2025年1月16日、富山大学は、2024年10月24日から12月4日のうち5日間、神通川河口沖合および庄川・小矢部川河口沖合において、海底斜面の水中ドローン探査を実施し、多数の「海底地すべり」の痕跡を直接撮影することに成功したと発表した。この調査は富山大学が主導し、京都大学と金沢大学の研究者が参加した。
令和6(2024)年能登半島地震により発生した津波は、能登半島北部を中心に大きな被害をもたらし、北陸地方沿岸にも到達した。中でも富山湾南部は津波の到達が異常に早く、その発生原因として富山湾南部の大規模な「海底地すべり」が指摘されている。また、地震直後の定置網の破損やカニ籠の喪失、シラエビの不漁などの漁業への影響も、海底地すべりがその要因である可能性が言及されている。
今回、神通川河口沖合および庄川・小矢部川河口沖合の2地域において水中ドローン探査を行い、複数の地点で海底地すべり痕跡の直接観察に成功。崩壊堆積物や崩壊面の態様、生物の生息状況などの実態を明らかにした。これらの情報は、能登半島地震時の津波や漁業被害の実態解明のほか、今後の対策を検討する上でも有益な情報になると考えられる。
神通川河口沖合の調査
神通川から連続する海底谷の沖合約4kmの地点で調査を実施した。ここでは、海上保安庁が2024年1月に大規模な崩壊地形の存在を報告しており、崩壊地形が報告された海底谷底から海底斜面まで、鉛直方向に連続して水中ドローン探査を行った。
海底谷底(水深約350m)では、比較的平坦な地形を細粒で軟らかい堆積物が覆い、シラエビやゲンゲなどが生息する様子を観察した。西向きの海底斜面の下端付近(水深約350~330m)では、ブロック状に砕けた岩石(後述する海底斜面の壁面に露出した陸源性砕屑岩(さいせつがん)層に由来)が散乱し、海底斜面(水深約350~270m)では、陸源性砕屑岩層が露出した落差数十mに及ぶほぼ垂直な崖が連続する様子を確認した。ブロック状の岩石や砕屑岩層は半固結状態と判断でき、その断面は新鮮で、谷底で観察されたような細粒物質の堆積はごく少なく、付着生物はほとんど認められなかった。崖の上(水深約275m以浅)では、緩斜面を細粒物質が覆い、海底の堆積物には巣穴と思われる穴が多数あり、ゲンゲやクモヒトデなどが生息する様子を認めた。
探査の結果、調査地点では、高低差約80mの崖全体にわたって半固結状態の陸源性砕屑岩層からなる岩盤が崩落、あるいは深層崩壊を起こしたものと解釈される。崖の壁面やブロック状の岩石に見られる岩盤の断面が新鮮(風化をほとんど被っていない)であることや、付着生物の欠如はこの崩壊がごく最近発生したことを示しており、令和6(2024)年能登半島地震により崩壊したことが強く示唆される。
同地域は、海上保安庁により、この十数年の間に生じた崩壊地形の存在が報告されていたが、今回の調査により実際に崩壊が生じていること、また崩壊時期がごく最近であることが明確になった。
庄川・小矢部川河口沖合の調査
庄川・小矢部川河口から連続する海底谷の複数地点(地点I~IV)で水中ドローン探査を行った。ここでは、新湊漁業協同組合が2024年に海底地形測量を実施しており、今回の調査地点の選定で参照した。
地点Iでは、水深約270~240mの西向きの海底斜面に崖があり、連続探査の結果、谷底付近に散在する岩石ブロックと、陸源性砕屑岩層の岩盤からなる落差数十mの崖を認めた。これらは神通川河口沖合と同様に新鮮な断面を持ち、崖の壁面に付着生物はいなかった。なお、この崖の壁面の上部では鉛直方向の大規模な開口割れ目を発見し、崖の上の緩斜面は細粒物質で覆われていることを確認した。
地点IIでは、水深約200~170mの西向きの海底斜面で大規模な崖が見つかったが、崖の壁面は新鮮ではなく、広い範囲でゴカイの棲管(せいかん、管状のすみか)や二枚貝、海綿などの付着生物とオレンジ色の表面沈着物を認めた。
地点IIIでは、水深約330~290mの北向きの海底急斜面に、新鮮な断面を持つブロック状の岩石が多数散在し、漁具の一部と思われるロープの上に載っている様子も確認した。
地点IVでは、水深約300~280mの平坦面上に、巨大で新鮮な断面を持つ、崩壊した岩石ブロックや鉄製人工物が散在する様子を確認した。また、地点III・地点IVでは、細粒で軟らかい堆積物が、散在する岩石ブロックの間を埋めるように分布し、その上に、2024年に販売されたパンの包装袋や、最近のものと思われるペットボトルなどのゴミが載っていた。
探査の結果、地点IIを除く複数地点で海底に散在した新鮮な岩石ブロックを認め、ここでも令和6(2024)年能登半島地震時に崩壊が多数発生したことが示唆された。特に地点Iでは、新鮮な崖の壁面が観察され、神通川河口沖合の崩壊地形と同様の比較的大規模な崩壊が生じたと考えられる。一方、地点IIは、崖面の広範囲に多数の付着生物や表面沈着物が認められることから、この地点では、崩壊後ある程度の時間(少なくとも数年以上)が経過しているものと推定できる。また、地点IVでは、本来平坦であったと思われる海底面上に、岩石ブロックなどの大きな異物が散らばっていることから、網が根がかりするなど、今後の漁具被害が懸念される。
同地域では、2024年12月、海上保安庁がこの十数年の間に生じた崩壊地形の存在を報告しているが、今回の探査の結果、崩壊がごく最近に生じていたことや、海上保安庁の報告よりも多くの地点で発生していたことが明確になった。
両地域で海底地すべりの痕跡を確認
調査により、神通川河口沖合、庄川・小矢部川河口沖合の両地域で、令和6(2024)年能登半島地震によって引き起こされたと思われる多数の海底地すべり(海底斜面の崩壊)の痕跡を確認した。また、調査地点では、崩壊痕跡を海底谷底から崖上まで、鉛直方向に連続して撮影することに成功。崩壊様式や底質(堆積物)、底生生物の分布に関する具体的な情報を高解像度の映像として取得できた。
この結果、両地域における大規模な崩壊は、半固結した陸源性砕屑岩からなる岩盤(地層)が破壊され、深層崩壊もしくは鉛直方向に崩落することによって生じたものと解釈できる。庄川河口沖合の海底谷周辺ではシラエビの漁獲量が激減しており、海底地すべりの関与が疑われているが、今回、海底地すべりによって広い範囲で海底の様相が大きく変化していることを確認した。
富山湾南部で観察した崩壊(海底地すべり)の痕跡は幾つかのパターンに分類できると考えられ、それぞれの崩壊様式について、今後引き続き検討を進める。また、今回確認した海底地すべりの規模や崩壊様式がどのような津波を引き起こすのかについて、シミュレーションなどによって検討していく予定だ。
【使用機体】
- FullDepth製水中ドローン「DiveUnit300」「Tripod Finder-II」
- Chasing-innovation Technology製水中ドローン「M2 PRO」