2025年5月12日、日本電信電話(以下、NTT)、東日本電信電話(以下、NTT東日本)、NTTアグリテクノロジーは、圃場にある収穫ロボットをネットワーク越しに遠隔操作し、イチゴを収穫する実証実験を行ったことを発表した。

 実証実験では、ネットワークの品質状況に応じたリアルタイムな動作制御により、高い操作性を維持した遠隔収穫作業が可能であることを確認した。

 日本の農業では、担い手の減少や高齢化などに伴う労働力不足に対応するため、スマート農業技術の導入が進んでいる。これまでのスマート農業は、主に水やり、追肥などの量や時期を最適化することで収穫量の安定化を図るもので、作業の多くは人手に頼っている。

 特に植物を扱う農業では、収穫や農薬散布などの作業を一律に自動化することが難しいため、人の判断を伴う遠隔操作ロボットの活用が重要となる。この実証では、農作業支援者が遠隔地から収穫作業を行うことを想定し、操作性に優れた収穫ロボットの遠隔操作を行った。

 遠隔操作の実用化には、操作性の向上や収穫判断をするために、ネットワーク遅延などの不可視情報を画像処理により可視化することが有効となる。ネットワークやサーバー処理の低遅延化だけでなく、万が一、高負荷状態により遅延が大きくなってしまった場合にも操作性を低下させない仕組みが、広く遠隔操作を普及させるために必要となる。

実証実験の概要

 この実証では、東京都の収穫ロボット操作者がネットワークを通じて伝送されたカメラ映像を見ながら、秋田県の圃場にあるイチゴを収穫するロボットを遠隔操作する環境を構築した。収穫ロボットのカメラが撮影した映像を画像処理用サーバーがイチゴの収穫適否を判定し、その結果を映像に追加する。操作者はモニターに表示された収穫適否の情報が表示される映像を見て、ロボットを遠隔操作して秋田にあるイチゴを収穫する。

 システム構成として、秋田県のイチゴ圃場に収穫ロボットと画像処理用サーバーを設置し、東京都の拠点に操作端末を配置した。両拠点は直線距離で約400km離れており、光アクセス回線とインターネット回線で接続している。この環境で、収穫ロボットを遠隔から精度高く操作し、イチゴを傷つけずに収穫できることを確認した。

 また同システムに、モニターの表示情報とロボットアームの速度をエンドツーエンドの遅延時間に応じて変更する機能を実装し、この機能がイチゴの収穫作業の操作性をどの程度向上させたのかを検証した。具体的には、イチゴの位置にロボットアームを1回の操作で正確に移動できた割合(成功率)を測定した。その結果、遅延が変動する環境では成功率が約50%であったが、同機能を活用することで約80%に向上した。さらに、被験者の5人全員が同機能による操作性の改善を実感した。

インターネットでつないだ秋田のいちご圃場と東京の操作拠点
遠隔収穫システム構成図

技術ポイント

 ネットワークコンピュート高速クローズドループ制御技術は、エッジサーバーでの処理時間とネットワークの遅延時間をリアルタイムに状態把握し、エンドツーエンドでの遅延時間が性能要件を満たさなくなる場合には別の経路および別のサーバー処理に即座に切り替えることで安定した低遅延サービスを提供する。今回この技術の高度化を図り、スマート農業に適用可能な機能を付加した。

  • アプリ外からの処理時間計測
     従来は、画像処理アプリに独自機能を追加し、その機能を用いてアプリと連携することで、画像処理時間を計測してした。機能の高度化により、アプリ外から入出力データを汎用画像フレームのヘッダー特性を用いて解析し、データの通過時間から処理時間を計算できるようになった。これにより、画像処理アプリに手を加えずにアプリ外のサーバーのみで処理時間計測を行えるようになる。

    システム連携機能の説明図
    システム連携機能

  • 品質通知によるシステム連携
     従来は、通信品質が性能要件を満たさない場合、別の経路やサーバー処理に切り替える制御を行っていた。より汎用的な使い方として、通信品質の状態をリアルタイムに遠隔収穫システムに通知し、システム側で制御を行うようにした。この機能では、通信品質を分析し、それを3段階に分類し、遠隔収穫システムへの通知を行う。遠隔収穫システムは、ロボットから操作端末に流れる映像に通信品質を表示し、操作者にタイムリーに通知する。また、ロボットアームを制御する情報に対して通信品質に応じた速度制御を行い、アームを減速または停止させる。これにより、エンドツーエンドでの遅延時間が長くなった場合でも操作者はその状況を把握し、操作上のストレスを軽減することが可能。さらに、遅延時間が長くなると操作精度が低下するが、アームの速度を調整することでその誤差を軽減する。

    正常時、品質劣化時(軽度)、品質劣化時(重度)それぞれのアーム速度と画面表示
    システム連携機能

【各社の役割】

NTTネットワークコンピュート高速クローズドループ制御技術の実装、遠隔操作における同技術の有用性検証
NTT東日本ICTを活用した遠隔営農支援システムのビジネス化の検討、実証における通信環境の提供
NTTアグリテクノロジー農業フィールドの提供、ロボットを用いたスマート農業の有用性検証

 この実証の成果は、通信品質の変動に対して農業用ロボットの操作性を改善する利点があることから、3社は今後、実用化に向けて取り組む方針だ。また、農業だけでなく他業界の人手不足や技術者不足を解決する技術として、実用化・汎用化を推進する。