日本無線、日本アビオニクス、ACSL、三菱総合研究所は、NEDOの委託事業「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」(以下、NEDO DRESSプロジェクト)での成果をもとに、無人航空機の衝突回避システムの標準化に取り組んできた。

 2025年4月25日、無人航空機の衝突回避システムに関する国際規格が、国際標準化機構(ISO)より「ISO15964 Detection and avoidance systems for uncrewed aircraft systems」として正式に発行された。

 この規格は、「ISO 21384-3 Unmanned aircraft systems―Part3: Operational procedures」(無人航空機システム―第3部 運航手順)を具現化するための衝突回避システムに使用されるセンサーなどの要件を規定しており、日本からはNEDO DRESSプロジェクトで行ったさまざまな実証実験成果を取りまとめた技術報告書「ISO/TR 23267: Experiment results on test methods for detection and avoidance (DAA) systems for unmanned aircraft systems」を根拠として、有人ヘリコプターとの衝突回避などを想定したユースケースを盛り込んだ。

 今後、ドローンに関わるステークホルダーが個別に進めてきた無人航空機の衝突回避技術の開発や運用実証、事業化検討などをこの規格に基づいて行うことで、グローバルな情報共有や技術開発、社会実装の加速が見込まれる。

 今回、無人航空機と他の航空機、あるいは無人航空機同士の衝突回避システムが国際標準化されたことで、技術開発の方向性を統一することが可能になるとともに、社会実装に向けた各国の取り組みが加速し、幅広いサービスの実現につながることが期待される。

写真:レーダーと光学センサーを搭載したドローン
NEDO DRESSプロジェクトで開発したセンサーの例

 現在、ドローンは農業分野等で利用が広がっており、災害時の物資運搬や遭難者捜索、物流インフラ等の用途での活用が見込まれている。一方、ドローンとドクターヘリなど、有人航空機とのニアミス実例が国内で報告されるなど、他の航空機との衝突回避がドローンを安全に利用する上で喫緊の課題となっている。

 NEDO DRESSプロジェクトでは、2017年度から無人航空機の衝突回避技術の開発を開始し、2021年度までに実証実験を重ね、衝突回避技術に関する複数の研究開発成果を公開してきた。

 この成果をもとにした日本発の提案により、2023年10月、無人航空機の運航手順の規格「ISO 21384-3:2023 Unmanned aircraft systems Part 3: Operational procedures」に、衝突回避CONOPS (Concept of Operations:運用構想)が新たな章として追加され、6ステップからなる基本的な衝突回避手順が規定された。さらに、2024年4月15日には、技術報告書ISO/TR 23267が公開されている。

NEDO DRESSプロジェクトの成果

 ISO 15964では、ISO 21384-3:2023で規定された「対象物の探知」「ターゲットの認識」「回避機動」「回避結果の確認」「元ルートへの復帰」「元ルートでの飛行」の6ステップからなる基本的な衝突回避手順を具現化する衝突回避システムの基本アーキテクチャを規定している。

 さらに、短距離衝突回避システム、中長距離衝突回避システムなど、アプリケーションに応じた構成となっており、日本からは有人航空機などとの衝突回避を想定した中長距離のユースケースへの対応を盛り込んだ。

 具体的には、無人航空機に搭載されるレーダーと光学センサーを備える衝突回避システムについて、衝突回避CONOPSの6ステップにおける各種センサー機器の役割や探知・認識距離などを規定している。

【衝突回避6ステップで使用されるハードウェア・ソフトウェア】

衝突回避の運用手順
(ISO 21384-3:2023)
衝突回避システム(ISO 15964)
ステップ操作ハードウェア・ソフトウェア
1対象物の探知レーダー
2ターゲットの認識光学センサー(カメラ)
3回避機動処理装置
4回避結果の確認光学センサー(カメラ)
5元ルートへの復帰光学センサー(カメラ)
6元ルートでの飛行処理装置
中長距離衝突回避システムの基本アーキテクチャ図

 各種センサー機器の役割や探知・認識距離についての要求事項は、日本無線と三菱総合研究所がNEDO DRESSプロジェクトで実施した実証実験などの研究開発成果を取りまとめ、日本発として提案したISO/TR 23267がその根拠と位置付けられている。

 また、レーダーを搭載できない小型ドローンのユースケースへの対応として、光学センサーのみをセンサーとして使用するアーキテクチャについても規定し、ISO/TR 23267の根拠をもとに衝突回避CONOPSの6ステップにおける各種センサー機器の役割や探知・認識距離などを規定している。

【NEDO DRESSプロジェクト成果のISO規格への反映】

衝突回避技術衝突回避オペレーション
(ISO 21384-3:2023)
・衝突回避の基本的なプロセスや各プロセスで実施されるタスクを記載
・2023年10月の改訂にあたりNEDO DRESSプロジェクトで研究開発した衝突回避技術の知見を反映
無人航空機の衝突回避技術に関する技術報告書
(ISO/TR 23267:2024)
・衝突回避の実証実験の中から重要な成果を取りまとめたもの
・関連する国際規格(ISO 15964)に関する特定の要求事項に係る根拠を提供
衝突回避センサー(ISO 15964)・衝突回避に使用するレーダーやカメラに関する要件を規定
・ISO 21384-3:2023に記載された衝突回避プロセスに沿って作成

※2023年度成果報告書 情報収集費/NEDOにおける標準の戦略的活用に資する事例等調査をもとに日本無線が作成。

【各社役割】

日本無線衝突回避システムの取りまとめ
レーダーの開発
ISO 15964の規格案の作成
日本アビオニクス光学センサーの開発
ACSL処理装置の開発
三菱総合研究所ISO 15964の国際標準化活動支援

 衝突回避手順の技術運用の標準化を受け、根拠となる文書をもとにそれを具現化するシステムの標準化が行われたことで、今後、規制当局の法制化が加速し、空の安全確保が図られ、より広範な用途においてドローンが活躍する省エネルギー社会の実現が期待される。