

 海底地形の変動を詳細に把握することで、地震や津波の予兆を知ることができる。そのためには、周辺の詳細な海底地形図の頻繁な更新が欠かせない。また、海底には、送水管やパイプライン、海底ケーブル等のインフラ設備のほか、沈没船などの遺失物も存在している。これらの定期的な点検や位置確認などが求められているが、現状は大型船を使った音響装置による地形調査や遠隔操縦式無人探査機(ROV)(※2)を使う調査等が主流である。

 現状では、着水揚収作業や状態監視に複数の人員が必要かつ回収用ボートを使う運用が多いこと、長時間運用ができないことから、調査船等からAUVを展開しているが、調査船なしで運用できれば、調査範囲が広がり、傭船費や人件費、環境負荷(CO2排出量)を格段に減らすことができる。

 AUVを港から発進させることで、多大な負担による制約から解放し、AUV本来の利点を生かすことができる。

※1 自律型無人探査機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle):動力源を持ち、あらかじめ決められたルートに沿って全自動で海中を観測する装置。ケーブルがついていないため自由な行動ができる。大深度の調査では、ROVに必要な大きなケーブルハンドリング装置が必要なく、頻繁なAUV展開が可能。

※2 遠隔操縦式無人探査機(ROV:Remotely Operated Vehicle):有索の無人水中ロボット。ケーブルを通じて陸上や母船から遠隔で操縦する。海底の画像や情報をリアルタイムで伝送し、複雑な作業を行うことができる。大深度用ROV(ワーククラスROV)では、ケーブルハンドリング装置が大規模となり、大型母船が必要。

実証概要

 港からAUVを発進させる第一歩として、調査船の支援なしで2種類のAUVに以下の行動を行わせる実証試験を、沼津沖合の試験フィールドで実施する。

 AUVの着揚収基地は、静浦港土佐谷組ヤード岸壁を借用。航行型AUVは、基地から水深100m海域、ホバリング型AUVは、基地から水深50mの送水管敷設エリアを航走する。

 実証実験の期間は、2025年12月15日から23日までを予定している。

1. 航行型AUV「AE2000f」を港から発進させ、沖合の海底地形等を計測し、自力で港に戻る。これにより、日本周囲で水平分解能の高い詳細な海底地形図が短期間で計測でき、かつ頻繁に改訂できる可能性を明示する。

2. ホバリング型AUV「BOSS-A」を港から発進させ、海底に埋設されている人工物を調査し、自力で港に戻る。これにより、海底のインフラ設備や遺失物等の探索・調査は、およその位置が分かっていればホバリング型AUVのみで詳細に調査できる可能性を明示する。

 航行型AUVは広範囲を高速(2~4ノット程度)で航行することをミッションとする。ホバリング型AUVは、多くの推進器を持ち運動自由度が高く、海底への接近、定点保持、その場回頭やその場上下運動が可能。調査対象に接近して詳細観測することを主要ミッションとする。

港から発進して海底をマッピングするAUVと港から発進して目標物を精査するAUV調査の実証試験の概要図

 既存のAUV(航行型とホバリング型)が、調査船なしで港から発進して調査を行い、再び自力で港に戻ってくる性能を示すことで、その有用性と将来AUVを活用するための技術課題と必要な環境整備に関する課題等を明らかにする。