2025年4月25日、JDRONEは、海洋研究開発機構(JAMSTEC)、名古屋大学、テラテクニカと共同で、衛星通信により遠隔地から操縦する無人ヘリコプター(大型ドローン)の船上運用による無人島の火山観測に成功したことを発表した。

 4者は海域で発生する火山活動の調査・モニタリングのため、無人ヘリコプターを研究船から発着させ、陸地からの遠隔操縦によって火山観測を行う手法の確立を目指し、実際の海域火山観測航海中に衛星通信式の無人ヘリコプターを海底広域研究船「かいめい」の甲板から発着させ、従来困難であった離島火山の観測を安全かつ効率的に行えることを実証した。

 一般的なドローンは、バッテリーによるモーター駆動で航続時間が20分程度と短く、操縦するコントローラーから発せられる電波が届く範囲内(2~4km程度)でしか飛行ができない。一方、衛星通信式の無人ヘリコプターはエンジン駆動のため航続時間が90分程度と長く、離陸後に陸上の基地局からの遠隔操縦に切り替わるため、母船から距離のある島の観測を行うことができる。

 今回の観測では福島県南相馬から衛星通信を通じて遠隔操縦し、断続的に噴火が起きる西之島を対象に、無人ヘリコプターから吊り下げた磁気センサーを使用して、約4km×6kmの範囲の磁気分布をマッピングした。今後、他の観測装置を用いた離島火山観測への応用が期待される。

 なお同研究は、環境再生保全機構の「環境研究総合推進事業」、日本学術振興会の「科学研究費助成事業」の支援を受けて実施したものとなる。

観測の概要図(日本地図に示された南相馬と西之島の位置、西之島で飛行する無人ヘリの様子)
今回の観測の概要

 2013年から断続的に起きる西之島の噴火や、2021年の福徳岡ノ場の噴火と軽石漂流など、近年、伊豆・小笠原諸島の離島火山や海底火山に大きな活動が見られる。離島火山は上陸の機会が限られることから、調査機器を設置して観測することが難しく、研究船での周辺観測やドローンなどを活用した遠隔観測が主たる調査手段となっている。

 これまでの観測航海では、西之島の海面下の部分を研究船で調査するとともに、ドローンを活用して火山島内の岩石・火山灰採取や、島近傍での変色水の採水を実施した。2019年には、西之島の上空で磁気センサーを吊り下げた中型ドローンを繰り返し飛行させることで、島内の磁気分布を面的に把握する空中磁気測量を実施し、山体内部のマグマ溜まりの位置を推定した。2020年、西之島は爆発的な噴火により島のサイズが1.8km四方から2.5km四方程度に拡大し、ドローンで島全域を観測することが困難になっている。

 無人ヘリコプターは航続時間が長く、巨大化した西之島のような比較的広い火山島であっても一定の安全距離を保った船からの発着で観測を実施できることから、操縦者の位置に依存しない衛星通信式の機体を検討し、「YAMAHA FAZER R G2」を候補とした。同機は かいめい から発着が可能で、操縦者は陸上の運用基地から衛星通信を介して送られるカメラ映像を見ながら遠隔操縦することができる。

実施内容

 衛星通信を用いた無人ヘリコプターの船上運用により、巨大化した西之島を網羅する上空からの観測を実施した。海底広域研究船かいめいで西之島の調査に向かう海上班と、福島県南相馬でヘリ操縦を担当する陸上班の協力体制のもと、火山島への接近、ヘリの発進、観測を行った。船上からの無人ヘリコプター発進と、衛星通信による操縦の組み合わせは、火山島に対して自由にアプローチする新たな観測手段として期待される。

写真:海底広域研究船「かいめい」、船上の「YAMAHA FAZER R G2」、磁気センサーを吊り下げて飛行する「YAMAHA FAZER R G2」
上:観測で使用した海底広域研究船「かいめい」、無人ヘリコプター「YAMAHA FAZER R G2」。下:船上より無人ヘリコプターが離陸し、島の観測に向かう様子。

 西之島での観測は2025年3月に実施。海上班には、無人ヘリコプターの専門パイロットと、磁気センサーによる観測を行う地球物理学研究者が参加した。船上の海上班と南相馬の陸上班を衛星通信経由のウェブ会議でつなぎ、情報交換を行いながらオペレーションを実施した。

 無人ヘリコプターは、船上の海上班の直接操作で離陸。一定の高度まで上昇した後は、南相馬の陸上班からの衛星通信操縦に交代して観測に向かった。無人ヘリコプターは地面から高度200m程度の高さを、あらかじめ設定していたコースに沿って飛行し、飛行中は陸上班がカメラ越しの映像を確認しながら適宜飛行コースの調整を行った。約90分のフライトごとに燃料補給や磁気センサーの整備をする必要があるため、都度、船上の海上班が操縦を引き継ぎ船上に着陸させた。

 空中磁気測量は、磁気センサーを無人ヘリコプターから約5mのケーブルで吊るし、今回の対象領域である西之島の上空を飛行させることで、地磁気の分布を調べる。地磁気は通常は南北方向を向いているが、地下にある岩石やマグマの磁気的性質によって局所的に磁気の向きや強さが異なる場所(磁気異常)が見られることがある。この磁気異常の分布から、火山の内部のマグマ溜まりの形や大きさを調べることができる。磁気異常を正確に調べるには、センサーを一定の速度で安定して動かす必要があるが、無人ヘリコプターは、風などの条件を見ながら安定して飛行をコントロールできる。

 今回の観測では3日間で8フライトを行い、島の上空全域をカバーする空中磁気測量を実施することができた。

 また、地面が揺れると無人ヘリコプターの発着が困難になるが、船上で揺れやうねりがあっても、ある程度の範囲であれば発着できることがわかった。さらに、無人ヘリコプターが約90分のフライトを実施している間に、島の沿岸域に中型・小型ドローンを飛行させ、1フライト10~20分程度で変色水の採水や地形測量など従来の火山観測を並行して行い、効率的な観測を実施できることを確認した。

西之島での空中磁気測量結果

今回の観測で得た西之島上空の磁気分布。島全域と一部周辺海域をカバーする高品位なデータを得た。
写真:採水器を吊り下げて船上から発着する採水用ドローン、採水を実施した変色水エリア
左:無人ヘリコプターの観測中に変色水を採水するため発着する採水用ドローン。右:採水を実施した西之島沿岸域。濃い茶色に濁った場所を狙い採水を行った。

 空中磁気測量により取得した西之島の磁気分布は、詳細な解析が可能な品質であることを確認。今後、地下構造を推定した手法をさらに改良して観測データの分析を進め、2020年の爆発的な噴火のあとに西之島の内部がどのように変化したのかを明らかにしていく予定だ。